鍋野敬一郎氏コラム第34回「新型コロナウイルス後、ERPトレンドのビフォー/アフターはどう変わるのか」

□はじめに

 新型コロナウイルスによるパンデミックは、好調だった世界経済を一気に悪化させました。第一波のロックアウトを経て、経済回復を狙った景気対策や産業振興は一応の成果をあげていますが、予想通り第二波を招くこととなり欧州などバカンスシーズンを経て再度のロックダウンとさらなる景気の悪化が予想されます。企業活動においては、ほぼ全ての産業で業績への悪影響が表面化していますが、特に製造業や流通業はサプライチェーン分断による影響から立ち直れていません。ERPのトレンドは景気に大きく左右される傾向が強く、リーマンショックや東日本大震災の際には需要が一気に冷え込んで回復までに2,3年掛かりました。今回のコロナショックも同様に、ERP導入プロジェクトの多くがロックダウンによって遅延したり、秋頃からスタートする予定だったプロジェクトが見送りや延期となったりするケースが増えているようです。こうした状況を踏まえて、ERPビジネスの最新トレンドになっている「ERP+RPA」について紐解きたいと思います。

■即効性が高い「ERP+RPA」が新型コロナウイルスでさらに加速

 IT業界に係る関係者ならば誰でも知っている通り、1年前のERP市場は活況でした。経済産業省が公表したDXレポートによって、基幹システム刷新とDXによる企業競争力の強化を訴える内容は経営者やIT業界に強いインパクトを与え、ERPシステムに対する需要はここ10年間で最も高い状況でした。ERPの技術者が一気に不足して、少ない技術者でERP導入プロジェクトを進めるという状況が続いていました。ERP老舗ベンダの独SAP社のERPは、このタイミングで旧製品SAP ERPから新製品SAP S/4HANAへの移行タイミングとなり、旧製品SAP ERP製品保守期限が2025年末であるため導入に必要な技術者(コンサルタント)が枯渇するという状況が続いていました。(後にSAP社は、条件付きで2027年へサポート期限の延長を発表)これが、IT業界で言われる「SAPの2025年問題」です。

こうした状況などからERPビジネスは総じて絶好調でした。しかし、新型コロナウイルスによる3月以降のロックダウンの影響で、4月に稼働予定のプロジェクトは軒並み遅延しました。リモートワークでプロジェクトを継続したり、感染防止対策を徹底して、少人数のチームが別の部屋で並行して作業したりするなど、試行錯誤しながらERP導入プロジェクトを継続するケースがありました。その結果、こうしたERPシステム導入プロジェクトは、ロックダウンが解除された夏から秋に掛けて約半年遅れのシステム稼働となったようです。つまり、ERPビジネスは夏頃まで概ね堅調な業績を上げていました。これは、受注残を抱えて製品出荷出来なかった製造業やサプライチェーンが分断されて製品や原材料を輸送できなかった流通業の業績が最悪となった業界から見れば羨ましい結果です。しかし、上半期で新規受注のための影響活動が出来なかったこともあり、下期以降にスタートするERPプロジェクトは大幅に減りそうな状況です。企業の業績が大幅に悪化したことから、投資に対する見直しが避けられず売上アップに貢献しないバックオフィス系のERPシステム投資については、先送りする企業が増加しています。2025年(現在は2027年)に製品保守サポート切れが避けられないSAPの旧製品(SAP ERP)から現行製品(SAP S/4HANA)についても、やむを得ず移行プロジェクトを先送りするケースが増えているようです。不足していた技術者も少しずつダブつき始めているようです。ERPシステムのプロジェクトは、時間も費用も掛かるため状況判断で優先順位が低くなり、これに替わってフォーカスされているのが既存ERPにRPAで高い費用対効果と即効性が期待できる「ERP+RPA」ソリューション導入です。

■ウイズコロナのERPトレンドは、「巧遅」より「拙速」

「巧遅」とは、出来はよいが仕上がりまでが遅いという意味です。

「拙速」とは、出来はよくないが仕事が早いという意味です。

出典は、孫子の兵法『作戦篇』から「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり(物事を為すなら、目の前の全ての問題を一度に解決するのではなく、優先度を決めて1つずつ短期間に解決していく方が良い。巧妙な戦術で長い間戦い続けて成功するのを見たことがない)」という言葉から来ています。今回の状況は、これまでの商習慣や考え方では通用しない事態であり、状況変化に合わせて即時対応が求められる状況だと言えるでしょう。新型コロナウイルスの影響は、一気に好転するとは考えられず当面は対症療法的な行動が避けられないと予想されます。新型コロナウイルスへの対策と経済回復の目処が立つまで、柔軟かつ即効性のある対応が有効だと思われます。こうした判断から、1年間もの時間と大きな投資が必要となるERPシステム導入よりも、3ヶ月程度の時間で現場担当者の作業時間を減らせるRPA導入の方が、「柔軟かつ即効性の高い効果」が期待できます。また、ERPシステム限定で「拙速」を狙うならばサーバ保守期限の5年を目処に稼働環境をオンプレミス(自社サーバ)からクラウド環境へクラウド・シフトするという手もあります。兵法家の孫氏が説いたように、戦術がそれなりでも迅速に行動し早く終結させるが良いと説いています。

 ERPにおける最新トレンドは、ERP導入プロジェクトよりも既存ERPシステムに出来るだけ手間暇を掛けずにより良く利用するという方向に向かっています。その手段の中心となっているのが、RPAを活用した「既存ERPの弱点を補うRPA」による即効の高い補完リューションだと思われます。費用対効果の目安は、作業時間短縮による省力化・省人化(人件費や残業代の抑制)と働き方改革(リモートワーク促進と属人化している業務の標準化)にあります。RPAの最新ソリューションは、業務の工程をテンプレート化してこれを繋ぎ変えて短期間かつ即時導入が可能です。また、ERPなどに蓄積されたデータをデジタル化して、そのパターンから次の処理をAI(機械学習)で判断するというデータ活用による業務の最適化を実現化する取り組みも増えているようです。

 新型コロナウイルス後にERPトレンドのビフォー/アフターは、柔軟かつ即効性が期待できる短期導入できるRPAや、オンプレミスからクラウドへ基盤システムをリフトする(クラウドへ移行する)DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みだと言えるでしょう。DXの取り組みには、企業内から業種内、さらに異業種間へとデジタル化の発展フェーズを考えることができます。ERPは、企業内のデータ基盤としてその中心にあるものとして、位置づけることが出来ます。以下に最近のERPトレンドにおける注目ポイントを3つご紹介します。

 『クラウド・リフト』(クラウドの利用)

→オンプレミスのERPをクラウドへリフト(移設)してシステム運用を軽くする

 『デジタル・シフト』(デジタル化とデータ共有への取り組み)

→属人化した業務をRPAで処理するのではなく、業務をRPAのテンプレートで

標準化してこれを組み合わせて処理する仕組み

 『データドリブンサービス』(データ駆動型サービス)

→ERPに蓄積されたデータからRPAとAI(機械学習)を使って処理サービスを加速

つまり、現場担当者の繰り返し業務(ルーティン)をクラウドへ移行したり、RPAで置き換えたりするレベルから、ERPなどに蓄積された過去データのパターンから最適な選択を提案するデータ・ドリブン(データ駆動型)のソリューションに注目が集まると考えられます。

以上

Let's share this post!
TOC
閉じる