業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画」第49回「景気後退に効くERPプラスワンの成長戦略ソリューション(その1) CRM/SFAやMAではなくERPで受注対策を考える取り組みについて」

目次

□はじめに

 中国、北米、欧州の景気減速はすでに避けられない状況のようです。新型コロナウイルスによって傷んだ経済を牽引していた各国が、いずれも景気後退、デフレ経済のリスクを話すようになりました。ロシアによるウクライナ侵攻が、ダメ押しとなった感もありますが、エネルギー、食糧、資源などの高騰は止まる気配がありません。そして、こうした影響は資源を持たない日本経済を直撃すると予想されます。為替レートが、20余年ぶりの1ドル140円となり、円安に歯止めが掛からないなか、エネルギーや食糧などあらゆるモノを輸入に頼る日本経済はこれから覚悟が必要となります。正常なビジネス環境ならば、製造業は、為替レートが追い風となって海外市場で売上があがるはずなのですが、サプライチェーンの混乱により生産出来ない状況が続いています。流通業もエネルギー、原材料資材、物流コスト、人件費などあらゆる価格が高騰しているため、赤字を出さないための価格改定が精一杯となり儲け(粗利)は減るばかりです。こうした状況を踏まえて、今回からERPを中心とした売上対策ソリューションについて考察したいと思います。

■新規顧客の獲得よりも既存顧客の受注対策強化が着実な売上アップにつながる

 「ERPはコスト削減」に効果がある、と考えている方が多いのではないでしょうか。逆に「ERPは売上げアップに効く」と考えるひとは少なく、受注対策ならCRM/SFAやマーケティングツールのMA(マーケティング・オートメーション)などが有効だとイメージするケースが多いようです。もちろん、その考え方は間違っていません、市場が成長している正常なビジネス環境ならばERPよりも、新規顧客の獲得に長けたCRM/SFAやMAが有効です。しかし、現状のビジネス環境はこれから景気後退(リセッション)からデフレ経済に向かう手前にある可能性が高く、これから景気が悪くなるなかで新規顧客獲得が困難を極めることが予想されます。

モノやサービスの価格が上がる状況で、新規に取引する理由はつぎのような理由です。

①その製品/サービスの方が他より安いから(購入費やメンテナンス費)
②その製品/サービスの方がトータルコストは下がるから(人件費や維持費)
③その製品/サービスの方が値上がりするリスクが低いから(保守料や使用料など)

これは、顧客企業がコスト削減を重視していることによるものです。景気後退・デフレ経済のビジネス環境では、いずれもコストを切り詰める行動が優先されます。新規投資や仕入れの拡大などコストアップは、これまで以上に厳しい対応が予想されます。CRMやMAを使った新規顧客開拓は重要ですが、その効果が出にくくなると思われます。当面の受注活動は、商談の長期化や値引きを前提とした価格交渉など困難が予想されます。

つまり、まず取り組むべきは既存顧客に対する関係強化による受注拡大の取り組みです。当然のことながら、既存顧客に対して「追加で商品/サービスを買って欲しい」と言ったところで簡単に追加注文が得られる訳ではありません。そこで、例えばこういう提案をしてみます「現行の商品/サービスを値下げすることを前提に、弊社で代替できる商品/サービスを他社の価格より安く提案させて欲しい」というものです。お客様のお財布はひとつなので、同等の製品/サービスが提供されるならばトータルコストが抑えられる方が良いというお客様目線の提案となります。マーケティングでは、こうした取り組みをABM(アカウント・ベースド・マーケティング)と言います。

ABMの取り組み方ですが、具体的な企業・団体(アカウント)をターゲットとして設定して、そのターゲットアカウントからの売上を最大化するための戦略的アプローチをとる必要があります。既存の商品/サービスだけの取引に追加して、対象領域を拡大することで売上アップを狙います。もちろん、既存の取引を値引きすること無く追加提案できればそれに越したことはありませんから、「現行の商品/サービスを値下げする提案」は優良顧客や一時的なキャンペーンとして考えます。

※ABMについての参考情報

 マーケティング専門のシンフォニーマーケティング社のホームページに、ABMに関する詳細が書かれています。B2Bビジネス全般に対応できる考え方で、その事例紹介や取り組みを知ることができます。代表の庭山氏は、日本にABMを広めた第一人者です。

(図表1、営業が行う見込み顧客/案件の発掘の活動)
(図表2,マーケティングが行う見込み顧客/案件の発掘の活動)

■CRM/SFAやMAではなくERPを使った受注対策に取り組む理由

まず大切なことは、CRM/SFAやMAによる新規顧客の獲得は継続する必要があります。これを止めてしまうと、顧客は次第に減ってしまうからです。しかし、売上を伸ばすためには新規顧客の獲得が困難であるため、既存顧客を深掘りする戦略です。

ここでなぜCRM/SFAやMAではなく、ERPを受注対策に利用するのかという理由ですが、これはABMの対象となる顧客を見つけ出す条件検索に過去の取引履歴や受注履歴が有効だからです。これまで安定した取引関係にありながら受注額が横這い減少している顧客や、既存契約の更新のみで追加受注していない顧客などが有望な見込み顧客となります。まずは、こうした取引履歴や顧客の状況を洗い出してABMの戦略を立てます。ERPに蓄積されている顧客取引の過去データを活用した取り組みです。

実際にERPのデータを使って行った受注対策のケースについてご紹介します。

A社は、社内の事業部門ごとに取引先の顧客リストを持っていて、お客様対応は各事業部の営業担当がそれぞれ対応しています。大手優良顧客や長年の取引顧客に限って、事業部を超えたチームや窓口を作って対応していました。しかし、多くの場合で他事業部の製品/サービスを売り込むということはしていませんでした。組織が縦割りであるため、顧客から相談を受けない限りニーズが合っても内部調整が大変で、その苦労が社内評価されないこともあり事業部としては積極的に対応していませんでした。A社では、新しい製品/サービスを新規事業部として立ち上げたときに、その成長戦略と顧客拡大を検討した戦略が事業部門の垣根を超えて既存顧客全てを見込み顧客として取り扱うというものでした。社長プロジェクトとして、既存顧客や過去に取引があった顧客リストを作成して、ここに最新の情報をアップデートしてターゲットリストを作成しました。リストの作成とその顧客とのコンタクトは、各事業部門が協力してコンタクトを取り受注活動を行いました。受注に貢献した事業部は、プラス評価の報酬や予算増額が与えられました。結果的に、新規の見込み顧客獲得数の4倍のターゲット顧客リストを作成することが出来て新規事業部の受注計画を大きく後押しすることが出来ました。これまでは、縦割りで他事業部のビジネスには関与しないというスタイルでしたが、これ以降はお客様ごとにアカウントプランを作るという営業のやり方が変わりました。

ERPに蓄積されている売上データや受注データ、その関連情報はこれまで一切顧みられないデータでしたが、アカウントプラン作成の起点となる情報として有効活用出来るとともに、お客様との対話からお客様自身も把握していなかった盲点や気付きがあり、信頼関係が向上するという成果も出ました。逆に、受注額が変動した理由を放置・未過ごしていて顧客からあらためてクレームや疎遠となった経緯を知ることにもなりました。お客様との信頼関係が損なわれたことは、ERPに記録された受注額や、長期間放置された契約から一目瞭然でした。さらに、こうした傾向にはいくつかのパターンがあることが分かり、売上アップのチャンスがあるにも関わらず粗雑な対応によって、失注や契約打ち切りに繋がることもわかりました。

今回は、CRM/SFAやMAよりもERPに蓄積されたデータを活用して受注対策を考えるケースについてご紹介しました。これは、リーマンショック直後に受注対策でCRM/SFA導入によって受注拡大を狙ったものの、予想した以上に新規顧客開拓が困難を極めたときに取り組んだケースです。景気後退(デフレ経済)の状況は、市場が成長する正常なビジネス環境とは状況が大きく異なるため、試行錯誤しながら突破口を模索することになります。信頼できる情報は、手元にある過去データや既存顧客やパートナーとの信頼関係にあると気付かされた苦い経験もあります。

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