業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第82回「令和の米騒動から考える、ERP再生は在庫管理と物流管理から始める理由~JA全農と農協流通が備蓄米を抱え込んだ結果、旧型の中間流通業者が中抜~」をご紹介します。
□はじめに
トランプ関税の影響が日本の自動車産業にも出てきている状況ですが、日米合意に向けた交渉が続いています。相互関税の導入は、関税分が商品価格に転嫁されて需要減退を招きます。さらに、値上げは需要を減らします。4月の発表から2カ月経ちましたが、その影響が次第に大きくなっています。トランプ大統領と石破首相の、早期合意を期待したいところです。いずれにしても、日本国内における自動車生産量減少が加速することは避けられないのかもしれません。さて2025年6月現在、最大の話題は「令和の米騒動」です。前農水大臣に替わって、自称“コメ大臣”小泉農水大臣は大手流通(JA全農など)の中間流通を飛ばして備蓄米を小売へ直接販売するという荒ワザでコメ5キロの価格を一時的に2000円台へ落としました。1キロ500~800円くらいのコメ(玄米の農協買い上げ価格)が、小売店価格4000円台とずっと値上がりしてきたことを考えると、一過性とは言えこれまで通りの2000円台の価格で購入できるのは一消費者として嬉しいことです。では、3か月前に入札で売られたコメは今どこにあるのでしょうか?昨年より7割以上高いコメ価格が、どこまで落ち着くのかまだ分かりませんが、これが農業政策転換点となり食糧安全保障と国内のみの閉鎖市場から海外市場へ向かう転換点になる可能性を期待します。例えば、日本酒は既に国内から海外へ市場を広げています。
JA全農は、3月に政府備蓄米の入札で9割以上を落札していて2025年5月末日時点で、落札した約20万トンのうち、約10万トンを出荷しているそうです。小売店の店頭でコメが無いにも関わらず、ゆっくり対応したことでずいぶん儲けたのかもしれません。前農水大臣が辞職しなければ、農家ではなくJA全農など中間流通がさらに大儲けできたように思います。流通業者が、生産者(農家)の4倍(約3000円以上)も儲かる仕組みだということが良く分かります。(このコメ約20万トンは、入札で買戻し規定というのもありますが、コメの生産を減らす減反政策を推し進める状況で安く買い戻すのは難しく、このコメ不足が1年以上続く状況でなぜ減反政策を継続して続けているのか農水省の判断にも疑問が残ります。安く買い戻せる流通は大手のみ、つまりJA全農が圧倒的に有利に見えます。)

■価格は市場が決めるので在庫と流通(物流)が可視化されれば適正価格に近づく
モノの価格を決めるのは市場です。つまり、需要と供給のバランスで決まります。コメは長らく余っているモノでしたから、価格は下がる一方でした。政府備蓄米は約100万トンで、過去の冷害でコメ不足を招いた経験からですが、国内のコメは現在1キロ500円~800円程度、海外市場では1キロ300円~500円程度ですから10年に1度の冷害でも海外市場からの調達は可能です。
市場経済から考えると需要が高まれば生産量も高まり、価格も上昇します。つまり製造業や流通業は、市場を大きくして需要を創出して儲ける成長戦略を取ります。今回のコメは、「弱い生産者と強い流通」、「生産者はブランド米で付加価値を高めてきたが、コメの需要は少子高齢化の国内だけでは縮小」して一過性の品不足が転売ヤーや一部流通の思惑で価格上昇が止まらなかったということではないかと思います。いずれにしても、需要に対して供給が追い付かないことによるものです。農作物では、天候不順や物流障害などによって一時的に価格が乱高下することがありますが、今回のコメのようにずっと上昇が続くというのは明らかに異常事態だと言えます。
■適正な生産、安定した需給バランスは在庫管理と物流管理の透明性
「令和の米騒動」に対して、石破首相はコメの安定供給に関する閣僚会議を立ち上げるとしているが、これを企業システムに置き換えて考えるとコメ農家の生産者に当たる製造業は製品在庫とその物流管理システム。コメの集荷と小売への中間流通を担うJA全農(系統流通)と商社(商経流通)は、流通在庫とその物流管理システムの導入と相互連携が有効だと思います。
一般的に企業内の製品の在庫と物流はERP(統合基幹システムのロジスティクス機能)とMES(製造実行システム)またはこれと連携するWMS(倉庫管理システム)とLES(物流実行管理システム)を使い分けます。モノの動きを透明化するためには、こうしたシステムをタイムリーに把握する仕組み「トレーサビリティ」が必要とされます。サプライチェーンをまたがるトレーサビリティを実現するためには、企業間や業界間のデータ連携を行う必要があります。欧米では、業界ごとに業務の標準化、データ連携、そしてそのデータを流通するデータスペース(プラットフォーム)の整備が進んでいます。日本は、企業ごと、業界ごとにバラバラでかろうじてEDIシステムでサプライチェーン連携を実現していますが、柔軟性や拡張性に乏しく欧米市場のデータスペースにそのまま接続するのは困難です。しかし、トレーサビリティについてのニーズは高くサプライチェーン再編によるビジネスチャンスも考えられることから昨今では大手食品会社や自動車業界などで先行して導入するケースが増えています。「令和の米騒動」の解決策の1つと言われている、透明化にも通じるソリューションです。

※トレーサビリティについての説明は、筆者が懇意にしている製造現場DXプラットフォームベンダのブログに分かりやすい説明がありますので、ここを紹介しておきます。
(https://smartcraft.jp/blog/what-is-traceability/)
そろそろトランプ関税から、ERPシステムとその周辺システムとの連携に話を戻していきたいと思います。今回の「令和の米騒動」は、在庫と物流というトレーサビリティにつながるテーマとして使わせて頂きました。トランプ氏が、再び大統領に就任してわずか4カ月、トランプ関税から2カ月でグローバル経済と企業業績に影響が出ています。トランプ大統領のその日の気分で政策をどんどん変える変化に世界が翻弄されています。小泉農水大臣のコメ流通対策もこれに次ぐスピードです。『変化対応スピード』こそが、最大の武器です。失敗しても気にせず、次の策を打てば良い!これが令和時代の生き残りです。

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