業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第80回「日本の関税が24%、トランプ関税に対抗する短期的対策と中長期的対策とは~低率関税国を経由した輸出と米国現地生産サプライチェーン構築を支えるERP/SCP~」をご紹介します。
□はじめに
米国トランプ大統領が、2025年4月3日早朝(米国ワシントン時間4月2日)に発表した相互関税によって、日本は24%の関税が課されることになりました。言うまでも無く、世界経済は大混乱に飲み込まれることになります。さらに、アメリカに輸入される自動車には一律に、25%の関税も課されます。例えば、300万円の自動車は、これまで乗用車2.5%の関税で308万円が米国での価格でしたが、ここで新たに25%の関税が課されて375万円となって75万円値上げされることになります。それ以外の日本から米国へ輸入される全ての製品に、一律24%関税が課せられるため、日本製の製品需要に甚大な影響があります。自動車、機械、食品など、業種に関係なく米国企業と貿易する企業の業績は押し下げられることが予想されます。ただし、米国内に工場があって現地生産している企業への影響は少ないと考えられます。米国企業や米国民は、関税の掛かった輸入製品をこれまでより高い価格で購入することになります。EUは関税20%、や中国(関税36%追加で関税54%)は、報復関税を課すとしていますが、日本政府は報復関税を考えていないようです。報復すると、安全保障などでより厳しい要求が予想されるということもあります。さて、このコラムでは前回と前々回の2回でトランプ関税についてお話してきましたが、今回発表された相互関税は大統領選挙で公約としていたことでもあり、ほぼ想定通りの内容でした。今回は、この対策について短期的対策と中長期的対策について考えたいと思います。

■短期的対策は迂回国経由で関税率を減らしてアメリカ市場に輸出すること
「日本の関税24%」は、EUの20%、英国の10%、シンガポールの10%と比較すると高く感じます。しかし、これが24%の半分12%となっても自由貿易によってほぼゼロから数パーセントで貿易していたことを考えると、それでも対応は難しく米国での販売価格を値上げせざるを得ないと思われます。とは言え、10%程度の値上げであれば製品の機能や品質などで米国製品より優位であれば需要の減少を最小限に抑えることが可能かもしれません。自動車は一律25%関税なので難しいかもしれませんが、日本製の機械や食品などが値上げされたから、アメリカ製へ乗り換えるというユーザーが一定数あると思いますが、10%程度ならば日本製を買っても良いと考えるユーザーは多いでしょう。
サプライチェーンの変更は、当然簡単ではありません。
短期的対策は、関税を回避して少しでも安くアメリカ国内へ輸出するならば、関税率が低いシンガポールなどを経由するという考え方があります。そのときに最も関税が安いルートを算定して、そのルートを選んでアメリカ市場へ製品を送り込みます。経由国の貿易量が急激に拡大すると、トランプ政権は関税率を変更する可能性があるため、複数の迂回ルートで関税率変更に備えることも必要かもしれません。日本企業の場合は、言うまでも無く最も関税率が低いシンガポール(相互関税率10%)経由でのアメリカ輸出となります。そして、バックアップとして次に関税率が低いフィリピン(17%)の迂回ルートを併用します。もし、トランプ政権がシンガポールの関税率を上げたり日本企業の迂回ルートに制限を掛けたりする場合には、フィリピンの迂回ルートへスイッチして次の対策までの時間を稼ぎます。
中長期的対策は、言うまでも無くアメリカ国内に工場をつくることです。しかし、工場をつくることは時間が掛かります。手っ取り早く、現地メーカーの工場を借用または買収して生産ラインを稼働するだけでも6か月から1年間は必要だと思います。また、長期的に生産することを考えると1年から2年間で準備しなければ米国市場を失うことになるかもしれません。EUや中国は、アメリカに対して報復関税を掛けると表明していますので自由貿易によるグローバル経済の発展は終わったと考えられます。サプライチェーンに関するこれまでの常識が、トランプ関税によって全く意味が無くなるとともに世界貿易戦争が始まったと認識を新たにする必要があります。中国とアメリカの両方と貿易で経済発展してきた日本にとって、歴史的な転換点だと考えられます。

■グローバル経済の終焉、トランプ関税のブロック経済に対処できる企業システムとは
トランプ大統領による相互関税は、トランプバズーカとでも言えるくらいこれまでのサプライチェーンを一撃で破壊する影響があります。コスト優先のサプライチェーンは、グローバル経済を前提としているため、トランプ関税による貿易戦争、ブロック経済では機能しません。この状態がいつまで続くのかは不透明ですが、関税や為替のリスク回避を前提とした短くシンプルで強靭かつ変化に強いサプライチェーン再構築を目指す必要があります。
トランプ関税の特長は、全く予測が出来ないことです。トランプ大統領やその側近の思い込みや思惑で、状況や条件がどんどん変化します。つまり、変更にどれだけ機敏に対応できるかの変化対応力スピードが勝ち抜くポイントだと考えられます。こうした状況に対応するシステムは、計画/実績を管理するERPシステム(MESやSCADA、スケジュールなどと連携)、関税や条件の変更をシミュレーションするSCP(サプライチェーン・プランニング)システム、そしてリアルタイムに変化する状況をデータ解析/予測するAIシステムの3つが連携した仕組みを構築するという方法があります。
目指すのはサプライチェーン短縮、サプライチェーン変化対応力の強化によるエリア別地産地消モデルによる生き残り戦略です。かつて同じ起源を持つ種が、地域ごとの環境に適応して進化するような進化モデルと同じ考え方です。今回のトランプ関税は、その変化点だと考えると前向きに取り組むしか生き残る道は無いような気がします。

今回は、これまでお話してきたトランプ関税に対する対抗できる基幹システムの取り組むべき方向性と心構えについて考えてみました。いまこの時点で、企業がどれだけ危機感を持って対処できるかが重要だと思います。これまでのやり方や考え方では、この危機を切り抜けることは難しいと考えます。このタイミングで、全社で、各組織で、この先3年、5年、10年先の生き残りを考えたビジネスモデル変革を議論することをお勧めします。答えは1つではなく、状況は刻々と変化するので考え続ける必要があります。
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