時代の変化を念頭に置いたクラウド時代のERP+SCE/SCPから取り組む「変身」戦略

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第68回「ERP再生計画:未来志向で取り組むERPとSCE/SCPの革新でトランスフォーム「変身」に挑む~時代の変化を念頭に置いたクラウド時代のERP+SCE/SCPから取り組む「変身」戦略~」をご紹介します。

□はじめに

 令和6年度の桜は、平年より5日遅く東京では3月29日に開花を迎えました。これは昨年より15日も遅い開花でした。そして、日銀は17年間におよぶマイナス金利解除を決めあとは利上げに踏み切るところまで来ています。しかし、為替レートの円安は未だ止まらず、34年前のバブル期の水準です。バブル経済、その後のITバブルなどから続く失われた30年の呪縛が解けて日本経済が再び成長へ舵を切ることを願いたいところです。さて、このコラムはERP再生をテーマに掲げていますがここ数回はサプライチェーンについて取り上げています。その理由は大きく2つあります。1つ目は、サプライチェーンを考える大前提として組織や品目など全社共通のマスタを一元管理する仕組みがERPとなるためです。もちろん、スクラッチ開発や他システムで独自の基幹システムを構築している企業もありますが、企業における経営と事業を網羅する標準システムとしてERPが優れているのは間違いありません。そしてスクラッチ開発の独自システムは海外展開できません。2つ目は、サプライチェーンが企業の経営戦略と事業戦略の要となる仕組みであり、その違いによって同じ業種で同様の製品を扱っていてもサプライチェーンの違いが企業の個性や業績に直結しているためです。前回コラムでは、サプライチェーンからビジネスモデルを見直す話をした理由がここにあります。2024年は、大きな転換点となる可能性が高いと筆者は考えています。政治、経済、軍事、市場環境ですでに大きな変化が見られますが、ポイントは過去に捕らわれず5年先、10年先の大きな変化を考慮した見直しと準備を早急に進める必要があると思います。ERP見直しは、柔軟かつ拡張性の高いコンポーザブルERPをSaaS型クラウド“フィット・トゥー・スタンダード”で導入する。これに伴って過去の足枷となるアドオン/カスタマイズを排除して、バッチ連携からAPI連携へ刷新する。サプライチェーン見直しについては、国/地域ごとのブロック経済化を想定した「日本拠点+海外複数拠点展開(Japan+Multiple overseas bases distribution)」へ移行するとともに、全ての拠点データをクラウド上でリアルタイム統合したIT+OTデータレイクの構築とこのデータを活用したAI予測システムとデジタルツインの実装が新しい企業インフラとして必要と予想しています。先行企業はこうしたソリューションの取り組みを着々と進めています。以下図表は、前回コラムの図表3と4でご紹介したものです。今回この「日本拠点+海外複数拠点展開」をテーマとして、ERPとSCE/SCPの見直し(俗に言う“全社DX戦略”)の基本となります。

(前回図表3、SCM業務モデル管理項目12、その目的と範囲をシンプルに絞り込む)

(前回図表4、SCM業務モデルの12項目のデータは複数システムにまたがって存在する)

■部分最適DXより全社本丸DX、ERP+SCE/SCPの刷新によるトランスフォーム「変身」

 2024年は、過去とこの先5年、10年を分ける大きな変化点となる年です。

 この分断を想定して、日本企業の多くが既に動き始めています。具体的な変化が見られるのは、3~4年間の中期事業計画作成を辞めて5~10年間の中期計画、中長期計画を作成している企業が増えていることです。これは市場変化が激しすぎて、3~4年間の目標数値を掲げた事業計画には既に意味が無いことに気付いているからです。もしもあなたの企業トップが、これまでと同じ様に3~4年間の中期事業計画を今から作ろうとしているならば、すぐにトップ交代を促すか転職した方が良いと思います。恐らく5年後にその会社は衰退して、最悪場合どこかに買収されるか業績悪化による解散・倒産もあり得るでしょう。歴史小説で言う「群雄割拠の時代」が到来したのと同じです。さて、コロナ禍までは日本企業は「日本と中国+アジア拠点展開(チャイナ・プラス・ワン)という戦略を採る企業が大半でした。これは安定成熟した国内市場と急成長していた中国および新興アジア諸国の市場を獲りに行く戦略です。しかし、コロナ禍と米中対立、そして中国経済のデフレ経済突入によってこれを大きく転換する必要が出てきました。経済産業省の通商白書2023には中国起点のサプライチェーンリスクが強く懸念されています。また、サプライチェーン混乱を収拾する策として成長戦略として国内とASEAN・インドに軸を移した「日本拠点+海外複数拠点展開(ジャパン・アンド・マルチベースディストリビューション:Japan+Multiple overseas bases distribution)」が紹介されています。さらに地球温暖化対策による、EUの環境規制(脱炭素、CBAM:実質的な国境炭素税によるブロック経済化など)、米中対立による中国企業・中国製品の排除、世界各地で勃発する紛争・戦争によるサプライチェーン網分断など市場環境は毎日大きく変化しています。つまり、想定される変化と想定外の変化に耐えられる全く新しい基幹システムDXが必要となるのです。

 具体的には、①ERPシステムとSCE/SCP(サプライチェーン実行系と計画系)の刷新(クラウド化、標準化)、②国内外全拠点の状況をリアルタイム把握できる統合データ基盤(クラウド化とIT+OT統合データベース:データレイク構築、他のプラットフォーム連携・データスペース連携)、③AIによる予測とデジタルツインによるリモートコントロール。以上、3つが全社レベルのDX戦略に関わる中心システムとなります。このシステムは、欧米企業のみならず国内大手・中堅企業で既に導入が進んでいます。その個々のプロジェクトはERPシステムの刷新や、サプライチェーン関連システムの導入、AIシステムによるデータ活用と言ったタイトルで細かく紹介されていますが、IT系メディアは企業が将来の事業戦略や中長期戦略を理解していないため断片的な紹介となっているのが残念なところです。

(図表1、世界経済の分断の危機:通商白書2023より)

(図表2、我が国企業のサプライチェーンの把握状況と課題:通商白書2023)

(図表3、サプライチェーンリスクに対する認識の高まり:通商白書2023)

(図表4、サプライチェーン強靭化のためのサプライチェーン戦略策定の見直しポイント)

(図表5、①ERP+SCE/SCP、②IT+OT統合データベース、③AI・デジタルツイン)

■未来志向で取り組むサプライチェーン強靭化とシステム構築のカギはトランスフォーム

 前回コラムでは、ビジネス環境の大きな変化を考えて企業のビジネスモデル、サプライチェーン業務モデルからサプライチェーン・デザインを見直すというお話をしました。その理由は、様々な要因が複合的に絡み合っていることはご存じの通りです。いずれにしても、従来のやり方に多少手を入れたレベルでは対処できない可能性が高いと予想されます。既に、自動車業界におけるEVシフトや脱化石燃料の動きが混沌としていることや、これが自動車業界とその関連産業を巻き込んだ産業構造の再編につながっているのは周知のとおりです。EVシフトについては、BYDなど中国EVメーカーによる過剰生産と安値販売によってEU市場や米国市場で貿易問題となっています(日本は中国EV車にまで補助金出しています)。さらに、EV車の未成熟な技術的問題によって寒波によるバッテリー性能低下やバッテリーステーション不足などが原因でEV車需要が大きく伸び悩んでいます。自動車産業は、波及効果が大きいことから今後もさらに混乱は続くと予想されます。自動車産業に直接関わらない業種においても、需要と供給のバランスが大きく崩れたことが理由で、企業やユーザーのトレンドが大きく変わらざるを得ない状況にあるのが建設業界やその周辺産業(建設機械、建材の鉄鋼やセメントなど)です。また、医薬品業界や物流業界、食品業界も人手不足による人件費や原材料、燃料価格の高騰などコスト増による影響が深刻です。多くの産業でサプライチェーンに大きな変化が出ていると言えるでしょう。

 これまでの延長線上で事業戦略を策定しても、これまで経験したことが無い問題が次々と生じる可能性は高いと思われます。サプライチェーンにおいても同様です。これからの基幹システム刷新する重要ポイントは、「シンプル、スピード、スタンダードの3つの“S”です」。シンプルは、業務プロセスを単純化するという意味です。ERPシステムやSCE/SCPシステムでは、経営資源のヒト・モノ・カネを扱いますが、これをシンプルにするという意味です。シンプル化によって、計画と実績の乖離を即時に察知することが出来ます。スピードは、その変化を察知して素早く判断、行動することを意味します。従来のやり方だと、複数システムや部署ごとのExcelシートから集めた情報を読み替えて調整してようやく欲しいデータが手に入ります。判断する時間よりも、情報を入手する時間の方が掛かるのでは意味がありません。さらに、組織ごと・人ごとにオペレーションがバラバラで属人化していると、どれだけ正しく素早い判断を下しても結果もバラバラで揃いません。これがスタンダード“標準化”する目的です。過去の慣習のままに業務を行うことと、「標準化することで得る価値」と「独自に固有化して付加価値を出す価値」は異なります。付加価値を明確な売上/収益に置き換えられるのならば、これはリソースを投入して伸ばすべきです。ここに差が無ければ、業務プロセスを強制的に標準化して場合によってはアウトソースした方がコストダウンできます。ERPシステムやSCE/SCPシステムをクラウド化してSaaS型に置き換える理由がここにあります。「フィット・トゥー・スタンダード」の本質がここで見極められます。

 さらに、乱立しているシステムごとのデータベースから共通するデータを抜いて統合データベースとしてクラウド基盤上で統合すると他部門や他工場とデータ共有して問題が生じても相互に協力して対処できるようになります。同じ項目のデータを他企業、他部門、他工場で相互に見られる環境を整えることが、データを読み解く人のスキル向上につながります。重要となるのは、統合データをAIや機械学習ML(マシンラーニング)に読み込ませて、その複数の分析結果からどれを選択して実行するのかを決めるのは人だということです。つまり、AIがどれだけ賢くても正しい答えを選択する人のスキルが低ければ失敗してしまいます。データから何を読み解くのかがカギです。企業の強さは人の強さによって決まります。そして、選んだ正解をリモートコントロールする実行手段がデジタルツインです。デジタルツインを導入することで、時間と距離をゼロで業務を遂行できます。

 今回のERPとSCE/SCPシステム刷新による基幹システム見直しの狙いは次の5つです。

1,国内に拠点を置くこと(回帰すること)で事業継続性レジリエンスを高めること
(チャイナ・プラス・ワンの終了、ジャパン・アンド・マルチベースディストリビューションへの移行)

2,海外複数拠点に展開することでサプライチェーン分断による事業継続を確保すること
(中国拠点は他海外拠点と併存、ASEAN・インドなど成長市場が展開先)

3,ERPシステムとSCE/SCPシステムをクラウド化SaaS型にして「シンプル、スピード、スタンダードの3つの“S”」を追求して機動力を高めること(即時展開、即時撤退が可能)

4,人を鍛え育てるための統合データベース構築とデータ活用によるスキル育成
(高品質リアルタイムの統合データベースとAI/MLを補助ツールとして人を支える)

5,部分最適DXではなく、全社本丸DXによるトランスフォーム「変身」をプロデュース
(差別化ポイントは人のスキルと統合データベース、人がトランスフォーム「変身」を担う)

以上の5つが、基幹システム(ERP+SCE/SCP)で担う「変身」戦略が目指すポイントです。

 今回はかなりコンセプチュアルな内容ですが、大きな変化点となる2024年から未来志向で取り組むERPシステムとSCE/SCPシステムを革新する基幹システムをというテーマでお話しました。こうした大きな変化は、数十年から百年に一度あるかというタイミングだと思います。それならば、従来システムの延長線上で基幹システムの刷新を行うのではなく、トランスフォーム「変身」を意識した全社本丸DXを担う挑戦的なシステム革新に取り組むチャンスでもあると言えるでしょう。これまでのやり方を一度リセットして、5年先、10年先、もっとその先を目指したクラウドの基幹システムを一度考えて(TO-BE)、ここから到達可能なき次のポイント(CAN-BE)を目指します。その先を繋いていけばいずれ頂上が見えてきます。まずは、どの山を目指すのか、どのルートを行くのかから構想を考えつつ機敏に動き出します。小刻みに動くことで、見えてくる景色や状況変化が掴みやすくなって次第に進むべきルートが分かります。

お知らせ

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