ERP再生を2ステップの計画策定とこれを支えるチームビルディング

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画」第53回「国家百年の計から企業の基幹システムの計を企てる。ここから先のERPを考える(その2)~準備編:ERP再生を2ステップの計画策定とこれを支えるチームビルディングの考え方~」をご紹介します。

□はじめに

 激動の寅年を越えて平穏な卯年を期待したいところですが、世界的な景気後退が着実に迫っているようです。米国IT大手GAFA各社のリストラや、長期化するロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー不足と食糧危機の引き金となり景気は急速に悪化しています。大きな岐路に立っていることを実感しつつ、目前の危機を乗り切り、長期視点で目指すべき未来を定める良いタイミングだと思います。企業の基幹システムに携わる者として、これから厳しい環境を予測しつつその先にある成長を誰よりも早く掴み取って飛躍につなげる組織と人材をつくるのは今しかないと思います。「ERP再生とこれを支えるチームビルディング」に取り掛かる必要があります。しかし、景気後退による投資抑制(IT投資抑制)、人手不足(とくに技術者やコンサルタント、プロマネなど実務スキルを持つ人材)、限られた時間(老朽化したERP、団塊世代の定年・退職など)と言った問題を考慮した計画立案とその実現シナリオが求められます。今回は、中長期的な視点でERP再生計画を策定する準備とチームビルディングについて考えてみましょう。

■目前に迫る景気後退とその先にある飛躍のチャンスを逃さないERP再生計画とは

 ERP再生計画を検討する前に、やっておかなければならないことが3つあります。それは、①現状認識と②意識合わせと③チームビルディングの3つです。まず①現状認識ですが、IT部門だけでERP再生に取り組むと狭い範囲で現行システムを置き換えるだけの内容になります。その内容に対して事業部門や経営は、「もっと費用を安くしろ」とか、「もっと魅力的なアイディアを出せ」とか、挙句の果てには「いまERPをリニューアルする必要性が感じられない」「ERPに投資する意味がない」とか言われて最悪プロジェクトが先送りされてしまいます。そこで、こうした事態を回避するためにも、①現状認識をオープンかつ広く考えることが重要となります。ざっくり言えば、反対や先送り論が出ないように利害関係者を巻き込んで、ERP再生のゴールを、最大限魅力的に演出するのです。次に②意識合わせですが、これは2ステップのマイルストーンを考えます。以下のような感じです。

ステップゼロ   :現行ERPシステム(現在)

                        →現在稼働しているERPとその周辺システムの洗出し(Excel含む)

 ステップ1       :この先3年で実現する新型ERPシステム(3年先)

                            →クラウド/疎結合/拡張性を兼ね備えた最新テクノロジーによる刷新

 ステップ2       :あるべき姿を実現する未来型ERPシステム(10年以上先)

                            →データ駆動型/内製化・アウトソーシング/新事業&収益に直接貢献

 さて、これまでのERPは、経営層や管理者層を対象とした管理を目的としたコスト削減や業務効率化、生産性向上などを狙ったバックオフィスシステムでした。そして、ERP導入企業の大半は、財務会計と管理会計といった経理財務を中心とした導入です。しかし、進化した最新のERPは経営層や管理者層だけではなく、現場担当者やサプライヤー(ビジネスパートナーなど)、顧客企業、製品・サービスのエンドユーザーといった、企業活動に関わる組織や人など幅広い関係者に価値を提供することが出来ます。その鍵は、ERPに蓄積された膨大なデータと社内外のその他データをクラウド基盤上で繋ぐことで実現します。

もともとERPは、組織や業務をまたがるデータを統合データベースで管理する仕組みになっています。そのERPデータを中心として、ここにERP以外のデータを繋げて利用します。こうしたデータを上手く活用出来れば、顧客満足度の向上や新サービス・新事業につながるERPデータ活用が可能です。先行企業では、ERPデータ活用による取り組みが本格化していて、ERPシステム(IT:インフォメーション・テクノロジー)と工場システム(OT:オペレーション・テクノロジー)の両方のシステムデータを、クラウド基盤上で統合して、このデータを活用した新しい顧客サービスや新規事業に取り組んでいます。残念ながら、ベンダーの営業や技術者は、他社事例のシステム構成や機能については知っていますが業務や業界を深く理解している訳では無いため「他社事例を教えて欲しい」と言うだけでは求める事例を見つけることが出来ません。ベンダーはその理由は理解していないからです。単純にシステムをリニューアルするのではなく、中長期的な戦略を狙ったERP再生計画を策定するためにはシステム関係者だけではなく、事業部門や社外リソースを結集したチームビルディングからはじめる必要があります。

■ERP再生計画を作成するためのチームビルディング

ERP再生計画は、2ステップで検討すると前述しました。ステップ1では、3年先に必要となるシステムを考え、さらにステップ2で10年先のあるべき未来を目指すためにシステム関係者以外から人を集めて③チームビルディングする必要があります。ではERP再生計画を策定する③検討チームは、どのようなメンバーをどこから集めれば良いのでしょうか。実は、そこがこのERP再生の肝の部分となります。チームビルディングこそ、ERP再生計画の成否を握っていると言えます。そのメンバー構成には、3つの要素が求められます。

チーム編成要素1:IT部門中心としたメンバー、ERP導入経験が無い若手・中途を入れる

・クラウド利用→クラウド基盤、クラウドERP、クラウド開発(PaaS)がポイント
・疎結合(API連携)→API接続とセキュリティ対策、障害発生を前提としたBPC策定
・拡張性・最新技術利用→新技術・新サービスを内製化とベンダー活用の両面で検討する

チーム編成要素2:社内他部門からのメンバー、事業部門や他バックオフィス部門、研究開発部門などからメンバーを募る。他社との差別化・ONLY ONEをERP再生計画に組み込むことで、ERP再構築の費用対効果を経営へ訴求する。2ステップのERP再生計画を策定することで、ERP再生が部門間のヨコ連携を担うプロジェクトであることを訴求する。

チーム編成要素3:社外からのメンバー、コンサルなどを使って他社との比較(ベンチ-マーク)を行うとともに将来の異業種連携による新事業&収益化の可能性を探る。異業種連携先として、金融業界やエンドユーザーに近い顧客企業を選ぶことで既存事業を中心とした事業領域をさらに広げる検討が出来ます。隣の業界やユーザーの動向は、知っているつもりでも意外に知らなかったりトレンドがどんどん変わったりするため、少し広い目の領域を知ることで中長期戦略の裾野が広がるとともに、ERP再生計画の価値を高めることにつながります。

 組織を横断するプロジェクトを行う際に、その中核となるチーム組織を編成するやり方を「センター・オブ。エクセレンス(CoE)」と呼びます。実はCoE組織は、DX推進プロジェクトにおいてはCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を補佐してデジタル戦略を実行していく役割を担う存在として注目されています。今回のテーマ、チームビルディングはこのCoE組織を意識した内容となっています。IPAなどで詳しく紹介されていますので、ご興味があればご一読することをオススメします。

(図表1、プロジェクト管理を最適化する組織体制:従来型)
(図表2、プロジェクト管理を最適化する組織体制:マトリックス型)
(図表3、プロジェクト管理を最適化する組織体制:タスクフォース型)
(図表4,DXやオフコンモダナイゼーションなど全社横断プロジェクトの推進チームCoE)

 今回より、ERP再生計画のスタート地点となる準備編のチームビルディングについてご説明しました。このチームは、ERP再生だけを目的としたものではなく、部門間のヨコ連携を意識しています。また、ERP再生を2ステップで行う理由については次回具体的に説明する予定です。

(図表2,データ連携の進化:既存ERPとこれからのERP連携の進化イメージ)

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