10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画」第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」をご紹介します。

□はじめに

 世界情勢は2023年も混沌とした状況で、急激なインフレや景気後退リスクも高いままですが桜の花が舞う2023年春は小康状態にあるように見えます。新しい年度になって気持ちがリフレッシュされたところでじっくり考えるのはこれから先のロードマップです。新型コロナウイルスがようやく落ち着いて、サプライチェーンの混乱やその対策から最近は基幹システムを基盤から見直す相談が増えています。企業規模や業種に関係なく、その相談で気になることは目先や短期的なテーマに関する相談が多いことです。筆者は、10年間は製造業のエンドユーザーとして、そのあと5年はERP製品ベンダーで、そして20年ほどは業務とシステムのコンサルタントとして主に基幹システムに携わって来ました。ERPやSCM、MESなどシステム導入に関する相談で気になっているのが、お客様からの相談内容が以前よりも狭いスコープで機能に寄った相談が多いと感じています。中長期的なビジョンや目的に関する言及が少なく、現状や課題に関する対処にフォーカスした短期的なものが多くなっている気がするのです。今回は、中長期的な目的を決めてから、マイルストーンを置いてロードマップを描くというアプローチでERP再生計画を策定するやり方についてご紹介したいと思います。

■ERP再生計画のリニューアル・ロードマップは短期・中期・長期で考える

 最近では、多くの企業で中期経営計画を策定しています。「中計」と呼ばれるものですが、3カ年計画で売上/利益/組織などを作るケースが多く、とくに決まりがあるというものではありません。筆者が勤務した米国大手製造業では、定期的に3つのスパンの事業計画を作っていました。1~2年先の短期と、3~5年先の中期と、10年先の長期です。短期は、製品別/エリア別に売上数量/売上額/市場シェア/競合予測などを詳細に記入するものです。過去一番長かったケースは、電力会社のお客様で50年間というものがありました。これは水力発電の事業開発とのことで、用地選定から交渉、ダム開発、発電所建設から発電出来るまでが50年間だそうです。もちろんその後、数十年に渡って発電することになります。逆に短いのは、3ヶ月毎に製品が入れ替わるガラケ-の事業計画でした。1年間で3,4回製品が変わるため毎週生産する数量が変わります。原材料部品の調達や生産計画も16週先まで作ってこれを毎週ローリングするというものでした。

 一般的に中計を3~5年毎に作成する理由は、社長の任期が3~5年が区切りという企業が多いことによるようです。ちなみに欧米では、業績が落ち着いていれば10年程度の任期が多いようです。日本企業は、3年間の2期で6年間というケースが多いらしいです。基幹系システムのERPの更新頻度は、約10~15年間が多いようです。そして、サーバーの更新タイミングが5年毎という契約が多いため10~15年が更新タイミングとなります。つまり、少なくとも10年、出来れば15年先を考慮したシステム刷新を考えるべきなのですが最近の相談では3年先のイメージを持っていないお客様も多くなりました。これは、システム対応の範囲が広がって、既存システムの保守運用や業務のデジタル化などあらゆる場面に、システムが関係するとともにセキュリティ対策やサーバーやPC以外にもスマーフォン/タブレット、サーバーからマルチクラウドなど業務負荷が高いにも関わらず人員が増えていない(むしろ減らされる)ことによるものです。その結果、時間に余裕が無くてERPのリニューアルが現状維持と目先の課題解決に偏ってしまうようです。

 以上から分かる通り、ERP再生計画は10年先を考えたロードマップを作る方が良いのです。現行システムベースでERP再生計画を作ると、「今までとたいして変わらないERPシステムのリニューアルになぜそんなにコストとリソースを投入する必要があるのか?」という指摘を受けることになります。ERPをリニューアルして、最適なERPシステムを安定して維持するのは当たり前のことですが、これを知らない経営層や事業部門ではERPシステムになぜ再度投資しなければならないのかを分かりやすく説明する必要があります。こうしたポイントを念頭に置いてから、ERPのリニューアル・ロードマップを描くことが重要となります。

■リニューアル・ロードマップは10年先の目的からステップを分けて考える

 ロードマップ作成のコツは、10年先の目的を決めてそこから短いマイルストーンを置くことです。例えば、現状はオンプレミスで物理サーバー上にERPパッケージの会計(財務会計、管理会計)と人事管理のみ導入。これを2030年頃の状況を想定して、目指すERPシステムは、会計、人事、販売、購買、在庫、生産まで導入、ERPの関連システムとして設備保全と工場実績管理(MES)が導入されていて関連システムも含めてクラウド基板上に全社の統合データが一元管理されているとします。ERPシステムの導入範囲を広げたり、クラウドへ移行したりするなど考えると一気に目指すERPシステムへリニューアルするのは無理があります。そこで、いくつかのステップで段階的に進める必要があります。

【道入STEPの検討】※製造業のケース

STEP0:現行はオンプレミスのERPシステム(稼働して既に10年ほど)

              機能に問題は無いが、費用対効果が低い。

 ↓

STEP1:現行のオンプレミスERPシステムをクラウド基盤へ移行し操作性を高める

2024年までにIaaS/SaaSでERPをクラウド移行。入出力I/Fと操作性を向上。

現行システムの機能と課題を洗い出して、情報収集/整理とIT要員をスキルアップ。

 ↓

STEP2:ERPをリニューアルして導入範囲を広げる

              2025年までに販売、購買、在庫、生産を追加。販売と購買と生産の業務を標準化。

              業務プロセス見直し(標準化)と管理指標(KPI)、経営・現場ダッシュボード構築

 ↓

STEP3:2030年目処にERP+連携する保全システムと製造実行システム(MES)を導入。

クラウド基盤上に統合データ管理(IT+OTデータレイク)を構築する。

内製化とデジタルスキル向上を目的としたBIツール活用と対話型AIの導入。

ERPのリニューアル・ロードマップを、3つのSTEPに分けたのは次のような理由です。STEP1は、現行システムの把握とクラウド移行によるIT要員のスキル向上と高い即効性を考えた取り組みです。ここからこの先のスケジュールと費用、リソースの見通しを正確に策定することが出来ます。STEP2は、ERPシステムを大きくリニューアルするための取り組みです。複数部門にまたがる業務プロセスを見直して、独自システムやExcel/紙などをERP標準機能でできる限り巻き取ります。例外対応やトラブルを想定した余裕と柔軟性を考慮します。管理指標を整えて、経営/現場ダッシュボードを導入して現行システムとの違い(見える化/見せる化)を実現します。STEP3は、あるべき姿を狙ったERP+関連システム(保全システムとMESなど)による期待効果による成長戦略を訴求することが出来ます。STEP1とSTEP2は、このSTEP3を目指すために必要な途中工程と位置づけることで社内の期待を高め、投資とリソースを確保します。

今回は、ERPのリニューアル・ロードマップについてご説明しました。冒頭でお話した通り、最近は目先のSTEP1しか考えていない企業が多くなっています。しかし、STEP2やその先のSTEP3があるからこそ、ERPをリニューアルする価値をイメージすることが出来ます。経営層や事業部門へERPの重要性を訴求するためにも、中長期の目的を設定してロードマップを示してERPシステムの再生を目指すことをオススメしたいと思います。

以上

図表1、ERPシステムのリニューアル・ロードマップ策定例
図表1、ERPシステムのリニューアル・ロードマップ策定例

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