業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第21回:ERP+RPA/AIで実現されるお客様向けサービスの差別化 を公開しました。
□はじめに
人手不足に対する即効性と手軽さから、RPAはこの2,3年で急速に普及しています。国内のRPA市場は急成長していて、調査会社ITR社の発表では2018年度は約88億円と前年35億円の2倍以上の伸びとなっています。今後も引き続き堅調な伸びが期待され、2019年度は160億円、2020年度は260億円と予測されています。即効性の高さと分かりやすい効果からブームとなっているRPAですが、必ずしも導入して効果が得られたという成功ケースだけではなく、失敗するケースや上手く効果を出せないケースも報告されています。「RPAの処理がエラーで停止していた」、「間違ったデータを使って無意味な処理を続けていたのを気づけなかった」、「業務の見直しが煩雑にあってRPAの設定変更が追い付かない」、「同じ業務なのに担当者によって属人的なオペレーションのためRPA導入できなかった」など普及が進むほど問題点や課題も増えています。製品の進化も著しいため上手に使いこなすノウハウの習得が重要です。現在RPA導入対象となっているのは、会計や購買、請求などオフィスのバックオフィス業務を対象としたものですが、今後は工場など製造現場やお客様向けサービス業務にもその範囲は広がっていくと予想されます。また、こうした対象業務の拡大と並行して、前回ご紹介したようにRPA機能の進化(クラス2)が始まっています。今回はERP+RPA/AI(クラス2)についてご紹介したいと思います。
(出所:ITR2018年10月25日プレスリリース「ITRがRPA市場規模推移および予測を発表」 URL:https://www.itr.co.jp/company/press/181025PR.html
■機械学習機能を持つRPA/AIで可能となる新しい使い方とは
RPA/AI(クラス2)とは、判断する機能を備えた第2世代のRPAです。その判断の元になるのは、蓄積されたデータによるものです。機械学習の機能に、品質の揃った良いデータを大量に読み込ませることで、正答率の高い判断に近づくことが出来ます。機械学習の基本は教師あり学習です。正答率を高めるポイントは、データの量と品質だと言われていますが、ERPに蓄積された大量データをさらに抽出処理することで品質を高めることが出来ます。つまり、このRPA/AI(クラス2)には、①ルーティンワークを自動処理する、②状況や条件から簡単な選択肢を判断する、という2つの機能が備わっています。
人間の役割は、自動処理された結果のチェックとRPA/AIが選択した処理手段が適切なのかを見極めることです。入力作業や簡単な判断は、RPA/AIが自動処理するので、これまで掛かっていた作業時間を大幅に短縮することが出来ます。しかし、そのRPA/AIの判断には「蓄積されたデータ」が必要となります。つまり、はじめて行う作業やデータが蓄積されていない場合にはRPA/AIは上手く判断できません。
ERPの中には、業務や機能ごとにデータが蓄積されています。蓄積された膨大なERPのデータをAIの機械学習に読み込ませて、これまで人間が行っていた作業をシステムに代行することが出来ます。代行する業務は、先行企業の事例を参考にしたモデルをシナリオごとにひな形(テンプレート化)として利用することが出来ます。この業務シナリオのひな形を、IBM社では「学習済みWatson」、SAP社では「インテリジェントアプリ」と呼んでいます。現状のAIと違うのは、シナリオごとにどのようなデータを集めれば効果が期待できるのか分かります。AIの専門知識が無くても、AIを手軽に利用できます。RPA(クラス2)では、こうしたAIの機能が追加された処理が可能となります。SAP社は、ERPにAIソリューションの機械学習機能を組み合わせてこれをテンプレート化して提供しています。(参考までに、SAPジャパンのブログよりERPと機械学習で可能となるシナリオを見てみましょう)
■ERPに蓄積されたデータを活用して自動処理で新しいお客様サービスを提供する
ERP+RPA/AI(クラス2)の利用場面について考えてみたいと思います。
第19回では、“営業職”の人手不足を解消する手段として「ERP+RPA+SFA」という組み合わせを考えました。第20回では、AI機械学習の機能が追加されたRPA/AIの紹介とこれにERPに蓄積されたデータを組み合わせた入金処理のケースをご紹介しました。ポイントは2つです。1つ目はRPA/AIの判断機能を利用すること、2つ目はERPに蓄積されたデータを使って新しいお客様サービスを自動処理で提供することです。顧客情報は、営業とアフターサービス/メンテナンスの主に2つの業務部門に蓄積されています。このいずれかの業務部門に蓄積されたデータを利用して、お客様サービスを拡充することが出来ます。企業によってERPは会計しか使っていないとか、顧客情報はCRM/SFAにというケースもあると思います。会計しか使っていないという場合は、契約情報や取引金額しか分からないため残念ながらお客様向けの新しいサービス提供は難しいでしょう。しかし、ERPの販売管理やアフターサービス/メンテナンス管理または、CRM/SFAを導入している場合にはここに顧客情報が蓄積されていますので可能性があります。
顧客サービスで、差別化し易いのはアフターサービス/メンテナンスに関する情報です。顧客別/製品別/商流別など、システムに蓄積されたデータからを必要な情報を抽出してデータを活用したサービスの提供が出来ます。アフターサービス/メンテナンスの評価が高くなれば営業活動にも良い影響が期待できるためです。BtoC(企業と消費者の取り引き)では、アフターサービスは売上を左右する重要なサービスのひとつですが、BtoB(企業間取り引き)では消耗品供給や故障したパーツの配送対応など人手や手間が掛かるため割高なサービスが多いのが実情です。しかし、最近ではBtoCのネット通販(ECサイト)の機能を利用して消耗品やパーツの在庫ストックや発送手配は代行業者へアウトソーシングして、消耗品の補充や故障パーツの取り換えはPDFファイルや動画データで提供し、問い合わせ対応はネット経由で行うことでコストと手間を掛けずに顧客満足度を上げることが出来ます。RPA/AIを利用するシナリオとして故障対応のケースを考えると、ERPに蓄積された取引履歴やサポートのデータから処理を自動化することが出来ます。簡単なパーツ交換ならば、部品の発送手配までほぼ全て自動化することが可能です。セルフサービスでの故障対応が難しいとRPA/AIが判断した場合には、そこから先の対応を修理担当者が引き継いで従来通りマニュアル対応で対応します。保守契約も見直して、消耗品提供やパーツ交換で済むような場合はその料金だけで済むようにしたり、故障を嫌って技術者対応などの手厚いサポートを求める顧客にはサブスクリプション契約(モノを買い取るのではなく、モノを借りて利用した期間に応じて料金を支払う方式)にしたりすることで他社との差別化を狙うケースが今後は出てくることが予想されます。このようにRPA/AIは、ビジネスを進化させるブースターになり得ると考えることが出来ます。
これまではこうした作業対応すべてを人が行っていましたが、今後はRPA/AIという代行手段を利用することが出来ます。これによって人件費などのコストを抑えるとともに、正確かつスピードの速いサービス提供を安価に提供することが可能となります。営業やアフターサービス/メンテナンスに掛かるコストの大半は、業務遂行に必要な人を維持するための人件費によるものなので、RPA/AIで置き換えることでサービスレベルを上げるとともにコストを下げることが出来ようになるでしょう。
即効性の高さと分かりやすい効果からブームとなっているRPAですが、必ずしも導入して効果が得られたという成功ケースだけではなく、失敗するケースや上手く効果を出せないケースも報告されています。「RPAの処理がエラーで停止していた」、「間違ったデータを使って無意味な処理を続けていたのを気づけなかった」、「業務の見直しが煩雑にあってRPAの設定変更が追い付かない」、「同じ業務なのに担当者によって属人的なオペレーションのためRPA導入できなかった」など普及が進むほど問題点や課題も増えています。製品の進化も著しいため上手に使いこなすノウハウの習得が重要です。こうした困難を乗り越え、さらにその先にお客様向けサービスの強化や差別化なども視野にいれた取り組みが求められることになるでしょう。ERP+RPA/AIという考え方は、こうした状況において今後更に期待できでしょう。
◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より
鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第21回「ERP+RPA/AIで実現されるお客様向けサービスの差別化」はいかがでしたでしょうか?釈迦に説法になるとは存じますが、AIでもRPAでも、インスタントに購入していきなり成果が出るものではありません。それぞれに導入・活用のノウハウがその企業ごとに育て上げられなければ大きな成果が上がらないと思います。つまりは先行ではじめていくことが重要なのではないかと考えています。このコラムを掲載いただいている日商エレクトロニクスでは、RPAの特設ページを作り、自社導入の調査データも公開しています。興味がある方は以下のページもご覧ください。また、実際に日商エレクトロニクスのコンサルタントにもご相談ください。良い提案ができると思います。
RPA https://erp-jirei.jp/rpa_jirei
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このコラムを連載いただいている日商エレクトロニクスでは先駆者としてRPAの自社導入にも取り組んでおり、経営企画部、財務経理部、人事総務部の3部門でRPAをGRANDITE連携で導入し、ROI 590%と770万円のリターンを実現しています。そして成功事例の分析資料も以下のセミナーレポート内で公開しています。興味がある方は是非ダウンロードください。こちらにはガイドライン的なものも書かれています。
【レポート】ERP勉強会 次世代ERPに求められる条件
https://erp-jirei.jp/2018/03/23/semi-35/