クラウドERP成功の秘訣はスピードと使い分け

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第23回:クラウドERP成功の秘訣はスピードと使い分け を公開しました。

□はじめに

 日本企業がERPを使い始めて、約20年が経ちました。当時は最新だったERPも、現在では老朽化した“レガシーERP”と呼ばれることとなり、老朽化した基幹システムが2025年以降の成長戦略に影を落とす懸念があるという衝撃的なレポートが、経済産業省が公開したDXレポートです。さて、こうした状況と並行して、ERP市場ではクラウドERPが急速に普及しているというお話を前回させて頂きました。クラウドERPには、IaaS型クラウドERPとSaaS型クラウドERPの2つのタイプがあります。今回は、その違いと使い分けるポイントについて簡単にご紹介いたします。

■“IaaS型とSaaS型”クラウドERPでもニーズや用途で使い方が違う理由

 クラウドERPが急速に普及しているという話をしましたが、クラウドERPには、IaaS型とSaaS型の2つのタイプがあります。IaaS型クラウドERPとは、パッケージ版のERPシステムをクラウド環境に導入するやり方です。パッケージ版のERPシステムならば、プライベートクラウド環境でもパブリッククラウド環境でも導入できるのでIaaS型クラウドERPは確実に増えています。クラウド基盤としてよく利用されているのは、パブリッククラウドだとAWSとマイクロソフトのAzureですが、最近ではグーグルのGCPやアリババのAlibaba Cloud、オラクルのOracle Cloud、IBMのIBM Cloudなど幅広い選択が可能です。それぞれ特徴があり、メリット・デメリットがあります。全てのクラウド基盤に等しいメリットとしては、物理的なサーバが無いので定期的なサーバの更新などが無くなること好きなタイミングでスケールアウトが出来ることです。オンプレミスでは、定期的に契約更新やサーバ更新の作業などが必要になるので、そのタイミングで費用や作業が発生します。企業は、ERP以外にも複数のサーバを抱えているので、その更新作業や維持管理の手間が絶え間なくやってきます。このようなシステムをクラウド基盤に移行すればこうした手間を省くことが出来ます。最近良くある相談は、全てのシステムをクラウド環境へ移行したいというものです。当然統廃合して、極力システムを絞り込んでコストと維持管理作業の見直すのが狙いです。これは、ERPなど基幹システムのリニューアルに伴って行うことが多く、最近のクラウドならば考えている以上に簡単に全てのシステムをクラウドへ移行出来ます。結論から言えば、移行出来ない幾つかのシステムやパッケージソフトの買い直しが生じます。しかし、保守運用の手間や管理コスト(主に人件費)を考えると、確実に全てのシステムをクラウド環境へ移行した方が確実にコストも作業負荷も削減できます。移行費用も含めて、5年間の総保有コスト(TCO)で約1割~3割はコスト削減が可能です。想定されるデメリットは、クラウド基盤やネットワークの障害によるシステムダウンです。想定外のシステムダウンは、必ず発生することを前提としたBCP対策を立てておく必要があります。システムダウンするのが、平日なのか休日なのか、就業時間中なのか就業時間外なのか、ダウンタイムが2時間未満なのか4時間未満なのか8時間以上なのかなど想定される障害のパターンを想定して対策を立てておく必要があります。これは、IaaS型でもSaaS型でも同じです。

 SaaS型クラウドERPの特徴は、基本契約と最低ユーザ数を満たせばその後は1ユーザごとに契約数を増減させることが出来ます。会社が成長してユーザ数を使い出来ますし、使わない場合は減らすことも可能です。パッケージライセンスだと、購入したライセンス分だけ使っていないユーザ数分も保守料が発生します。(ベンダによっては利用していないユーザ数分は保守料を停止することも可能)つまり、費用のムダを減らすことが出来ます。また、SaaS型クラウドERPはパッケージライセンス(ソフト)やサーバ(ハード)を購入するのではなく利用しているだけなので、資産としての償却する必要が無くなります。つまり、光熱費と同様に経費として処理できます。但し、システム構築費用は利用料ではありませんからシステム費用としてクラウドを会計処理する場合の検討を経理部門と相談しておく必要があります。(無形固定資産など)ちなみに、基幹システムをクラウドへ移行したお客様の多くがシステム予算の3割以上を経費として処理して、残りを無形固定資産として扱っているケースが多いようです。

IaaS型とSaaS型で経理処理のクラウドの資産計上について異なりますので、機能面のメリット・デメリットだけでなくシステム資産としての取扱いを経理財務部門と相談しておく必要がります。(参考「クラウド型システム、クラウドサービスの経理処理」、URL:http://hasirucpa.com/2018/12/06/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E5%9E%8B%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%80%81%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%B5%8C%E7%90%86%E5%87%A6/ )

 参考までに、オンプレミス/IaaS型クラウドERP/SaaS型ERPの簡単な比較表を作成しましたのでこちらをご覧ください。

■IaaS型クラウドERPとSaaS型クラウドERPを使い分けるコツ

 このように、クラウドERPには、IaaS型クラウドERPとSaaS型クラウドERPの2つのタイプがあります。どちらが良いというのではなく、目的と用途によって使い分けるのが良いでしょう。まだクラウドERPのノウハウは確立されていませんが、複数の子会社や関連会社を持つグループ会社を想定してクラウドERPの使い分けを考えてみます。IaaS型は、AWSやマイクロソフトAzureなどのパブリッククラウド基盤やプライベートクラウド基盤上にERPシステムを開発します。IaaS型を選択するメリットは、これまでの開発経験や保守運用ノウハウを生かしながら、サーバ費用を削減したり保守管理リソースを省力化、効率化したりすることが出来ます。物理サーバ更新の手間や作業を省くことが費用削減効果となります。個別要件に対応したカスタマイズやアドオン開発が可能なため、お客様要件への対応や業種特有の機能に対応しなければならない流通系やグループ会社のホールディングスや大手企業にはIaaS型が向いていると思われます。(図表2、2階層ERPの使い分け) SaaS型は、柔軟性とスピードが求められる事業会社やグループ会社の子会社・関連会社などへ短期間で展開するのに向いています。不足機能は、IaaSやPaaSで不足機能を開発して補完します。SaaS型クラウドERPは、毎年1回以上バージョンアップされますのでERPシステムに直接アドオン開発などはしません。(原則許されない)バージョンアップ時に、外部連携するシステムとの動作確認を行うことになります。事業の成長に合わせてユーザ数を増減出来るため、ムダな費用が掛からずシステム運用の手間も最小限で済むため最近では多くの企業が、海外拠点やグループ子会社などにSaaS型クラウドERPが導入されています。

 クラウドERPのIaaS型とSaaS型を使い分けることで、グループ会社全体の日々の活動を網羅することが可能となります。組織レベルごとに目標や管理指標(KPIs)を整えることで、グループ会社、子会社それぞれの活動スピードを早く回すことが可能となります。クラウドERPは、コスト削減や保守運用の省力化だけではなくオペレーションデータの実績データ収集をリアルタイム化することによって機敏な企業経営にも効果を発揮することが可能となります。

以上

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