コンポーザブルERP導入のポイントはコスト削減ありきで考えず、サービスの見直しを重視するべき

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第63回「ERP再生計画の策定:クラウドERPとコンポーザブルERP~コスト削減ありきで考えないサービスの見直しがコンポーザブルERP導入のポイント~」をご紹介します。

□はじめに

 国内ITベンダの業績に陰りが見えてきました。その理由は、人手不足・人件費の上昇、コンピュータ機器などの値上げ、クラウドサービスやソフトウェアライセンスなどの値上げ、電気代や通信費などの値上げなどいずれもコスト上昇によるものです。さらに、売上拡大を目指しても、国内ITベンダの多くがSIビジネスをメインとしているため、人手不足と技術者不足が足枷となって受注したくてもプロジェクト体制が組めなくて受注出来ないという状況が続いています。老朽化したERPでは昨今の変化に対応出来ないため、新にクラウドERPによる新基幹システム導入を目指す企業が増えています。しかし、『ERP導入と言えばコスト削減』という考え方が固定化しているため期待する効果が得られていません。つまり、ERP導入によるコスト削減ではリカバリ出来ないくらいコストが上昇しているためです。ここでは、コンポーザブルERP導入のポイントが、コスト削減ありきではなく業務ごとのサービスの見直しであることについてご説明します。

■コンポーザブルERPの本質はコスト削減ではなく業務プロセスとサービスの見直し

 製造業や流通業の業績が悪化しています。その原因は、戦争や地球温暖化による気象変動などですが、2023年度上半期における企業業績はいずれも厳しく、中国や欧州(特にドイツ)などの景気悪化による影響も続きそうです。これに伴って、サプライチェーン強靭化や収益性向上を狙った基幹システム再構築のERPプロジェクトが増加しています。しかし、ご存じの通り慢性的なERP技術者不足が理由で、受注出来ない状況が続いています。ERP業界では、今さらながらERP標準機能をできるだけそのまま導入する“フィット・トゥ・スタンダード”というキーワードが出ていますが、業務プロセスを全てERP標準に合わせることなど出来るわけもなくギャップとなる業務は少なからず残ります。さらに、ユーザー企業が考えるコスト削減は、バックオフィス業務のオペレーションを省力化/自動化する前提であるため、コスト削減効果はそれほど高くありません。海外から輸入する原材料コストが前年比150%以上で上昇しているため、その程度の効率化では焼け石に水です。輸入によるコスト上昇は、為替レートによるところが大きいためこの費用を価格転嫁できない現状で、オペレーション最適で対処できないのは言うまでもないでしょう。つまり、見直すべきは価格戦略「値上げ交渉、収益率向上、市場開拓、受注拡大など」と、業務プロセス見直し「人によるオペレーションの自動化、業務プロセスの絞り込み・共通化、業務プロセスの短縮化など」です。価格戦略は、システム化だけで対応できるテーマではなく業界や顧客との問題なので、ERPなどシステムで状況を変えるのは難しいと思います。従って、業務プロセス見直しやサービスによるコスト削減を狙う取り組みを中心に考える必要があります。

「業務プロセス見直しやサービスによるコスト削減」は、次のように考えることが出来ます。

1)機能をまとめてサービス単位で考える。(機能をまとめると短縮・効率化しやすい)
2)対象のサービスから人の作業を洗い出す。(繰り返しオペレーション)
3)人の作業を自動処理できないか検討する、無人化が難しい場合は標準化を目指す。
4)標準化した業務の人が処理するサービスは組織で集中的に処理する。(属人化の回避)
5)人の作業時間削減から効率化する。効果を定量化する。(導入効果の底上げと定量化)
6)可能ならば、RPA/AIなどを利用してさらに効率化を促す。(入力/出力にAI活用)

このサービスの単位を、コンポーザブルERPの置き換えられるコンポーネントと考えます。コンポーネントごとに内容を見直したり、入れ替えたり、組み合わせたりするイメージで出来るだけ短くすることでコスト削減や効率化を考えます。レゴブロックを組み合わせて、欲しいものを作る感じですが、ブロックが小さいと組み上げるのに時間と手間が掛かるので、出来るだけパーツは大きくまとめるような発想がポイントです。

■コンポーネント入替は機能ではなく業務プロセスごとのサービスとそのソリューション

 前回コンポーザブルERP導入で重要なポイントは、機能の組み合わせではなく業務プロセスにあると説明しました。これは、機能単位の組み合わせだけでは業務プロセスのメリハリや特徴を上手く使えないためです。今でこそERPシステムの機能は、どのERP製品でもそれほど変わらないはずという声を良く聞きますが、実際には機能が同じでもERP製品ごとにサービスとそのソリューションは大きく違います。複数のERP製品をお客様ごとに、同じ要件/異なる要件で導入したことがある技術者ならば、具体的に機能の違いが分かるのではないかと思います。また、機能ごとに見直すよりもサービスごとに最適化する方が、業務処理の工程を省いて効率化によることでさらに効果を高めることができます。

例えば、ERPシステムには検索キーから複数の情報を集めて、そこから目指す伝票やデータにたどり着くというオペレーション(ドリルスルー)が可能です。検索して、集計データ・伝票などを表示して、そこからさらに目指す伝票・レポートを見つけて、見つけた伝票から欲しいデータや情報(日付や入力者や変更項目など)をERPシステムの統合データベースから探索する機能です。良い検索機能は、検索件数が100件ずつ表示されるような仕様です。その表示時間は2秒以内だと理想的です。この100件に求めている情報が無ければ、次100件が表示されます。こうすれば、ユーザーは待ち時間を意識せずに欲しい情報を検索できるのです。さらに良い検索機能だと、過去の検索結果の傾向からサブウインドウに推奨する候補が表示されます。これを選ぶだけで入力操作なく欲しい情報までたどり着けます。つまり、操作しているユーザーの入力ストレスを抑えるような配慮が行き届いた検索機能が実装されています。逆にダメな検索機能は、検索対象が1000件以上あると1000件以上全部集計してから100件ずつ表示されるような仕様です。これだと待ち時間が数秒から十数秒にもなります。ユーザーの待たされる感MAXでシステムを使う度にストレスです。実際にSAPの旧ERP製品のR/3とECCでは、こうした検索機能に違いがありました。ECCの方が、検索サービスが断然使い易いのは言うまでもありません。同じ機能は実現できても表示や見せ方ひとつで、ユーザーのストレスや操作性は全く違います。機能ではなく業務プロセルごとのサービスとそのソリューションをコンポーネント単位と考えた方が良いと考える理由はここにあります。ユーザーの満足度が格段に向上するので、結果的に効率化されます。

(図表1、コンポーネントは機能単位ではなく業務プロセスごとのサービス/ソリューション)

スクラッチ開発で業務システムを開発すると、開発工数を減らすために出来るだけ同じ画面や機能をベースに機能やサービスを拡張しようと考えます。しかし、こうして開発されたシステムは、操作に慣れるのに時間が掛かります。慣れない人が操作するとミスやエラーが生じやすくなります。つまり操作性が悪く、ミスやエラーの修正が生じやすいのでムダが多くて生産性が低いということになります。それでも、長年使っていれば慣れてしまうので気にならなくなってしまうのですが、慣れるまでに時間が掛かってミスやエラーも生じます。目指すべきコンポーザブルERPは、新人でも中途採用でもアルバイトでも、誰でも直ぐに直感的に使えて操作ミスに自ら気づくシステムだと思います。こうした業務プロセスやサービスごとに見直すことで、ERPシステム導入に関する開発コストや運用コストを減らすことが可能です。

コンポーザブルERPのコンポーネントの定義や考え方は、まだ具体的に定まっていません。そのため、多くのITベンダは機能の組み合わせをコンポーザブルと呼びたいようです。考え方も、ERPの機能をぶつ切りにしているだけのようです。コスト削減のみをERP導入目的にしているところもこれまでと同じです。コンポーザブルERPという新しいコンセプトを、古い考えのまま使っているのは残念です。発想と狙いを変えて、ユーザー目線のサービスとそのソリューションという斬新な取り組みを期待したいと思います。

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