パッケージからクラウドへ、安定性と柔軟性を兼ね備えた未来志向型クラウドERPとは

ERP業界トップランナーの鍋野敬一郎氏によるコラム「ERP再生計画」第46回:「混乱が続く経済にクラウドERPが有効な理由と新しいERPの新常識(その1)パッケージからクラウドへ、安定性と柔軟性を兼ね備えた未来志向型クラウドERPとは」を公開しました。

□はじめに

 ロシア軍のウクライナ侵攻は長期化、新型コロナウイルス再感染が再び拡大、サプライチェーンの混乱が続き、エネルギーや資源・食料など値上がりは当面続きそうです。これまでも災害や景気変動などありましたが、欧米とロシア、米国と中国など大国間の対立と戦争勃発は80年前の第二次世界大戦以来かもしれません。クローバル化には陰りが見え、再び対立とブロック経済が復活しているように見えます。長年の常識や考え方は、すでに通用しない状況になり刻々と変化する状況に迅速かつ柔軟な対応で乗り切る以外に生き残る方法はありません。企業の成長戦略とこれを支える基幹システムにおいても同様です。10年以上前に導入した仕組みやシステムでは、当然こうした状況を想定した仕様にはなっていないのです。ERP市場においても、既に変革が顕在化しています。調査会社ITRの国内ERP市場予測では、2022年度のERP市場売上予想金額1,600億円のうち、SaaS型クラウドERPが760億円と市場の約半分(47.5%)を占めると予測されています。これは、多くのERPベンダが主力製品をパッケージからSaaS型クラウドへシフトしていることに依るものです。

(図表1,国内ERP市場はSaaS型クラウドERPが2022年に約半分へ)

■先行き不透明なビジネス環境にクラウドERPが有効な理由とは

 1992年にドイツSAP社がSAP R/3(アールスリー)というERPシステムを発表してから、今年で30年になります。国内では、2000年始めにグローバル企業や大企業などがERP導入してから約15年以上経ちました。企業の基幹系システムは、業種や企業規模などによって10年から15年程度で刷新されてきました。リーマンショックや東日本大震災などによる影響なども受けましたが、ERP市場はこの30年間比較的順調に成長しています。しかし、ERP市場は2019年に経済産業省が公開したDXレポートで「レガシー化したERPが企業の時価総額や成長の足かせとなっている」ことが指摘されました。また、ERP老舗のドイツSAP社がながらく主力製品だったSAP ERPの保守サポートを2025年末に終了すると発表(2027年へ延長)、新しくSAP S/4HANA(パッケージ版)とSAP S/4HANA Cloud(SaaS型クラウド版)への移行を強いることになりました。2021年末時点で、国内約4,000社のSAPユーザー企業のうち半数は、移行に着手/移行済となっているようです。また、約1,000社はこれから移行に取り組む予定で、残り1,000社はSAP以外のERP製品の乗り換えや旧製品SAP ERPをそのまま利用し続けるという状況です。ちなみに、北米市場では、既に7割以上のユーザー企業が移行中/移行済と聞いています。企業システムのメインテーマは、ERP再生と並行してクラウドやDXなどにシフトしています。また、地球温暖化対策としてカーボンニュートラル対応(CO2排出削減、脱炭素)や廃棄物削減といったサステナビリティに配慮したESG経営(「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」を考慮した経営)がこれからの経営テーマとなります。

(図表2、国内ERP市場推移:ERPの進化・再生からデータドリブン経営へ)

 これまでの考え方やグローバル化への取り組みでは、現状の状況や先行き不透明な経済動向に対応するのは難しいと思われます。例えば、在庫の最適化についてはサプライチェーン混乱とインフレ、急激な円安などによって製造業では在庫を積み増しています。トヨタ自動車では、昨年対比で1兆円以上在庫を積み増して今後に備えているとの報道がありました。また、商社・卸売業でも、需要動向をAIなどで予測精度を高めつつ在庫の確保に努めています。これと並行して、欧州市場や北米市場に対応したカーボンニュートラル対応や脱炭素に向けた取り組みを進めています。企業の業績評価については、目先の利益を指向したPLベース(損益ベース)から中長期の安定性を指向したBSベース(継続性や成長性ベース)が重視されています。中長期的な安定性と激変する環境での成長性を両立するという考え方は、これまでのERPでは困難でした。しかし、クラウド基盤やクラウドサービスが進化、発展したことで2階層ERPという仕組みが普及しつつあります。これは、親会社やホールディングスにコアERPとなるERPシステムを置いて安定性を確保して、その下に事業用ERPとしてクラウドERPなど即効性と柔軟性、コストパフォーマンスに優れたERPシステムを配置するという構成です。GRANDITにおいても、昨年秋よりクラウドERPとしてGRANDIT miraimil(ミライミル)がリリースされ、こうしたニーズにも対応しています。

(図表3,2階層ERP:安定性(1層)と柔軟性(2層)の並立)

■サプライチェーン柔軟性に優れた未来志向型の流通業向けクラウドERPという選択

 ここでケーススタディとして、未来志向型の流通業(商社・卸売業)向けクラウドERPの要件について考察してみたいと思います。まず業務プロセスの考え方ですが、これまでのERPシステムでは商品が入庫してから、在庫、そしてお客様からの注文に対応した配送、納品という社内に閉じた業務プロセスを前提としていました。しかし、これからは仕入先からの商品出荷、輸送、入庫といった自社に入庫するまでのサプライチェーン上流工程の業務プロセスと、自社倉庫から商品出荷してから配送、そしてお客様倉庫への納品までのサプライチェーン下流工程の業務プロセスを考える必要があります。その理由は、地球温暖化対策におけるカーボンニュートラル対応でサプライチェーン排出管理を行うためです。つまり、製造業と流通業はサプライチェーンでつながっているためカーボンニュートラル対応を考えると、そのCO2排出量はシェアすることになります。他流通業者よりも自社のCO2排出量が少なければ、仕入先/注文先(お客様)にとってCO2排出量を削減することになるため同じ価格でもCO2排出量が少ない方が良いのです。ERPシステムや物流系システムは、そのデータを管理するシステムとなるため会計だけのERP利用や物流データが管理できない旧型ERPだと、別立てのシステムを追加導入するなどしなければなりません。

未来志向これからの商社・卸売業向けのクラウドERPに求められる要件は、これまでメインだった管理会計と財務会計といったERPの会計機能ではなく、サプライチェーンなど物流やカーボンニュートラル対応などに関するロジスティクス系データへ進んでいます。さらに、クラウドERPを選択することで業務の標準化、即効性とコストパフォーマンスを追求することが可能となります。物流拠点における在庫管理業務や物流管理業務を標準化して、全ての物流・倉庫など拠点のデータを揃えてそのデータを全てクラウド基盤上で把握すれば物流情報のリアルタイム把握が可能となります。外資系大手自動車メーカーでは、全ての物流・倉庫拠点のシステムを同じシステムで揃えるだけで納期とコストを大幅に削減することに成功しています。データをバケツリレーでつなぐのではなく、1つのクラウド基盤上に全て展開することでデータのズレやタイムラグをゼロにすることが出来ます。こうしたところもクラウドERPを導入する大きなメリットにつながります。

(図表4、サプライチェーン排出量の考え方:CO2排出量の範囲)
(図表5、サプライチェーン排出量の削減イメージ)
(図表6、流通業(商社・卸売業)向けのERPと物流系システムの統合システムイメージ)

今回は、クラウドERPの新常識についてご紹介しました。2000年台にERPを導入した企業の多くがリニューアルのタイミングを迎えています。既に15年から20年経った旧型ERPでは、現状の変化やこれからの成長戦略には対応できないでしょう。そのことに気づいた企業や未来志向の考え方に対応した新しい世代のERPがクラウドERPだと言えます。即効性とコストパフォーマンスに優れたところがポイントです。重厚長大なERPに疑問を持たない企業は、シンプルな機能やクラウドの可能性について見過ごしがちなのですが、このソリューションが今後の主流となることは既に導入実績が裏付けています。

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