ERPとペーパーレスで狙うDX戦略のターゲットポイント

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏によるコラム「ERP再生計画」第37回「ERPとペーパーレスによる行動変容のDX戦略(その1)(ERPとペーパーレスで狙うDX戦略のターゲットポイント)」を公開しました。

はじめに

 新型コロナウイルスCOVID-19によって、私達の生活や経済活動は大きな行動変容を迫られています。ニューノーマルなどと言われる現状の経済活動において、旅行業や旅客運輸、観光業、エンターテインメント産業、外食産業などはビジネス活動が直接影響を受けています。製造業や流通業も、サプライチェーン分断・見直し、生産活動のロボット化・無人化、ネット通販の増加などと行った間接的な行動変容を強いられています。IT業界においては、リモートワーク拡大や働き方改革への取り組みとして、長年の懸案であったFAXやハンコなど紙文書に関する課題(ペーパーレス)がデジタル化やクラウドの普及によって需要が一気に拡大加速しています。業界ごと企業ごとに明暗がくっきりと分かれて、状況に即応した行動変容が出来た業界や企業はピンチからチャンスを掴んでいます。こうした状況を踏まえて、「ERP再生計画」では、“ERPとペーパーレス”をテーマとしてERPとペーパーレスによる行動変容と、目先のペーパーレスではなくチャンスを掴むDX戦略について考察したいと思います。

ERPとペーパーレスによる行動変容をDX戦略まで高めるポイント

 これまで紹介してきたお話には、「ERP+RPAによる省力/省人化」や、ERPのラストワンマイルと呼ばれる連携を「RPA+AI-OCRによるERPへのデータ取り込みの自動化、効率化」などについて具体例をあげて紹介してきました。いずれも即効性と生産性の向上が期待できる取り組みとして、従来の業務処理を楽にするシステム化、デジタル化です。しかし、これはアナログ(人手による作業)をその部分だけデジタルで置き換えたものなので、厳密に言えばDX化(デジタル・トランスフォーメーション、デジタルプロセス革新)には届いていません。ぶっちゃけ煩雑な業務処理を、システムや便利ツールで置き換えただけです。本来のDX化を目指すならば、プロセスの革新(プロセスを減らす、プロセスを統合する、プロセスを自動化するなど)まで更に一歩踏み込む必要があります。“ERPとペーパーレス”をテーマとしてあげていますが、ERPに関連するFAXや紙(PDFなど電子ドキュメントも含む)を置き換えるだけのツールは既に沢山ありますから、出来ればその先を行くソリューションを考えたいと思います。前述したRPAとAI-OCRによるERP連携ソリューションについても前述した通りです。もちろん効果は期待できますが、効果は限定的で他社との差別化や競争優位性をつくるレベルのDX戦略と呼べるものではありません。DX戦略を狙うためには、やはり一連の業務プロセスをデジタル化して、業務プロセスのデジタル化とそのデジタルプロセスをショートカット、高速効率化するような取り組みを目指すべきだと思います。もう一捻りしたいと思います。

 “ERPとペーパーレス”をDX戦略レベルまで引き上げるために、対象とする範囲(スコープ)の選び方がポイントとなります。他社事例やベンダ提案をそのまま採用するのではなく、ターゲットを絞った対象範囲を選ぶことを推奨します。例えば、社内の業務フロー見直しや業務プロセス変更は、組織やシステム、内部ルールによって企業ごとに状況が異なり、全てのケースに当てはまるソリューションというのも無いわけではありませんが、それ以上に社内政治によるところが大きいと思います。政治的な要素が強い社内業務プロセスは、内部対立や抵抗勢力との戦いを生むというERP導入の苦い経験より対象範囲から外したいところです。“ERPとペーパーレスのDX戦略”として考えたい対象範囲は、社外とのやり取りです。例えば、顧客からの問い合わせや注文には、FAXや紙、ウェブやメールなどいくつかの受け方があると思いますが、1つでも紙が入っている場合その1つの手順をAI-OCRやRPAなどでピンポイントにデジタル化するのではなく、全ての受注業務プロセスをデジタル化することを考えることが出来ます。もちろん受注業務以外に、調達業務プロセスやアフターサービス業務なども同様に展開することが可能です。社外とのやり取りを対象範囲とすることで、具体的な費用対効果を数値や値でロジカルに説明することが可能となります。また、顧客や取引先などに対するメリットをデジタル化して、業務プロセスの変更・見直しで顧客満足度やサービス品質を高めることが可能となります。具体的なケースを紹介すると、米国ハーレーダビッドソン社がERP再構築のタイミングで同時にECサイトを販売店(ディーラー)へ展開した事例があります。ハーレーダビッドソン社は、趣味のカスタムバイクのメーカーですが、お客様は自分のこだわりとカスタムしたいというニーズがあります。純正パーツもあれば、サードパーティのパーツもあり販売店やユーザーグループがその受け皿となって盛り上がります。ハーレーダビッドソン社は、販売店をECサイトに取り込んで、ネット上で納期やオプションパーツの選択などを自由自在に選べるようにするとともに、お客様へメーカーの生産状況をERPからタイムリーに返すことで期待感を高めるという新しい価値を提供しました。これは、ECとERPシステムが連携したことで、お客様個々の注文状況やカスタムパーツの在庫状況から生産計画や業績管理を日々把握することが出来るようになりました。ポイントは、販売店側でお客様からの直接面談による注文や紙による注文など全てをECの注文に集約したことです。FAXや紙など違った手段で注文をバラバラに管理すると、そこで齟齬や無駄が生じますが全ての手順を統合すると、それ以降の注文管理は一気通貫となります。言うまでもなく、全てのドキュメントは電子化されて、オーダーに紐付いていますので“ERPとペーパーレス”も実現しています。こうした情報を見ながら最適な生産と無駄のない業務処理を行った結果、ハーレーダビッドソン社のバイクの納期はオーダー後3ヶ月から2周間へ劇的に改善されました。お客様や販売店は、注文したバイクの納期をいつでも確認することが出来るようになりました。さらに、組立作業前までならば変更可能なカスタムパーツやカラーリングをオーダー後に変えることなども出来るようになりました。受注処理の効率化、納期短縮だけではなく、顧客ニーズと満足度をさらに高めることに成功しています。生産現場では作業が遅れて納期が遅延すればその状況が即座にお客様や販売店に伝わることから、現場担当者の緊張感が増すという効果もあったようです。これは結果的に、生産現場の担当者がユーザーを意識して丁寧かつ納期通りに届けたいという意識改革にも繋がったとのことです。

ERPとペーパーレスの対象範囲を社外との業務プロセスにすべき理由

 その理由は、関係者の合意を得やすく効果がわかりやすいからです。

 言うまでもなく、業務プロセスの変更は抵抗勢力との戦いです。誰も落ち着いている現状の業務を変更したくないので、部分的にデジタル化で自動化や簡単になるならウエルカムですが複数部門を跨る業務プロセスの変更や見直しには腰が引けます。ERP導入プロジェクトの苦労や難しさと同等以上に大変なのがこうしたプロジェクトです。だからこそ、DXの取り組みの大半がPoC(実証実験)で止まるのだと思います。” ERPとペーパーレス”の取り組みも、1つの業務プロセスをツールで置き換えるだけならなんとかなりますが、大きく業務プロセスを革新する場合、社内業務が対象範囲だとほぼ頓挫します。そういう経験より総論賛成各論反対のリスク回避から、社外との業務プロセスにすべきだと筆者は考えます。さらに、プロジェクトのビフォー・アフターを関係者へのアンケート調査を行うなどしておけば、導入効果を客観的に評価できてさらにカイゼンも可能です。

 社外の関係者向けに、従来の業務処理には無かったプラスアルファーのメリットを1つ2つ提供することも有効なテクニックです。前述のハーレーダビッドソン社の受注処理のケースでは、納期情報の見える化やオプション変更の自由度アップというサービスを提供していますが、これにはさらに保険会社を呼び込んで任意保険や車両保険などもオプションメニューに追加して提供することなど可能です。全ての契約や文書類をクラウド上で一括管理すれば、ERPを中心としたペーパーレスを新しいエコシステムとしてパートナー向けプログラムを展開することが可能となります。この場合は、クラウドとドキュメントの統合管理が重要なポイントとなります。契約や履歴など、紙/FAXやPDFファイルなどが混在する現状を全て一元管理するのです。顧客や取引先にとって利便性やメリットがあれば、確実にお客様を引き寄せる魅力あるサービスにつなげることが可能となります。さらに、こうした文書(電子ドキュメント)の情報を項目ごとに整理分類して共通データ(コモンデータと呼びます)としてデータの正規化を行えば、データ活用が加速します。ERPのデータベースは既にテーブル構成などが正規化されていますが、業務に関連するドキュメントは構造化出来ない情報なのでこれを正規化するためには、非構造化データと構造化データの両方を扱えるデータベース(NoSQL型DBやMS Azure SynapseなどクラウドDBなど)をデータレイクとして構築することが可能です。(IT Data Lakeとも呼びます)

<ERPとペーパーレスのニューノーマルの取り組み手順は以下の通り>

1,対象範囲を決める:

→ERPにつながる社外とのやり取り(受注処理、調達処理など)

2,紙の処理を洗い出す:

→FAXや文書、Excel帳票など紙でやり取りする処理を見つける

3,紙以外の処理を洗い出す:

→紙以外で並行する処理を全て洗い出す

4,ERPにつながる集約点を決める:

→紙と紙以外の全ての処理がつながる集約点を決める

5,集約点以降は全てデジタル化する:

→集約点を中心としてデジタル化と業務プロセスを見直す(再設計する)

6,新しい付加価値や訴求点をつくる:

              →社外の関係者向けに従来には無かったメリットをつくる

7,費用対効果を試算して社内の合意を得る:

              →単なるペーパーレス導入ではなく、新しい取り組みとして関係者の合意を得る

8,導入後にビフォー・アフターで評価:

              →導入後評価から更なるカイゼンを行ってERPとペーパーレスの効果を高める

9,システムが安定稼働したところでサービスメニューを増やす:

              →ユーザーのニーズに合わせてサービスを拡充する

10、ユーザーのトレンドを分析してきめこまかく最適化:

              →ユーザートレンドを分析して、売れ筋/死に筋のサービスを継続的に改廃する

              人気が無いサービスはどんどん打ち切る/見直すべき(放置は絶対にしない)

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