サプライチェーン強靭化を新しいサプライチェーン計画ソリューションから考える

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第64回「ERP再生計画の策定:製造業のERP再生計画はサプライチェーンから取り組む ~サプライチェーン強靭化を新しいサプライチェーン計画ソリューションから考える~」をご紹介します。

□はじめに

 製造業の基幹システム導入で難易度が高いのは、やっぱり販売と製造に関するところだと思います。なぜならば、同じモノを作っているメーカーでも、他社との違いが出るのが商流から営業活動の販売領域と、サプライチェーンから生産設備や製造ノウハウが異なる製造領域だからです。ERPシステムはバックオフィスのシステムですが、この領域は企業の差別化ポイントでもあり、独自のこだわりやノウハウが蓄積されている業務なのです。製造業の基幹システム導入で、同じ機能をベースにどのようにこの違いを実現すれば良いのか、将来を考えてどのようにソリューションを提案すれば良いのか、毎回悩むところです。さらに、複数部門や社内外に関係者がまたがるため合意形成に時間が掛かるというのも難易度を高くしている理由です。昨今の状況では、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、パレスチナとイスラエルの戦争、米中対立、地球温暖化による気象変動などなど、ビジネス環境の変化は昭和や平成とは全く違います。(未だに昭和時代の感覚で、過去の経験に固執する古き良き時代の人達が多いのも業界の特長?)この先の見通しが予想できない、という状況なので足場を固めるためにERPやMESなど基幹系システムを再構築する必要があると考える企業が増えているようです。こうした状況を踏まえて、「2027年問題」などをきっかけとしたERPシステムを見直す企業が増えています。ERPシステムも大きく進化していて、SaaS型クラウドERPやそのERPに蓄積したデータを活用したデータ駆動型経営、生成AIによる経営システムの知性化(生成AI+ERPシステムなど)、機能をコンポーネントごとにフレキシフルに入れ替えるコンポーザブルERPなどといった新しいテクノロジーやコンセプトが最新トレンドです。今回は、製造業のERP再生計画について製造領域を中心とした新しい考え方などをご紹介いたします。

■サプライチェーン強靭化はERP再生計画のスタート地点

 ここ最近の、製造業におけるキーワードは“サプライチェーン強靭化”ではないかと思います。このキーワードから始まるERPシステムの刷新やクラウド化、データ収集/分析/活用など要件の相談とシステム導入プロジェクトが急激に増えています。その背景には、コロナ禍の終息によって業績が上向いたことや、ロシアによるウクライナ侵攻、地球温暖による気象災害、米中対立など国家間の対立が急増しているため予測できないビジネス環境の変化が起きていること。昭和や平成の経験・定石が、通用しないため詳細データにもとづいた予測精度の高いシミュレーションを求める企業が増えたことなどがあげられます。10年以上前の老朽化したERPシステムや生産システムでは、生き残れないと考える企業が増えています。経済産業省が毎年作成して公開している「ものづくり白書」2023年版には、「サプライチェーン強靭化が課題となっている」と明確に書かれています。具体的にサプライチェーンネットワークによる影響を受けた活動として、“海外からの調達”(65.5%の企業が影響受けたと回答)、“国内からの調達” (58.9%)、“国内の生産活動”(46.9%)、“海外の生産活動”(34.7%)、“国際輸送”(31.2%)というのが上位5つだそうです。つまり、製造業の多くが、従来のサプライチェーン見直しを考えているということになります。

(図表1、サプライチェーンの強靭化が課題:ものづくり白書2023年版概要より)

※サプライチェーンとは:原材料の調達から製造、在庫管理、物流、販売などを通じて、消費者の手元に届くまでの一連の流れを指します。製品のライフサイクル全体、「調達(原材料、部品など)>生産(加工、組立など)>物流(製品の在庫/出荷)>販売(商社・卸、小売)>エンドユーザー(消費・廃棄・リサイクルなど)」となりますが、以前は企業が管理できる範囲「調達>生産>物流(製品出荷)」に絞ってサプライチェーンとしていました。最近では、脱炭素化をライフサイクル全体で考えるサステナビリティ経営という考え方から、サプライチェーンを製品ライフサイクル全体とする考え方が主流となっています。

■在庫最適化を目的とする旧型SCMから、利益最大化を目指すS&OP/IBPへ

 これまでのサプライチェーンは、納期までに最も低いコストと高い生産性で製品を生産する最適なサプライチェーンのネットワークを構築することが目標でした。最適なサプライチェーンネットワークを構築するためには、「誰に、何を、何時迄に、どのように届けて、売上/収益を上げるか」というビジネスモデル(業務シナリオ)を考える必要があります。最適な在庫の構え方、在庫の配置方針、在庫拠点、物流ネットワークを決定し、さらにそれに基づいて生産拠点、生産方式をデザインします。サプライチェーンには、商流:メーカーからユーザーまでの商品の流れ、物流:モノの流れ、金流:お金の流れ、情流:情報の流れの4つの流れ(フロー)があります。最近では、これに加えて「カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー」などサステナビリティに関するフローをここに付加することができます。ものづくりの環境と意識が大きく変わってきていると思います。

これからのサプライチェーンは、あらかじめ様々な変化を予測して、どのような状況になってもリアルタイムに対処できる仕組み、デジタルツインによるサプライチェーンのリアルタイム把握と、その状況に即応できるミッションクリティカルな生産コントロールの実現をサポートするSaaS型クラウドERPが普及しつつあります。先行きの見通しが出来ない状況を踏まえて、新しいサプライチェーン業務モデルを革新する取り組みをクラウドERPとその関連するクラウドサービスで実現しようとする動きが外資系ベンダーより始まっています。グローバル展開する国内の大手自動車メーカーやハイテク企業、工作機械・ロボットメーカーは、日本的生産方式の「ムダを一切省いた高品質、低コスト、マスプロ生産を追求した日本的生産システム(JIT生産、カイゼンによるボトムアップ型)」から「ダイナミックに工程分業された高付加価値、適コスト、変種変量生産などに対応したスマート・マニュファクチャリングによるトップダウン型」への転換を進めています。その狙いは、変化対応スピードアップによるサプライチェーンネットワークのコントロールを高めることです。

S&OP(Sales and Operations Planning)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。S&OPとは、企業における経営戦略のひとつで、「販売/オペレーション計画」を意味します。経営層と生産や販売、在庫などの業務部門が情報を互いに共有して、意思決定を迅速にすることでサプライチェーン全体の最適化を図る手法です。S&OPは、SCMサプライチェーン管理(Supply Chain Management)から発展した概念のひとつで、需要、供給、財務計画を連携させる統合計画プロセスです。企業のマスタープランニングの一部として管理されており、経営者の意思決定を支援するために設計・実行されます。S&OPの目的は、消費者の要望を即座に捉え、それに応じて生産・流通・販売のプロセスを効率的に運営することです。S&OPプロセスは通常、毎月行われ、販売、マーケティング、製品開発、製造、調達、財務、会計などの業務領域をきめ細かく調整します。そして、さらにこれを発展させた考え方にIBP統合ビジネスプランニング(Integrated Business Planning)というものがあります。IBPは、サプライチェーンネットワーク全体を網羅して企業の利益を最大化する取り組みです。S&OPの考え方に、さらに財務戦略や収益性最適化などファイナンシャル視点でのパフォーマンスが追加されています。外資系ベンダーのソリューションを参考として例示します。

(図表2、在庫最適化を目的とする旧型SCMから、利益最大化を目指すS&OP/IBPへ)

(図表3、Anaplanサプライチェーンネットワークモデルとサプライチェーンテクノロジ)

(図表4、SAPの考えるS&OP/IBPサプライチェーン計画ソリューションのイメージ)

さて、今回はサプライチェーン強靭化というテーマで製造業が目指すソリューションについてご紹介しました。イメージ先行で、この考え方をどのようにERP再生計画とその周辺システムとして構築していくのかについては次回ご説明したいと思います。

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