保険業界のドキュメント処理とAIの可能性

保険業界で利益を得るためには、顧客を獲得し維持することがとても重要です。保険業界では今、AIなどのスマートテクノロジーによる顧客エクスペリエンスを重視し、コミュニケーションの摩擦を取り除くことに焦点を当てている、新しいタイプの企業が出現しています。フィンテックが個人向けの銀行業務で成し遂げたように、新しいインシュアテック(保険×テクノロジー)もスマートなモバイルアプリを通じて顧客エクスペリエンスを変革しています。携帯電話のカメラを入力チャネルとして統合し、データを収集して1人1人の顧客に合わせたサービスを提供しています。デジタル面で競争するということは、つまり、顧客エクスペリエンス周りの処理から摩擦を取り除くために、AIや、今までよりスマートなテクノロジーを重視するということです。

この業界では、主にバックオフィスでルーチン化されているサポート業務の自動化を目的として、ロボットによる業務自動化(RPA)がすでに取り入れられています。RPAの採用が拡がるにつれ、保険業界は顧客エンゲージメントの最前線でボットを使用することがこのテクノロジーの大きなチャンスであることに気付きつつあります。エンゲージメントの摩擦を取り除くためにボットを活用すれば、AI投資の焦点としてバックオフィスをすぐにでも覆すかもしれません。

ドキュメントの重要性

どのようなテクノロジーが使われていようとも、保険業界はドキュメントやメッセージのような構造化されていないコンテンツを通じて、顧客とのコミュニケーションをとっています。顧客エンゲージメントではAIや自動化に注目が集まっていますが、ユーザーが電子メールからドキュメントを開いたり、データをエンゲージメントシステムに入力したりする一連の作業の最後まで、それらのドキュメントの処理が後回しになっています。ドキュメントをそれぞれの過程にふさわしい形のデータにリアルタイムで変換することが、顧客対応の際に適切な自動化や意思決定を行うために非常に重要になります。

しかし、このプロセスは顧客エンゲージメントの機能として十分に発見され、理解され、マッピングされていないため、この重要性はしばしば見落とされています。OCRやRPAはこれらのプロセスで自動化の役割を担うことができますが、OCRやRPAは既存のプロセスを最適化するためのプロジェクトに段階的に導入されることがほとんどで、顧客エンゲージメントプロセス全体には目が向けられていません。

研修や引受から請求査定、アップセル、コンプライアンスにいたる顧客エクスペリエンスジャーニーにおける最大の摩擦点は、はるか昔に解決済みだと思われるかもしれませんが、実際には未解決です。スキャン業務やサービス業務がモバイルカメラや電子メールなどのデジタルチャネルに置き換わった今、これらの機能が完全にデジタル化されたかのような印象を与えています。しかし、入力チャネルがいくらデジタル化されたとはいえ、ドキュメントの内容を取り込む点についての基本的な問題は、ほとんど解決されていないか、手動の紙ベースのドキュメントを使っていた時代と同じように取り扱われているままです。

入力チャネルやバックオフィスのスキャン方法を変更しても、保険業界がこれらの機能をプロセスの一部として考慮しなかったため、フロントラインの顧客サービスエクスペリエンスにおけるドキュメント処理の問題が解決されることはありませんでした。保険ドキュメント自体もまた、自動化における問題を引き起こしています。これらのドキュメントは複雑で、バリエーションに富み、大量に発生することが多いためです。損害通知書、報告書、見積書、請求書、補足資料は、自由形式のテキスト、入れ子になった表、そして可変的な情報源からの予測不可能な形での可変的な情報であふれており、個別に処理する場合でも難易度が高く、さらに量が増えれば指数関数的に悪化することになります。ここで、コンテキストや顧客のニーズ、ドキュメント自体の複雑さを理解し、これらの問題が発生した際に対処することが、AIにとって大きなチャンスとなるのです。

課題:ドキュメントのprocess(工程)とprocessing(処理)

ドキュメント周りの顧客エクスペリエンスを自動化するためには、ドキュメントの取り扱いに関する2つの基本的な点が明確に理解される必要があります。それは、process(工程)とprocessing(処理)で、これらは同じように見えるものの、違いがあります。process (イベントやアクションの流れ)の中に顧客エクスペリエンスとエンゲージメントが存在し、これらの流れを自動化することが、スピードや品質、満足度の鍵となります。顧客エンゲージメントのプロセスでは、ドキュメントを受け取った時点で情報を探し出して検証する必要があります。

processingとは、ドキュメントを配置し、準備し、識別し、分類し、データ抽出や検証のためにドキュメントを読み込み、そしてプロセスやシステム、意思決定者にドキュメント公開する方法のことです。保険業界ではスマートフォンや電子メールに添付されたPDFから得られたドキュメントの大部分をデジタル化していますが、実際のコンテンツの処理は、エンゲージメントの時点ではなく、プロセスの最後に行われています。その結果、保険会社は、顧客が提供する最も価値のあるコンテンツである保険金請求書、補足資料、明細書、報告書、送り状などの処理がプロセスの最後まで先延ばしになり、顧客との「リアルタイムな」時間を失っています。このような分岐プロセスは、完全に統合されたドキュメント処理と比べて、顧客にさらなる摩擦や遅延、フラストレーションを与えてしまい、意思決定やフォローアップの助けになる良質なデータをリアルタイムで入手することができなくなってしまうのです。

ドキュメント処理全体に慎重に導入された人工知能(AI)ではこれらの課題に対処することができますが、多くの場合、AIはプラグアンドプレイの自動化(例えばOCRプロジェクト)として単純化されすぎています。あるいはさらに悪いことに、プロセス全体ではなく、プロセスのたった1箇所にのみ焦点が当てられています。ドキュメント内の文字をデータに変換することは非常に重要ですが、抽出されたデータのコンテキストや関係性、存在、意図を理解することこそが、自動化の実際の利益を得るために重要なことです。AIはこれらすべての分野で大きな進歩を遂げており、特に顧客ジャーニーにおけるドキュメントの存在、意図、役割にとって必要なコンテキストを発見し、理解することができるようになっています。AI活用のチャンスは、テキスト段階の機能の認識だけではなく、文書のエンドツーエンドの処理を顧客ジャーニーの本質的な部分として重要視することにあります。

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参考ブログ

本コラムはこちらのブログを参考に執筆者の見解でまとめたものです。Abby社の公式見解ではありませんのでご注意ください。

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