ERPのデータで実現する脱炭素経営のポイント

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第60回「ERP再生計画の策定:ERPのデータで実現する脱炭素経営のポイント~ERPシステムで取り組むCO2排出量の算定、ESG経営のポイント~」をご紹介します。

□はじめに

今年は日本全国で、連日気温35度以上の猛暑が続いています。
気象庁やニュースでは、「日中の外出を避けて、熱中症対策を心掛けるように」とのアナウンスが繰り返されています。当然これは日本だけでなく、欧州や米国でも同様に地球温暖化による気象変動がより厳しくなっています。南欧ギリシャでは、最高気温が7月に入って40度以上となったため、首都アテネの観光名所「パルテノン神殿」があるアクロポリスが、正午から午後5時にかけて閉鎖されています。この場所は、暑さを避ける手段がないため観光客の健康被害を避けるための措置です。中欧ドイツやポーランドでも同様に38度以上の猛暑となっていますが、ドイツの7月の本来の平均最高気温は25度前後ですから通常の10度以上高くなっています。世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は先月6月27日付で「2023年7月の世界の平均気温が過去最高を更新する公算が極めて高い」と発表していましたが、予想通り世界的に40度近い猛暑となっています。地球温暖化の原因は、二酸化炭素(CO2)などのGHG(温室効果ガス、グリーン・ハウス・ガスの略)によるものです。COP26で各国がCO2排出量削減に向けて取り組んでいて、日本は2030年にCO2排出量をマイナス46%達成するという公約を掲げています。具体的には、2013年度のGHGガス総排出量14億800万トンから、2030年目標のGHGガス総排出目標の7億9000万トンへ削減に取り組むことになります。脱炭素に向けた取り組みの第一歩となるのが、「CO2排出量の見える化」です。CO2排出量は、生産活動や製品の原材料、輸送、利用によるCO2排出、そして廃棄といったライフサイクル全体で算定します。業界や企業によって、その算定方法が異なりますがERPや工場システムなどから算定に必要な数値(活動量)を収集することができます。今回は、ERPから脱炭素に向けたCO2排出量の見える化についてご説明いたします。

(図表1、欧州、北米の2023年7月30日の最高気温ヒートマップより)
(図表1、欧州、北米の2023年7月30日の最高気温ヒートマップより)
(図表2,世界の二酸化炭素排出量、主要国のCO2排出削減目標)
(図表2,世界の二酸化炭素排出量、主要国のCO2排出削減目標)

■企業のCO2排出量の算定方法とは

 企業のCO2排出量は、事業活動の活動内容から算定することができます。CO2排出量は、その内容から3つに区分して、『活動量×排出原単位』の積算より計算します。
算定の3つの区分は以下の通りです。
スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
スコープ2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

活動量とは:事業者の活動の規模に関する量のこと。例えば、電気の使用量や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などがこれにあたる。これらは、社内の各種データや、文献データ、業界平均データ、製品の設計値等を用いて情報を収集する必要がある。
排出原単位とは:活動量あたりのCO2排出量のことを言う。例えば、活動量を電気の使用量とした場合、電気を1kWh使用した当たりのCO2排出量などが該当。排出量は、基本的には環境省が公表しているデータベース上の原単位や、一般社団法人サステナブル経営推進機構(www.sumpo.or.jp)のLCIデータベースIDEA Ver.3などを用いることで計算することができます。

スコープ1と2は、自社内にあるデータより活動量を収集して算定することが可能です。スコープ1は、社屋や工場で使用されるエネルギーで主に石油や天然ガスなど燃料の燃焼によって生じるCO2排出量ですから、使用した燃料に原単位を掛けて入手できます。スコープ2は、社屋や工場で使用される電力やガスの使用量から算定できるので、電力会社やガス会社などの毎月の請求書(電力・ガスなどの利用明細)より入手できます。つまり、ERPにデータとして蓄積されている購買データ、生産管理データ、在庫管理データから算定できます。スコープ3は、製品やサービスに由来するサプライチェーン全体のCO2排出量なのですが、原材料(カテゴリ1)やその輸送(カテゴリ4)、製品の輸送(カテゴリ9)、製品使用によって排出されるCO2(カテゴリ11、自動車だと燃料がガソリンなのか電気なのかによって大きく異なる)、製品廃棄によって排出されるCO2などから算定する必要があり、データ改ざんされない正確なCO2排出データと業界ごとに異なる算定方法、およびその情報を流通するデータ流通基盤(欧州自動車業界ではCatena-Xなど)が必要となります。これは、各業界で準備が進められています。
欧州では、2026年より特定製品に対してEUとの貿易にCO2排出量の報告が義務化されます。これは、「国境炭素調整措置(CBAM)」という規制で一般的に “国境炭素税”と呼ばれています。つまり、CO2排出量の多い製品をEUに輸出すると炭素税が徴収されます。日本は、欧州向けに自動車や自動車部品を多く輸出しているため自動車業界や化学・素材業界は対応を急いでいます。

(図表3,国境炭素調整措置:国境炭素税、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力など)
(図表3,国境炭素調整措置:国境炭素税、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力など)
(図表4、CO2排出量の算定とサプライチェーン排出量:活動量×排出原単位)
(図表4、CO2排出量の算定とサプライチェーン排出量:活動量×排出原単位)

■ERPシステムで入手できる活動量とERPで入手できない活動量

 ERPのデータから簡易的にCO2排出量を算定する取組みが、SAP社のS/4HANA Cloud(およびSAP S/4HANA)や、ビジネスエンジニアリング社のmcframe7で開発がすすめられています。主に製造業を対象とした機能ですが、BOM(部品表)やBOP(工程情報)、部品・原材料などに基づく排出量はERPのマスタ類や購買情報や生産管理の製造指図、在庫情報などから入手できます。(財務指標より)
しかし、工場業務でオペレーション管理に利用しているIoTデータ(設備情報やセンサデータ、画像など)、品質やトレーサビリティなどの情報はExcelファイルや紙(日報など)、またはMES(製造実行システム)やDCS(分散制御システム)などバラバラにあります。特に日本では、工場管理業務が独自システム(オフコンなど)やExcel/紙で属人的に管理されています。ERPで入手できない非財務情報の大半は、こうしたオペレーション情報から入手されます。欧米ではMESなどシステム化が進んでいますが、日本では大企業の一部企業にしか導入されていません。従って、欧米のように工場システムからCO2排出量の算定に必要なデータを収集するには他のやり方を考える必要があります。
 具体的には、工場業務の工程ごとに電力量を決めることで概ね把握することが出来ます。電気使用量は、電力会社などからの電気使用量や自社で保有する太陽光発電システムなどの管理データから電力使用用の総量把握が可能です。これを各設備や生産ライン、工程ごとに割り振ります。このやり方は、組立加工系製造業に導入しやすい方法です。設備ごとの電力量を稼働時/アイドル時/停止時など状況ごとで計測しておいて、稼働時間で積算すれば生産ライン毎、オーダー毎の電力量からおおよそのCO2排出量が算定できます。実測データに基づいたCO2排出量算定の方が正確で実情に沿っていることから、従来の金額換算よりもこの実測データに基づくやり方の方が評価されます。また、電力を太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーに置き換えれば、確実にCO2排出量を削減できます。

(図表5、SAP S/4HANAとSAP SFM/SCTによるCO2排出量の見える化)
(図表5、SAP S/4HANAとSAP SFM/SCTによるCO2排出量の見える化)
(図表6、mcframe7 CFPによるCO2排出量の見える化)
(図表6、mcframe7 CFPによるCO2排出量の見える化)

ESG経営とは、環境や社会に配慮しながら企業経営に取り組み健全で持続可能な発展を目指す経営手法です。E:環境(Environment)、S:社会(social)、G:ガバナンス(Governance)の頭文字。ESG経営の取り組みは投資家の評価を高め、企業イメージを向上させるなどのメリットがあります。デメリットとしては、短期的なリターンが期待できないことと客観的かつ明確な評価基準が確立されていないことなどがあげられます。環境意識が高い欧米や金融機関、投資家に対する有効な指標ですが、ERPシステムと工場システムの実績データに基づいたCO2排出量の算定は、その正確性と公明性より高い評価を得ることが出来ます。近い将来、経営管理の重要指標がESGであると言われていることからも、ERPシステムの重要度が高まっています。ERPを会計しか使っていない企業は対象外です。

お知らせ

商社、卸業の皆様へ、日商エレクトロニクスはこの分野に高い実績とノウハウを持っています。ERPの導入やリプレイスをお考えの方は以下のページをご覧ください。

■「GRANDIT」ソリューション(商社向け)
https://erp-jirei.jp/grandit

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