クラウドERPの導入とペーパーレス化による効果を最大化するポイント

業界トップランナー鍋野敬一郎氏によるコラム「ERP再生計画」第38回「ERPとペーパーレスによる行動変容のDX戦略(その2)クラウドERPの導入とペーパーレス化による効果を最大化するポイント」を公開しました。

はじめに

 みなさま周知の通り企業システムは、全ての領域でクラウド化が加速しています。そして、これと並行して紙による業務処理が電子化(ペーパーレス化)が進められています。その背景には、新型コロナウイルスによる影響でリモートワークに移行せざるを得ないためですが、これによってハンコや紙を使わなければならない理由が無くなりました。こうしたクラウド化、ペーパーレス化に関連するDX(デジタル・トランスフォーメーション)への取り組みは、概ね好意的に受け入れられていますがこれまでのやり方とは違いが出るためその移行を出来るだけスムーズに行う必要があります。身近なところでは、やはり日常業務に必要なERPシステムの刷新に伴うものが大きなインパクトがあると思います。前回は、こうした取り組みを後戻りさせない戦略として、対象を社外と接点を持つ業務プロセスから取り組むというお話をしましたが、今回は社内プロセスへの展開と意識改革についてのDX戦略についてお話したいと思います。クラウドERPの導入(リニューアル)とペーパーレス化の速やかな移行を実現するためにどのように取り組んで行けば良いのかについて考えます。

クラウドERP導入とペーパーレス化の取り組み方と展開のポイント

 2018年9月に経済産業省が発表したDXレポートには、老朽化したERPシステムが企業のデジタル化の足かせとなって企業価値(株式時価総額)の成長を阻害するリスクについて書かれていました。2020年12月にDXレポート2が発表されて、企業のDX対応状況や課題について中間報告としての厳しい状況と基幹システム刷新のその先についての話などが書かれています。ここでは、新型コロナウイルスによる影響などに加えて、企業のデジタル化が既に待ったなしの状況であることが示唆されています。テーマの中心であるERPシステムのトレンドとして、オンプレミス型からクラウド型(IaaS型/SaaS型)へのシフトが顕著となっています。市場調査会社の予測だと、2021年度にオンプレミス型とクラウド型のシェアは逆転して、その動きはクラウドへ加速すると予測されています。また、新型コロナウイルス感染対策としてのリモートワーク拡大とAI技術活用などより、従来のハンコや紙の証憑を廃止してペーパーレスに対する取り組みが加速することも合わせて予想されています。(電子帳簿保存法や契約書や受発注文書の電子化など普及)長らく懸案課題となっていたクラウド化、ペーパーレス化の障害となっていた法律や慣習が見直されて解消される兆しが出ています。多くの企業で、システム改廃タイミングを前倒しして先行利益を狙って、クラウドERPとペーパーレスをあわせて一気に導入する機運が高まっています。ここであらためて浮き彫りとなったのが、過去の膨大な紙の文書です。文書を紙で保有し続けるコストもさることながら、それ以上に議論が紛糾するのが過去の紙文書をどのように取り扱うべきかという議論です。蓄積されている紙文書や帳票レポート類は、膨大な量が保管されていて維持費用も掛かります。電子化するにしても膨大なデータ移行コストは発生するため、その中からどの文書を電子化する必要があるのか、電子化しない場合はどんなリスクがあるのかが判然としないためです。

会計に関わる証憑や文書は“5年間の保管”(原本)、製品の生産に関わる文書は“10年間の保管”(原本)、そして品質に関わる文書やデータは永久保存など、法律や内規で定められているものから、業種ルールや企業ルールなどバラバラなこともあり議論がまとまらないのです。つまり、ERPシステムの入れ替えやリニューアルのタイミングで、こうした議論も同時に決着をつける必要があります。悩ましいのは、「過去の文書をどこまでどのように電子化するべき」なのかです。理想的には、データベース化して、日付、場所、製品、機能、関連キーワードなどで自由自在に検索出来ることなのですが、そのデータベース化には膨大な費用と手間が掛かります。筆者の経験でも、この議論が重くて老朽化したグループウェアやスクラッチ開発システムなど業務システム再構築プロジェクトが頓挫したり先送りされたりする理由です。これは、目的や用途が異なるバラバラな文書管理についてシステム丸投げでIT部門に判断を任せてしまうようなケースで良く生じます。会計業務に必要な文書のデータ化(法規要件)、製品の製造に関する文書のデータ化(製造管理要件)、製品の品質に関する文書のデータ化(顧客向け管理要件)はそれぞれの責任部署が判断して取り組むべきです。IT部門は、それぞれの要件とニーズから費用対効果の観点で対策を提案し、方針決定に従って構築をガイドする役割となります。ペーパーレス化というシステム化の手段は必要ですが、目的はあくまでも業務をスマートに遂行するためなのです。異なる要件が混在したままIT部門丸投げのペーパーレス化は、目的と手段を取り違えた取り組みだと言えるでしょう。

過去の文書はどこまでデータ化するのが正しいのか!?

 今後は、基幹システムのERPやSCM(サプライチェーン管理)、MES(製造実行システム)やMOM(製造オペレーション管理)などあらゆるシステムが、オンプレミスからクラウドへ移行していくことになるでしょう。筆者がここ最近取り組んでいるプロジェクトは、クラウドERPやクラウドMESの構築や、ERP/SCMとMES/MOMを連携させる標準システム構築といった複雑で膨大なデータを扱うプロジェクトです。それぞれ業務要件が異なるシステムや情報(紙文書、Excelファイル、アクセスデータ、RFIDや各種センサー、のデータなど)を一元管理・整理統合してデータ活用の環境を整えます(データ駆動型サービスの実現)。さらに、こうすることで企業の中に蓄積されたデータの相関性やその相関性から得られるアルゴリズム(新しいAIの開発などに利用)から独自の強みを見いだせるからです。対象となるデータは、ERPやMESなどの構造化されたデータに加えて、これに加えて文書や画像/動画など非構造化データも合わせて整理統合します。この非構造化データの整理分類と構造化データの連携がデータ活用の重要ポイントとなります。非構造化データは紙や電子ファイルなので膨大な過去データが存在します。ここで、「過去の文書はどこまでデータ化するのが正しいのか」という議論が生じます。多数の事例やプロジェクトを見たところでは、その判断はケースバイケースのようです。しかし、成功事例の多くは次のようなルールや方針のプロジェクトです。

【過去文書のデータ化方針】(参考例)

(1)新しいシステムが稼働したあとは全てデータ化の対象とする。
(2)過去文書は基本的にデータ化しない。但し、責任部署の判断で必要最小限のデータ化はシステム構築のタイミングでこれを認める。
(3)新しいシステム稼働後に、更に追加で過去文書のデータ化が必要となった場合は、責任部署が別プロジェクトとして申請してこれを行う。

 3つの基本方針をひと目見れば分かる通り、出来るだけ過去文章はデータ化しません。つまり、責任の所在は業務側にあり、文書のデータ化は新しいシステムからとなります。使うかどうか分からない文書に費用と手間を掛けてデータ化するのはプロジェクト費用と期間の肥大化を招くからです。筆者が勤務していた外資系メーカーでは、品質管理データを検索するシステムがありました。しかし、検索する製品の製造日付で検索するシステムや手段が違っていました。最新のシステムでは、ワイルドカードで製品名、ロット番号、顧客名、製造年月日などを絞り込み検索することが出来ました。しかし、30年前以上の古い製品では紙の文書をそのまま画像スキャンしたPDFをビュワーで見て探す仕組みでした。つまり、過去データは紙をPDFファイルに自動変換して、製品と日付情報だけをファイル名に付けて検索することしか出来ません。たぶんこれが一番お金のかからない過去文書の電子化だったのだと思います。古い製品の品質管理データを探そうとすると、検索する手間と時間が掛かります、しかしこれでも結構使えました。30年以上前にフロリダ工場で作られた製品の品質検査データを、東京オフィスから直接見ることが出来たので対象となる情報の有無はそれで確認できます。追加の情報がほしければ、あとはこれを足掛かりに現地の担当者と相談すれば、より詳細なデータを入手できました。過去文書のデータ化は、その程度で十分だと筆者は考えています。もし、これで足りないケースが出たときに、次の対策を立てれば良いのです。このケースでは、構造化された品質検査データと非構造化の文書データ(紙をスキャンしたPDFファイル)が混在していますが東京からフロリダ工場の30年以上前の情報を検索、閲覧出来ることに変わりはありません。

 業務に関わるシステムがクラウド化して、紙の文書がペーパーレス化されるのは業務をスマートに行う必然的な流れだと思います。しかし、ここでポイントとなるのは費用と手間と時間のムダを最小限に抑えるということです。今回のDX戦略のポイントは、業務システムはMUST HAVE(必要最小限の機能/データ、これだけは必要という機能/データ)とNICE TO HAVE(あると便利で助かる機能/データ、無くても結果は同じ)の境界線を決めることです。成功パターンは、NICE TO HAVEを無くすか、極力小さくすることです。やむを得ず必要と思った場合には、別プロジェクトとして新たに取り組みます。ERPは、今後さらにクラウド化が加速すると思われますが、そのタイミングで紙文書のペーパーレス化に取り組めばより高い効果を狙うことが出来ます。単なるERPの置き換えでは得られる効果は少ないのですが、構造化データ(ERPなど)と非構造化データ(文書データなど)を戦略的に連携、整理統合することで新しい価値や効果を見出すことが可能となります。

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