業種で異なるERP導入の勘所、機械製品を取り扱う商社・卸売のケース

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第77回「業種で異なるERP導入の勘所、機械製品を取り扱う商社・卸売のケース~機械設備を扱う商社・卸売業向けERPシステムはモノとサービスで成長戦略を描く~」をご紹介します。

□はじめに

 2025年は、これまでの常識や考え方が変わるターニングポイントになりそうな年です。理由はいろいろありますが、ビジネスインパクトが大きいのは「トランプ2.0」の影響です。トランプ氏が米国大統領に返り咲くことは、米国の政策と国家プロジェクトがこれまでとは真逆になる破壊力を秘めています。「なぜ再びトランプ大統領なのか?」という声もありますが、これは世論バイデン政権が支持を失っていること、世論が変化を強く求めていることを示しているのだと思います。コロナ禍以降の先進国G7や影響力の大きい主要国G20の政治がいずれも支持を減らし、これまでの政治を変える動きから政権トップの交替に繋がっていることからも明らかです。米国、英国、イタリア、カナダ、そして日本などほぼ全ての先進国でトップが交代する状況です。さて、産業界においてもビジネス環境が大きく変化する可能性が高く、顧客ニーズや産業構造が大きく揺らいできます。分かりやすいのが自動車産業で、従来のガソリンなど化石燃料による内燃機関からハイブリッド車、BEV車などへ産業構造と勢力図が急激に変化しています。これに伴って、その原材料となる化学や素材など産業、生産を支える工作機械やロボットなど機械産業にも大きな波及が見られます。さらにこの変化を生成AIやエッジAIが加速しています。その変化については、企業間や企業とカスタマーを繋ぐ商社・卸売業においても、ニーズが需要に大きな変化があることから予測は極めて困難です。さて、自動車や機械など製品を作る製造業が頼る専門商社・卸売業のビジネスモデルは、製造業やカスタマーのニーズに沿った商品(原材料や設備など)やサービスを探して調達する役割です。基本的な要件は、「特化した品揃え(目利き)、調達・物流(仕入/手続き代行・保管料)、支払い代行(仲介料)」など主にサプライチェーン支援や生産支援の役割です。では、機械製品を取り扱う商社・卸売業に求められる要件は今後どのように変化していくのでしょうか。また、この先5年間、10年間に求められるERPシステムの新しい機能要件はどのようなものでしょうか。取り扱う商材や需要動向によって分かれるというのが、経済産業省の商業動態統計からの理解です。また、商材によって増減が大きく違っていることが分かります。

(図表1、卸売業販売額全体の前年比:増減率)

(図表1、卸売業販売額全体の前年比:増減率)

(図表2、卸売業販売額品目別の前年比:増減率)

(図表2、卸売業販売額品目別の前年比:増減率)

■モノ売りの仲介ビジネスからサービス提供による業務支援やデータ活用DXで稼ぐ

 前述した通り業界に特化している商社・卸売業の基本要件は、「①品揃え(目利き)、②調達・物流(仕入/手続き代行・保管料)、③支払い代行(仲介料)」などです。しかし、このビジネスモデルは、ネット取引の登場によって商社・卸売業が仲介する価値が下がってしまいました。このビジネスモデルは、仕入れた商品に利益を上乗せして販売するため仲介料として3~4割程度の価格を上乗せするのが一般的でした。しかし、製造業の生産能力が向上して需要以上に供給能力が高まった結果、価格競争が激しくなりました。製造業が、少しでも安い原材料を求めた結果ネット取引を使うケースが増えました。また、日本国内の需要は安定した成熟期から、緩やかに減少する衰退期へ移行しつつあります。今後、少子高齢化や国内人口減少、海外新興企業の急成長によって海外製品が市場参入することで商社・卸売業の国内需要はさらに減少すると予想されます。

 こうした状況を打開する成長戦略は2つあります。1つ目は、海外市場の販路を開拓してより大きな需要を取り込むことです。欧米やアジア新興国、中東、インドなど新しい市場へ挑戦します。とは言え、いきなり海外へ展開するのは容易ではありません。まずは、対象となる国の状況を把握するところからとなりますが、状況把握する上ではじめに取り組むのは、日本国内市場で売れそうな現地製品を見つけるところからとなります。現地のJETROや大使館、商社などと相談して、現地で製品を製造している企業を見つけて、これを日本市場で売ることが出来れば具体的な商流開拓につながります。つまり、調達先の開拓からはじめて市場性を理解するという取り組みです。2つ目は、モノ売りからモノ+コト売り(サービス提供)による新しい商品+サービス提供を開発して売上/利益を高めることです。具体的には、モノに付随するアフターサービス提供による成長戦略です。具体的には、取り扱う商品(モノ)にサービス(アフターサービスや業務代行/支援、情報付加による価値など)を提供します。これまで、日本の専門商社や卸売業は取り扱う商品をモノにサービス(物流や貿易など)などの料金を合わせた価格でした。しかしこれでは、価格競争においては商品価格で不利となります。サービス提供のコストが利益を減らす結果となります。欧米では、既に商品価格と付帯サービスの価格が明確化されているのですが日本はこうした考え方に馴染めない商習慣や価値観が足枷となっています。つまり、モノの価格(仕入コスト+モノ粗利)とコト(サービス)の価格(サービスコスト+コト粗利)を明確に分ける必要があります。コト(サービス)の提供は、製品販売と違って契約した数だけ売上を得ることが出来ます。サービスを提供するシステムを、さらに強化開発することで付加価値を高めて機能を拡充することが出来ます。モノをサービスで補完するビジネスモデルは、対象となるモノが多様で多くなるほどコストが下がって行くことになります。この新しいビジネスモデルに対応するためには、基幹システムに新しい機能が必要となります。

【機械設備・機器のアフターサービスをサービス商材にする要件の参考例】 

  • モノの情報を管理する設備や機器のマスタデータ管理とデータ活用機能
  • モノの運用やメンテナンスなどに関する計画実績管理とログ管理機能
  • モノの修理パーツや消耗品(サプライ)の管理システム連携(WMS、MESなど)
  • サービス商品のデータ管理のアプリケーション連携(保全管理、IoT、MESなど)
  • モノとコトのデータを可視化する機能(需要と契約数、売上/利益の推移など)
  • モノとコトのデータを組合せて(商品とサービス商材の組合せによるトレンドなど)

■機械設備・機器を取り扱う商社卸売業のためのサービス提供とERPと連携するシステム

 前述した通り、2025年からのビジネスに最もインパクトがあるのはトランプ2.0による貿易ルール変更への対応にあると考えられます。先進国G7や主要国G20のトップ交代やその世間が不安定な状況は、世界経済や産業構造を混乱と一時的な停滞を招くことが予想されます。米国とインド以外の経済停滞・需要減退、世界的なインフレ経済、国家間の政治対立・貿易紛争の激化、気候変動や気象災害によるサプライチェーン混乱などは既に顕在化した問題ですが、さらにトランプ2.0がこの問題を大きくすることになります。モノを動かすビジネスが商社・卸売業ですが、トランプ2.0はこれに様々な制約を一方的に押し付けることが懸念されます。「関税25%引き上げ」、「安全保障理由による取引禁止」、「安全保障理由によるM&A禁止・事業分割」などさまざまな規制や禁止が予想されます。つまり、サービス提供をビジネス化して売上/収益を高めるビジネスに取り組む必要があります。

(図表3、モノを調達できなくてもできる顧客の困りごとをビジネスにする取り組み)

(図表3、モノを調達できなくてもできる顧客の困りごとをビジネスにする取り組み)

(図表4、商社・卸売業の役割は需要と供給のマッチメイク役 )

(図表4、商社・卸売業の役割は需要と供給のマッチメイク役 )

 機械設備・機器などを取り扱う専門商社や卸売業の場合は、モノ(機械設備・機器など)の保守運用といったアフターサービスから取り組むケースが多いようです。その理由として、アフターサービスに関する多くの業務が属人的で非効率なものが多く労働集約的だからです。製造業の多くが、こうしたアフターサービスを非主要業務として子会社やアウトソーシングしているケースが多いためです。しかし、アフターサービスはユーザーにとって故障やトラブルで止まることを極力避けたいためサポート契約を結ぶ比率が高く安定した売上が見込めます。しかし、その業務のやり方が属人的で非効率だと人件費や手間がコストアップとなり利益を減らすことになります。掛かるコストは、機械設備・機器が故障した場合のコールセンターと復旧するための修理パーツ、メンテナンス技術者などです。つまり、アフターサービスを見直して徹底的なコストダウンとサービスレベル向上を実現すれば、あっという間に儲かるビジネスへと変わります。このビジネスモデルは、エレベーターの保守サービスやテスラのEV車などで既に身近に実用化されていますが、非主要業務であることから重視されていないようです。専門商社や卸売業でもこうしたサービスを提供するケースが増えていて、特にメーカーサポートが切れた機械設備・機器に対してもサポート提供することでニーズが高まっています。また、故障で交換する修理パーツも保守サービス打ち切りに伴って入手できなくなるケースが多いようですが、これを予め在庫する、代替品を作って供給することで売上/収益をあげている企業もあります。庭の草刈り機を製造するメーカーでは、アマゾンなどのECサイト上で全ての修理パーツが購入できるようにして、自社ホームページで修理パーツの交換方法や図面をユーザー向けに公開して安定した収益をあげています。このように、モノとサービス提供を切り離してそれぞれ売り上げをあげるやり方があります。ERPシステムには、ベンダによって保全管理という機能を持つものもありますが、顧客サービスに近いことからCRMシステムやアフターサービスで提供されていることが多くこれを組合せていることもあります。

(図表5、ERP+CRM+BIで構築するアフターサービスのビジネス基盤)

(図表5、ERP+CRM+BIで構築するアフターサービスのビジネス基盤)

(図表6、ERP(在庫/人事/会計)とアフターサービス(CRM)の業務プロセス統合)

(図表6、ERP(在庫/人事/会計)とアフターサービス(CRM)の業務プロセス統合)

 今回は、機械設備・機器を取り扱う商社・卸売業における現状とニーズが高まっているサービス提供について説明しました。ERPシステムと機械設備・機器のデータをつなぐことで新しいビジネスを生み出す取り組みとなります。DXの本質はソフトウェアとデータ活用にあると言われますが、これは商社・卸売業DXに当てはまる取り組みだと思います。

■お知らせ

商社、卸業の皆様へ、双日テックイノベーションはこの分野に高い実績とノウハウを持っています。ERPの導入やリプレイスをお考えの方は以下のページをご覧ください。

■「GRANDIT」ソリューション(商社向け)
https://erp-jirei.jp/grandit

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GRANDITのオンラインセミナーをほぼ毎月開催しています。興味がある方は以下をご覧ください。
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