流通DXの要は“欲しいモノがいつも在る”をERP在庫情報の共有からはじめる

ERP業界トップランナーの鍋野敬一郎氏によるコラム「ERP再生計画」第44回「ERPと流通DXのブレークスルーポイント(その2) 流通DXの要は“欲しいモノがいつも在る”をERP在庫情報の共有からはじめる」を公開しました。

□はじめに

 ロシアがウクライナへ侵攻し、ロシアのプーチン大統領が目論んでいた電撃作戦は失敗して膠着状態となっているようです。80年前にも似たようなケースがありましたが、これも電撃作戦で短期に終息するはずの戦争は泥沼化してその国は大敗しました。今回の戦争は、短期間で停戦、終息してくれることを願うばかりです。2022年は、新型コロナウイルスの出口戦略と、サプライチェーン混乱を乗り越えて経済回復が期待される年でしたが、わずか2ヶ月ほどでさらに世界経済の先行きが不透明となっています。今年のトップニュースが既に確定していろいろな意味で歴史的な転換点に立っていたと、後から振り返ることになる2022年だと思われます。こうした状況を踏まえて、流通DXは「安定した世界で成長戦略」を考えるまえに、「激動する状況をまず生き残る戦略」から取り掛かる必要があるようです。どんなに困難な状況でも、迅速かつ機敏に行動する決断と行動が2022年現在の流通業界には必須です。

■2022年における「流通DXのブレークスルーポイント」を探る

 インフレなどによる商品価格の上昇、サプライチェーン混乱による商品の当面続くと考えられます。商社・卸売などB2Bの流通業が直面している課題が、サプライチェーンの混乱による商品の仕入“調達”です。具体的には、国際物流の混乱による調達リードタイムの遅延や調達価格の急激な高騰です。半導体については、昨年から既に大きな問題となっていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻がこれに拍車を掛けています。石油や天然ガスなどエネルギー資源の高騰、こうした資源や資材など輸送の混乱・遅延、物流コスト上昇など、商社・卸売にとっていずれも頭の痛い問題です。商品価格や物流コストの上昇は、企業努力や交渉力で対応できるレベルを大幅に超えて今後さらに厳しい状況が予想されます。これまで「在庫は極力持たない」というのが一般的な考え方でしたが、こうした考え方が許されるのは平常時だけです。コロナ禍や、ロシアによるウクライナ侵攻などといった非常事態発生時には、あらゆる商品の調達リスクが高まります。商社・卸売がまず取り組むべき課題は、主要な取扱商品に関しては可能な限り潤沢な在庫を確保する必要があります。主要な商品の欠品は、企業業績の悪化やお客様との信頼関係崩壊に直結します。取扱量や売上収益を踏まえて、早め早めの対応が必要不可欠です。さらに、供給が途絶えるリスクを考慮したあらゆる代替調達先の確保やサプライチェーン再編が必要となります。(国内暢達先や近隣国の代替暢達ルート開拓など)こうした従来と異なる考え方「主要商品の在庫は切らさない」、「欠品リスクを踏まえた代替品調達先の探索」が2022年からのニューノーマルなのです。

 これまでの考え方では、調達ルートや調達条件の交渉で少しでも安い価格で商品を仕入れるというオペレーションでしたが、商品自体が安定供給されない可能性もあるため、主要取扱品目であるならば、「必要な在庫は可能限り確保する」非常事態が発生している現状の新常識と言えます。80年前の、戦時経済の状況を振り返る必要があるのかもしれません。自動車業界では、半導体や電子部品、ワイヤーハーネスなど部品調達が出来ず生産計画を1割以上減らしている車両メーカーが増えています。しかし、部品メーカーや自動車メーカーが原材料・部品などの在庫を大量に持つというのはありえません。自動車1台作るのに、必要となる部品は約2~3万点前後で、1つの工場で複数の車種を作っていることを考えると、部品の共通化が大きく進んでいても原材料や部品を潤沢にストックするような余裕はありません。必要なときに必要なだけ、部品を生産ラインに届く仕組み「ジャスト・イン・タイム」が生まれた理由がここにあります。つまり、商社・卸売は、こうした自動車業界のバックヤードとしてさらに重要な役割を担うこととなります。いまだからこそ、ネット通販や原材料・部品メーカー直接販売では出来ないことに取り組む必要があります。

■「欲しいモノがいつも在る」ことこそが流通業本来の強み

 さまざまな理由で製造業はものづくりが出来ない状況に追い込まれています。

サプライチェーンが分断されて、これまで築き上げてきた物流網が機能しなくなるという事態が世界レベルで生じています。これまでの流通DXは、品揃えや価格、短納期などが製造業から流通に求められる重要テーマでしたが、現在は「必要なモノが手に入らない」という“ものづくりの根幹に関わるレベル”がより重いテーマとなっています。これまでの感覚だと「欲しいモノが手に入らないから、売れるものがない」という言い分は、流通サイドの説明として間違っていないのですが、それでは「欲しいモノがいつも在る」という流通業本来の強みが感じられません。こうした姿勢が、ネットやメーカー直接販売に顧客を奪われている理由のひとつなのかもしれません。「商社・卸売ならば、どんな商品でも仕入れることが出来て、お客様が欲しいモノをいつでも供給してくれるに違いない」という期待と信頼に応える必要があるのではないでしょうか。筆者はかつて原材料素材メーカーで営業を担当していましたが、工場にも流通にも在庫がない商品について、お客様の要望で至急必要になったときに、別のお客様が予備在庫として倉庫に保管されていた在庫を思い出して、これを一時的に借用して凌いだ経験があります。例えば、このように「必要なモノを必要なときに見つけて手配する」ことなどが流通DXとして取り組むべき課題ではないかと思います。デジタル化だけでは出来ない、従来の発想を超えた取り組みに挑戦する必要があります。

 機械工具卸売業のトラスコ中山では、「在庫は成長のエネルギー」と考えています。

これまでの常識である「在庫は悪」という考えの真逆を行く在庫戦略を成長戦略に掲げている企業です。社長の中山哲也氏曰く、「生産現場で必要な商品をすぐに届けられるよう、幅広い商品をとにかく置いて、置いて、置きまくろう。そういう方針で会社を経営しています」、「現在、在庫として持つ商品は約50万アイテムあります。50万アイテムというのは半端ではない数字だと自負しています。商品を買う側からすると、トラスコとつながるだけで、50万アイテムの商品を即納してもらえる。こんなに便利な会社は他にありません」、「お客さんが一番に求めているのは、必要な商品を必要な時に入手できることです。それを実現するには、早く届ける供給力が不可欠です。品ぞろえや量が十分な在庫と物流設備の充実が本筋だと気付きました。在庫は成長のエネルギーなのです」とのことです。

卸売業のお客様である製造業にとって、「欲しいモノがいつも在る」ことが安心と信頼につながります。“売れ筋の商品”だけ品揃えしている商社・卸売ではなく、これからの時代に求められているのはトラスコ中山さんのようなお客様の困りごとに向き合う企業なのかもしれません。もちろん、全ての商社・卸売が同じことをしても意味がありません。特定の領域やカテゴリの製品を全て揃えて在庫する。在庫が無い場合は代替品を探す、作れるメーカーを紹介する、自ら作って供給するなど前回ご紹介した提案が出来るのではないでしょうか。また、同業者間で互いの得意とする領域の在庫情報を共通して、互いに書い合うことでお客様のニーズに対応するとともに仲間で支え合うということも可能です。

【これからの流通が挑戦するテーマ】(参考例)

「在庫を持たない」→これから「お客様に必要となる在庫は可能な限り在庫を持つ」

「在庫が無いから売れない」→「在庫を持っている他業者をお客様へ紹介する」

「在庫がメーカーや流通で見つからない」→「在庫を探して、お客様が利用できるように手配する」

「値上げはできるだけ避ける」→これから「丁寧に価格説明を行い、お客様の状況理解を得る。欠品を可能な限り回避する」

「決まった価格がある」→「価格はその都度変動する。仕入れ価格+手数料の見せる化」

など

こうした取り組みは、仕組みとしては簡単にはじめることが出来ます。例えば、自社が強みとする領域/カテゴリを決めて、その在庫情報を仲間内で共有公開するだけです。ERPが導入されていれば、特定の領域/カテゴリの在庫状況をリルタイムに共有できます。また、仲間内で品揃えを役割分担して大手と同じレベルで幅広いラインナップの品揃えを揃えることも可能です。仲間内で互いの在庫情報をクラウド上で共有して、その情報を公開するという仕組みやマーケットプレイスを利用した顧客/仕入先開拓も可能です。また、倉庫管理や物流配送などを仲間内で共通化してコストダウンや物流リードタイムを減らすことができます。企業ごとの囲い込みや縛りではなく、これまでのライバル企業が互いに共同協力して、オープンアライアンスを組むことで生き残りを図ります。こうした流通DXのブレークスルーポイントを実現する仕組みとして、ERPと連携する倉庫制御システムや統合型ロジスティクス系システムを考えることができます。

(図表1、倉庫・物流センターの省人化・自動化:統合WCSによる倉庫制御システム)
(図表2、ERPとSCP/SCM連携:統合型ロジスティクス系システム)

今回は、お客様の「欲しいモノがいつも在る」という状況こそが流通DXが目指すべきブレークするーポイントではないかと考えました。モノが手に入らない、モノの価格が全て値上がりしているといった状況に苦慮している製造業の目線で、あるべき姿をイメージしました。ERPシステムの在庫管理/倉庫管理システムの機能拡張と、物流管理/配送管理システムの連携はここ最近のトレンドです。これまではERPとロジスティクスは別々のシステムとして分断されていましたが、サプライチェーン混乱などによってモノと情報のリアルタイム把握ニーズが高まったことで、今後こうした取り組みが増えていくと予想されます。

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