販売管理の位置関係とムダを省けば売上アップと受注コストが削減する

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画の策定:販売管理は業務プロセスの起点と終点!~販売管理の位置関係とムダを省けば売上アップと受注コストが削減する、販売管理2~」をご紹介します。

□はじめに

 企業業績の見通しが、さらに不透明になっています。2022年から2023年に掛けて、コロナ禍によるサプライチェーン混乱は収束に向かい、企業の業績は大きく回復しています。2023年度3月期の業績は、上場企業の多くでコロナ禍前の2019年度以上の売上高となっています。一見すると良いことですが、実際にはその背景に①エネルギー・原材料の高騰、②人手不足と人件費上昇、③日米金利差拡大によるドル高円安、④脱炭素などサステナビリティ対応による費用など、企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。2023年版ものづくり白書によると、製造業における原材料価格の高騰分の価格転嫁は、約7割の企業で進んでいるが、高騰分のうち価格転嫁できている金額は、50~60%とする企業が最も多いとのことです。つまり、売上高はコロナ禍以前のレベルに戻っていても利益は減少していると考えられます。この先、欧州・米国・日本の成長見通しが低いから、世界経済の悪化・後退が予想され企業業績は悪くなると思われます。コスト削減で対処できるレベルはではなく、利益を維持成長させるためには売上のさらなる拡大を目指す必要があります。こうした状況を踏まえて、売上拡大を狙った販売管理システム再構築について考察します。

(図表1、我が国製造業の足下の状況③価格転嫁2023年版ものづくり白書より)

(図表1、我が国製造業の足下の状況③価格転嫁2023年版ものづくり白書より)

■販売管理システムの位置関係と関連する他業務システム

 さて前回は、再構築が難しい領域のひとつが販売管理システムであることについてお話いたしました。今回は、ERPシステムの中で販売管理の位置付けや関連する他業種システム(会計、在庫、与信など)との関連から販売管理システム再構築におけるポイントについてご説明したいと思います。まず、販売管理システムは、顧客からの受注を管理するところが起点となります。ERPシステムで、受注処理を行うタイミングはもちろん受注オーダーを受けたところから始まるのですが、そのタイミングは業種業態で少し考える必要があります。例えば、商社・卸売業の受注処理は注文を受けたタイミングを受注起点として、ERPシステムに受注登録すれば問題ありません。注文内容に従って価格計算(販売管理:見積処理)を行って、商品の在庫があれば納期回答して出荷処理(在庫管理:在庫引当処理、物流管理:出荷処理)を行います。商品を出荷したら、売上を計上して販売管理(売上計上処理)をして、月末・指定期日に請求処理(財務会計:売掛金処理)、入金があれば売掛消込します。(財務会計:売掛消込処理)しかし、これが個別受注生産の製造業となると受注処理のタイミングが少し変わります。というのも、見込み生産で既に在庫があるような製品ならば前述の商社・卸売業の処理とほぼ同じなのですが、個別受注生産となると顧客の要望に沿って仕様と価格と納期を確定させてから受注処理を行うことになるからです。見積処理や、生産に必要となる原材料・資材の手配(購買管理:調達処理)、工場側の設備や人の手配(生産管理:製造指図)などといった段取りや調整が必要となります。顧客は、できるだけ安い価格、短い納期での納品を求めていますので正式な発注処理より前にこうした手配を進めたいところです。そこで、正式受注の前に顧客より「内示」というかたちで事前に想定される受注内容を受けることになります。正確な終了や具体的な納期期日は後から確定されますが、内示を受けて生産手配を行います。こうした場合の販売管理は、この「内示」を受注(または仮受注)として処理することになります。ERPシステムにおいて、受注とは関連する業務処理の起点であり、製品出荷による請求処理のために必要なトリガーとなります。つまり、販売管理プロセスと関連する他業務システムを正確に把握しなければERPシステムとしての業務処理が廻らないということになります。実際には、数量変更や例外処理などが生じるため経験の浅いコンサルタントが担当すると業務が止まります。筆者もそうした大トラブルや大クレーム(顧客の取引先から)となるケースをしばしば目にします。さらに、販売管理は商流や業界固有の商習慣などが多数あるため思い込みや知ったかぶりするとひどい目に会います。

(図表2,販売管理は業務プロセスの起点と終点!)

(図表2,販売管理は業務プロセスの起点と終点!)

(図表3,販売管理システムと連携する他業務システム)

(図表3,販売管理システムと連携する他業務システム)

■販売管理業務と連携する3つのシステムに留意すべき理由

 販売管理システムと、他システムの連携で必ず留意すべき3つのシステムがあります。1つ目のシステムは、財務会計システムです。その理由は、受注から請求処理と売掛金管理、売掛消込(代金回収処理)する最も重要な業務プロセスだからです。次に2つ目のシステムは、在庫管理(物流管理)システムです。受注を受けて、製品を出荷しなければ売上計上出来ないからです。最近では、物流コストが上昇し続けているため一括出荷と分割納入によって物流費が変わるため、コストと納期を予め認識したうえできめ細かく対処する必要があります。どんぶり勘定で顧客に言われるままに分割納入するとあっという間に物流コストが利益を減らすことになります。そして、3つ目のシステムは購買管理システムです。商社・卸売業の場合には、受注した商品が自社倉庫の在庫品なのかメーカー直送など非在庫品かによって速やかに手配する必要があります。自社倉庫に在庫する商品が滞留すればコスト増となります。また、原材料・資材などの価格変動も大きくなっていることから顧客からの注文時に粗利計算を適切に行って、状況判断で顧客と価格交渉する必要もあります。最近では、価格変動の大きい商品については、仕入先メーカーや市場価格などを随時取得して、適宜価格の更新を行うことで利益確保(粗利率)しているケースが多くなっています。顧客も少しでも良い条件で購入したいと考えていますから、販売管理と購買管理の連携は重要です。欠品を恐れて在庫すれば、値崩れしたときの逆ザヤや赤字リスクとなりますので、在庫品であっても安全在庫の見直しはきめ細かく把握する必要があります。例えば、販売管理システム側で数量だけではなく商品トレンド(価格推移、在庫推移など)を手元で即時確認出来る仕組みなど機能があると便利です。

販売管理システム再構築は、過去の機能を踏襲すれば良いというものではありません。過去と現状を踏まえて、未来に備えた仕組み構築が目指すところです。筆者が販売管理システムのヒアリングを行ううえで特に気をつけている10ポイントがあります。これを以下にご紹介します。

【販売管理のヒアリング10ポイント】

①受注タイミング(内示、確定受注のパターン:取引先の重要度や条件を把握する)
②納期回答のボトルネック(納期を決めている要因:仕入れ、生産リードタイムなど)
③売上計上タイミング、債権・債務管理の仕組み(経営管理・財務会計などとの関係)
④経営層、管理者、担当者各レベルの課題整理、あるべき姿(To-be)、阻害要因
⑤業界要件、固有の要件、特徴など(インパクトある提案のための訴求ポイントを探す)
⑥現状の不満、繰り返し出てくる問題点(これを解消するソリューションを提案する)
⑦属人化に対する考え方と、例外処理の洗い出し(標準化とシステム化のポイント)
⑧システム刷新による導入効果( 期待:定量的効果:納期遵守率9割以上など)
⑨システム刷新の予算規模、お客様側のプロジェクト体制、IT習熟度・活用度
⑩ヒアリングは、現場を直接見ることを心掛ける(現場で質問し重要度と本質を見抜く)

販売管理システムは、営業担当者と顧客の接点を担うシステムなので必要最低限の機能だけあれば良いというものではありません。顧客に対して、市場や商品のトレンドを伝えたり、顧客ニーズを把握して価格や納期がベストとなる注文を提案したりすることも販売管理システムに求められる要件だと思います。

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