「クラウドERPとコンポーザブルERP~フィット&ギャップで明らかになるギャップの対処方法が成否を決める~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第61回「ERP再生計画の策定:クラウドERPとコンポーザブルERP~フィット&ギャップで明らかになるギャップの対処方法が成否を決める~」をご紹介します。

□はじめに

 多くの企業で、基幹システムにはERPが導入されています。屋内のERPシステムは、2000年から2010年頃に導入されたものが多くを占めているため、システム稼働から既に10年以上が経過して、機能的には安定してはいるもののDXやGXといった新しいトレンドに対応させるにはリニューアルすべきタイミングとなっています。テクノロジーの進化や、働き方改革などビジネス環境の変化によって最新のERPシステムは、クラウド上で導入するSaaS型が主流となりつつあります。またERP老舗ベンダーのドイツSAP社は、主力製品の刷新を進めていて、旧製品SAP ERP製品のサポートを2027年末に打ち切り後継の主力製品をSAP S/4HANA CloudというSaaS型クラウドERP製品を置き換えようとしています。(SAPの2027年問題)こうした状況のなか、ERPシステムの最新トレンドは機能単位で欲しい機能を組み替えるコンポーザブルERPという考え方が次第に広がっています。これは、基幹システムをレゴブロックのように機能ブロック(サービスやデータなど)を組み合わせて、欲しいERPシステムをつくるというものです。その考え方や導入の秘訣について、ご説明したいと思います。

■クラウドERPのメリットとデメリット、SaaS型ERPとIaaS型ERPの特徴と導入

 日本国内におけるERPシステム普及の経緯は、これまで3つのトレンドがあったと思います。第1世代は、1990年代後半から2005年頃までのERPシステムというパッケージソフトが国内市場に登場したトレンドです。ERPは複数業務を統合した統合基幹システムというコンセプトで、会計から販売、購買、生産など企業の主要な業務を網羅する経営管理に強みを持つパッケージソフトウェアを訴求していました。当時ERPを導入した企業の大半は、経営管理を目的とした管理会計の導入が目的でした。第2世代は、国産ERPが出始めた2005年頃から2015年頃までの約10年間です。販売管理や購買管理、在庫管理、生産管理など業務系の機能が拡充されるとともに、業種別の機能や企業規模などにも対応した製品が登場しました。ERPと企業内部の各部門間(販売、購買、在庫、生産など)や事業部門間の連携が求められ、企業内の全体最適の実現が目的でした。第3世代は、2015年頃から現在まででサプライチェーンやグループ企業や企業間連携、CRMやBIなどERP関連システムとの他システム間の連携機能によるグループ経営や企業間連携によるサプライチェーンが強化が目的です。

(図表1、国内ERP市場推移:ERPトレンドはクラウドERP・ESG・データドリブン)

さてERPシステムは、クラウドERPの導入・移行が急拡大しています。クラウドERPには、クラウド基盤上にライセンス版ERPを構築したIaaS型クラウドERP(ERPパッケージのライセンスはユーザー企業が購入)と、クラウド上のサービスとして利用できるSaaS型クラウドERP(ライセンス使用料と保守料などを含むサービス利用が可能、マルチテナント型)の2つ利用形態があります。SaaS型クラウドERPは、初期費用が安く導入が短期間でシステム運用をベンダー側で提供するため手軽で利用しやすいため急速に普及しています。調査会社ITRによると、2022年度新規ERP導入の約3割、2025年度の新規ERP導入の約半分は、SaaS型クラウドERPになると予想されています。しかし、SaaS型クラウドERPにはメリット・デメリットがあり、そのデメリットとして商社卸売業など月末や季節変動でシステム負荷が大きく変動する場合や、ERP標準機能では対応していないギャップ部分の対処方法が難しいこととがあげられます。こうした問題は、30年前にERP製品が、パッケージシステムとして登場したときのアドオン・カスタマイズに関する取り組みと似ていますが、ERPに求められるニーズがスピードや柔軟性、データ活用などへ変化しています。

■クラウドERPが苦手とする個別機能(こだわり)をコンポーザブルERPで突破

 前述の基幹系システムの歴史を振り返ると、基幹システムスをスクラッチ開発していた時代より、いくつかのフェーズを経て現在第4世代へ入ったところと筆者は考えています。

・基幹システム独自スクラッチ開発時代:~2000年
・ERP第1世代:1990~2005年、スクラッチ開発からパッケージ、ベストプラクティス
・ERP第2世代:2005~2015年、国産ERP、ERP周辺システムとの連携、
・ERP第3世代:2015~2000年、ERPと周辺システム連携やIoTなどビッグデータ
・ERP第4世代:2022~2030年、クラウドERP/コンポーザブルERP、データドリブン

(図表2,ERPの進化:モダンERP>ポストモダンERP>コンポーザブルERP)

 コンポーザブルERPとは、IT分野の市場調査や助言を行うガートナーが次世代のERPソリューションを説明する言葉として使っているコンポーザブルエンタープライズから来ています。その基本要素は、①多種多様な機能/サービス、②信頼性の高いコア、③アプリケーションを統合するプラットフォームの3つの要素を兼ね備えた柔軟性と安定性を両立したERPシステムです。わかりやすく例えると、ERPシステムをレゴブロックのような規格化されたブロックで組み上げるようなイメージです。ブロックのパーツは、統合されたプラットフォーム(規格化と標準化)で自由自在に組み合わせることが出来ます。必要なパーツは無い場合には、足りないパーツだけを規格に合わせて不足分だけを補完(最小限の開発)します。もし、代替できるパーツがあればこれを最大限利用して「作らず、使う」コスパとタイパを狙います。(コストパフォーマンスとタイムパフォーマンス)

 従来のアプリケーション開発ではなく、アジャイルでコンポーネント(ブロック単位)を組み合わせるシステムです。ウェブのマイクロサービスをクラウドERPベースで再構築する仕組みです。先行するベンダーは、Oracle(Fusion Coud ERP)やMicrosoft(Dynamics365)のクラウドERPです。これに続くクラウドERPベンダーが、SAP(SAP S/4HANA Cloud)、Inforとなります。国内ERP市場はSAP一強のイメージですが、欧米クラウドERP市場では後発となります。コンポーザブルERPでは、「③アプリケーションを統合するプラットフォーム」が重要な要素の1つであることから、OracleのOCIとOracle Fusion Cloud ERPおよびMicrosoftのAzureプラットフォームとDynamics365というクラウドプラットフォームとERPシステム(アプリケーション)の組み合わせが訴求ポイントとなります。また、最近では生成AIやローコード/ノーコード、RPAなどを補完ツールとして開発生産性やデータ連携が簡単かつ容易に利用できるのも特徴です。特に気を付ける点は、クラウドERP導入の「フィット&ギャップ」で明らかになる“ギャップ”への対処方法です。“ギャップ”対処方法は3つあります。

1,クラウドERPの標準機能に業務を合わせる
 →クラウドERP標準機能にある他機能を利用して、個別機能を代替して対処する

2,クラウドERPの標準機能に影響しない最小限の追加開発
 →クラウドERPを専用開発ツールなどでカスタマイズ・追加開発する

3,クラウドプラットフォーム上で個別機能を開発する
→クラウドERPとPaaS/iPaaS(クラウド基盤)で個別機能を開発・実装する

(図表3,クラウドERPの標準機能で対応できない個別機能(こだわり)に対する対処)

この3つの1<2<3の順に開発費用と維持管理コストが大きくなります。また、操作性や使い易さは真逆の1>2>3の順で犠牲になります。当然、エンドユーザーや事業部門から“なんとかしてくれ!”、“もとにもどせ”と言われます。ここが交渉のポイントなので、作業負荷が高い業務は業務プロセスを変更して自動化したり、どうしても手作業や手直しやチェック作業などが入る作業は作業工数削減効果を考えて(作業者数x作業時間)を考慮してあえて追加開発したりすると良いと思います。ベンダーの営業が『他社では標準機能で使ってもらっています。御社も大丈夫です。』というのは、現場の不満や気持ちを無視したビジネストークだと思います。筆者は、元ERPベンダー所属なので、初めて訪問するお客様では、軽く30~60分くらい元ベンダーのクレームとお𠮟りを拝聴することになります。20年前に辞めた元ベンダーのインパクトと当時のお客様の苦労が偲ばれます。確かに、昔は今よりずっと大変でした。

さて、今回はクラウドERPの状況とコンポーザブルERPのイメージについてご紹介しました。次回は、SaaS型クラウドERPにおいて、ギャップを解消するためにはどのような対処方法があるのかについて、具体的にお話していきたいと思います。

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