外国の景気に影響を緩和するSCMの短縮化と強靭化とは

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第66回「ERP再生計画:2024年をサバイブするサプライチェーン戦略 ~中国と米国の景気が2024年の企業業績を左右する、SCM短縮化と強靭化のポイント~」をご紹介します。

目次

□はじめに

 2024年は、これまでにない混迷の年になるのかもしれません。コロナ禍の終息から企業業績は好転したように見えたのですが、世界各地で勃発する紛争や戦乱、国家間の対立からブロック経済化が進み、グローバル化の時代は既に終わったと言われる状況です。2024年の日本は、能登半島地震という試練からスタートを強いられています。今年は、こうした国内状況からも楽観的な見通しではサバイブできないと覚悟を決めた取り組みが求められると予想されます。その理由は、最大の貿易対象国である中国経済の悪化が予想以上に根深いことによります。中国政府(中国国家統計局)発表による2023年の経済成長は、「実質GDP成長率5.2%」と成長目標の5.0%をわずかに上回りましたが、これが真実だとしても約10年前の2010年には10.6%成長率(日本は4.1%)と比較すると半分です。そして、不動産業界が抱える1000兆円以上の不良債権が簡単に解消できないことは、バブル景気崩壊から株価を戻すのに30年掛かった日本が身に染みているパターンです。米国も日本も株価はバブル景気以来の最高値ですが、その先が視界良好とは言えない状況です。株価と実体経済が既に大きく乖離しているのは間違いなく、更なる混乱が近いのかもしれません。こうした緊張感ある状況を踏まえて、2024年をサバイブするためのサプライチェーン戦略を考察します。

(図表1、日本と中国の実質GDP成長率、中国経済はバブル崩壊した日本に類似)

■サプライチェーンの見直しポイントと見直しを阻害する属人化

今回のテーマは2024年をサバイブするためのサプライチェーン戦略ですが、その戦略判断の基になるのはERPに蓄積された実績データの最大活用と市場環境の変化に対する即応性です。実績データに基づいて、需要拡大の傾向があれば供給拡大して、需要減退ならば即時に在庫リスク対策を講じて生産計画を見直すスピードを他社より先に実行する高速回転を目指します。ご存じの通り製造業は、エンドユーザー(市場)の需要動向に合わせて生産計画を立てますが、業種やビジネスモデルによってその生産計画と生産実行の調整に時間が掛かる企業と即応する企業があります。例えば、自動車は3~6か月間程度、パソコンは2~4週間程度、アパレルならば1~2週間などが一般的だそうですが在庫があればもっと早く入手できます。しかし、在庫が無かったり個別仕様の場合はパーツが揃わないとずっと待たされたりすることになります。コロナ禍で、たった1つのパーツが揃わないため仕掛品の山が出来たという話を良く聞きました。つまり、生産リードタイムが短ければ短いほど機敏に計画の見直しに対応できます。また、部品を共通化すれば、パーツ不足による生産計画への影響を回避しやすくなります。さらに、需要の変動に備えて製品の安全在庫に余裕を持つことでも欠品リスクを減らすことにもつながります。業績が悪くなるから「製品在庫を増やしたくない」という経営者もいますが、それならばSKUを絞り込んで金額ベースの在庫量を維持すれば良いだけです。SKUを絞り込んで、需要予測の精度を高めて売上収益を計画通りに実行することは可能です。目先の売上目的で品揃えを増やせば在庫量(金額ベース)は増えます。品揃えを増やして在庫を減らすというのは、矛盾しているのですが、金額ベースの在庫削減ならばSKUを絞り込んで、在庫を持つ製品と受注生産で作る製品を決めれば不可能ではありません。もし、品揃えを増やして在庫(金額ベース)も減らすという経営者が居るならば、あきらかに矛盾しているのですが、そんな基本的な話が理解できない経営者や役員が増えているようにも思います。コロナ禍が終わったから、以前と同じやり方で良いと言うダメな経営者が増えたことに不安を感じますが、コロナ禍前と現在では全く状況が違うと言えます。

■属人化がサプライチェーンに影響する理由と自己判断によるリスク増大

サプライチェーンが混乱する理由のひとつは、製造業の属人化によるところが大きいと思います。過去はその属人化が問題にならなかったことも要因ですが、現在は大きな問題となりつつあります。販売計画が間違っている、サプライヤーが原材料・部品の納期を守らない(守れない理由がある)、営業と生産で供給計画・製造計画の調整が出来ていない(製販在PSI、S&OP)、マーケットの需要予測が大きく変わった(予測不能の事態が生じた)など様々な理由が考えられるのですがこれも属人化の解消で回避できることがあります。企業間や組織間の連携も過去には属人的で良かったがことが、現在では大きなリスクになるケースが顕在化しています。具体的には、需要の変動が大きすぎてこれまでの感覚で内示や事前ネゴで通じた計画が狂ってしまう、さらに属人化による弊害で調整が出来なくなってしまったことが考えられます。属人化していたため他者では、何から調整すれば良いか分からず、企業間や組織間の信頼関係が失われてしまいます。全ては、サプライチェーンの計画と実績の乖離が調整可能な許容範囲を越えたことによるものです。

(図表2、製造業と属人化:属人化による弊害とリスク、会社間・組織間の調整不足)

 人手不足によって、一人の担当者が複数業務を兼務するケースが増えています。この状況は、サプライチェーンが今後さらに混乱を大きくするリスクを内包しています。つまり、需要計画が一人の営業担当者に任されていて、その販売計画の見込みが大きく変動した場合に企業は大量の在庫または欠品を持つこととなります。欠品ならば速やかに販売再開予定を市場に流すことでリスクを低減できますが、大量の在庫を抱えた場合にはその処分に困ることになります。これまでは、需要が大きく変動することは少なかったのですがコロナ禍以降はサプライチェーン混乱が続いて見通しが不透明なことから流通で在庫を積み増す動きもあって、わずかな上乗せが大きな変動につながるケースが増えています。つまり営業担当者の従来予想を越えた注文が生じやすくなっています。これまでの、月次ベースの販売計画では機能せず、より進んだ週次ベースの計画見直しが求められているのだと考えられます。PSI(製販在)調整の頻度を見直す必要があります。

 これまでは、属人的な計画策定が原因で需給バランスがズレていたとしても、製造や調達(原材料の調達とその在庫管理)でズレを調整出来ていました。しかし、先行きの見通しが分かりにくいことと、原材料やリソースを納期通りに入手することが難しくなっているため、生産や調達で調整できる限界をオーバーしていると思います。令和時代は、昭和や平成の経験と知識が通用しない時代になっていると考えられます。こうした状況を打開するためには、脱・属人化という点から、『計画頻度を見直す(月次→週次)』および『計画作成をチームで行う(個人→組織)』の2点を変える必要があります。こうすることで、変動が激しい需要と供給の計画精度を高めて対処することが可能となります。昔ながらの硬直したオペレーションを足元から見直すタイミングにあると言えます。サプライチェーンの考え方から見直して、変化のスピードに対応したサプライチェーン戦略を作る必要があります。

(図表3、属人化がサプライチェーンに影響、計画が合わなくなった理由とは⁈)

さて、今回はサプライチェーンの混乱を招いている原因のひとつ「製造業の属人化」について見直す必要があることをご説明しました。これまでのやり方が通じないのは、市場環境が大きく変わったことによるものです。変化のスピードが速くなったことに対応して、オペレーションや業務のやり方も見直す必要があります。そして、スピードについて行けない企業は、この時代をサバイブできなくなるかもしれません。

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