業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第81回「トランプ関税からひと月、グローバル企業はどう動いたのか?~アップルとホンダの関税対策からサプライチェーン再構築のヒントをつかむ~」をご紹介します。
□はじめに
トランプ大統領が自信満々に発表した相互関税は、株価や米国債券、為替などの乱高下を招き金融市場の混乱と世界経済の見通しが悪い方向へ不透明となっています。しかし、トランプ大統領は自信満々で、日替わり定食のメニューのように関税の対象をコロコロと変えているため不透明感がさらに増しています。日本政府は、赤沢大臣による直接交渉を進めていますが、自動車など分野別関税の撤廃を求めていますが交渉はまだ途上です。
トランプ大統領は、強気の姿勢を崩していませんが今年2025年1月から3月までのアメリカのGDP(国内総生産)は、3年ぶりのマイナス成長を記録しました。「バイデン政権の問題だ」とトランプ大統領は一蹴していますが、次の4月から6月の結果が良くなる可能性は低いのではないかと言われています。そう言われている背景には、中国から米国へのコンテナ物流量が半減する勢いで減っていることや、原油価格の急落(5/7現在で50ドル台)であり主要産油国OPECプラスのネット会合で5月からの増産が決定されたことなどが理由です。米国は、世界で有数の産油国ですがシェールガスは採掘コストが高く原油価格60ドル台が損益分岐点だと言われています。従って、これを下回る原油価格となれば景気が悪化する懸念があります。
トランプ大統領が目指すアメリカファーストの世界は、アメリカ国内の分断と世界の混乱を招いています。これまでのアメリカとは既に別の国のように見えるほど激しい変化です。こうした激しい環境の変化において、企業はどのように対処しているのかについてアップルとHONDAのニュースから機敏な判断が出来る理由や仕組みについて考察してみたいと思います。
■アップルは米国向けiPhone/Macの生産を中国からインド・アジアへシフト
トランプ大統領が相互関税を発表してから、約2週間後の4月18日アップルは米国向けアップル製品(iPhone/Macなど)の生産を中国からインド・アジアへシフトすると発表しています。現在iPhoneの生産は、中国で77%、インドで23%となっているとのことですが、この比率を逆転させて中国から米国への輸出(関税145%)をインドから米国(関税26%)へシフトするとしています。アップルの試算によると4月~6月期の関税負担などが9億ドル(約1300億円)追加費用がかかる見通しとしています。さらに、リスク分散から生産拠点をアジア各国へ展開していたことからMacなどの製品もベトナム(関税46%)やインドネシア(32%)から米国へ出荷するとしています。実際には、技術的な問題や生産体制の準備を整える必要があるため時間が掛かることが予想されます。いずれにしても、たった2週間でサプライチェーンの大規模な変更を決断する決断力とこれを支える数字の裏付け(サプライチェーン計画SCPと実行を支えるERP基幹システム)がしっかりしていることが伺えます。

■ホンダは主力車種の生産をカナダ・メキシコから9割を米国生産へ転換を検討
ホンダは、米国で世界全体の4割弱にあたる142万台を販売していて、このうち7割にあたる約100万台を米国で生産しています。米国で3割増産すれば、米国販売分の9割相当を現地生産できるようになります。現在ホンダが米国に出荷する年間50万台のうち、カナダからの輸入が約30万台で、その主力となるSUV車の「CR-V」とセダン車の「シビック」を米国へ移管するとともに生産能力を引き上げる検討をしているようです。移管が完了するまでには2年程度必要だと言われていますが、トランプ関税による追加費用は年間7000憶円と試算されているためこれを減らす取り組みとして検討が進められています。また、トヨタ自動車も公式発表で米国ウエストバージニア工場に8800万ドル追加投資して新しい生産ラインをつくるとしています。

アップル、ホンダ、トヨタ自動車などそれぞれグローバル展開している製造業ですが、寝耳に水と言われたトランプ関税の発表からわずか2,3週間でサプライチェーン再構築の影響と対策を即時に整えて打ち出せるのは驚嘆するに値します。ひと月間で、たった1つの製品の納期を変更するだけでも、それなりに調整や準備に苦労していた筆者にとっては「嘘だろう⁈」というレベルのスピード感です。確かに、サプライチェーン再構築によって生産拠点と出荷ルートの変更を行うことは、トランプ関税が国別で関税率を変えていることから予想は出来ましたが、これを実際に試算して調整して公表するのはどの企業でも出来ることではありません。トップダウンでの決定は当然ですが、実際に現場が動かなければもちろん実現できませんからその目処があると分かります。そして、これを支えているERPシステムやSCP(サプライチェーン計画/実行)システムもハイレベルであることが推察できます。
今回は、このようなテーマのコラムを書く予定ではなくサプライチェーン再構築とERPシステムの連携ポイントについて書く予定だったのですが、トランプ関税発表後わずか2,3週間でこうしたニュースが次々と発表されたことから、内容を変更してこのコラムを書くことにしました。世界には凄い企業があるのですね。ビックリでした。
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