業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第79回「製造業や商社卸売はトランプ関税のリスクをどうやって回避すれば良いのか~企業がこれから導入すべき基幹システムの構成とは、製造業向け/商社卸業向け~」をご紹介します。
□はじめに
「関税」とは、国境を越えて取引される物品に課される税金です。一般的には、物品の輸入に際して課せられる輸入関税を示しています。トランプ政権の“25%の関税を課す”というのは、アメリカに輸入される物品に対してその価格に25%の税を課すという意味です。つまり、これまで関税ゼロ100ドルで輸入されていた物品に25%の税(25ドル)が課されて、アメリカでの物品価格が125ドルになります。これは、25ドルの値上げと同じなので、この輸入物品は売れにくくなります。アメリカ国内で生産された同じ物品の需要が増えるというように見えますが、同等のアメリカ製物品が120ドルだったとするとカスタマーは100ドルだった物品が120ドル~に値上げされたことになり需要が減る可能性があります。(輸入物品からアメリカ製物品へ商品は変更)関税は、国と国の2国間取引(貿易)の収支だけ見ればアメリカに利益があるように見えますが、実際には物品価格の変動(値上げ)を招くことになるため需要減少やインフレ要因となります。これが、トランプ関税が招くリスクとなります。
■製造業がこれから導入すべき新しい基幹システムは「クラウドERP+クラウドSCP」
中国製EV車は、ダンピング(不当廉売)認定されていて、EUでは最大45.3%の追加課税が課されます。従来は10%関税だったので、ここに7.8~35.3%関税が上乗せされています。(2024年10月30日から5年間適用)アメリカは、従来は25%関税でしたがバイデン政権時代2024年9月27日にこれが4倍の100%関税が課されることになり、さらにトランプ政権が上乗せ10%を決めて、合わせて110%関税が課されることになりました。このように、自動車市場はトランプ政権の関税政策によって大混乱となっています。日本からアメリカへの自動車輸出は、完成車を日本からアメリカへ輸出する以外に、カナダやメキシコに自動車部品を輸出して現地工場で完成車を生産してアメリカへ輸入するというパターンがあります。これは、NAFTA(ナフタ、北米自由貿易協定)によってアメリカ、カナダ、メキシコの3か国間の貿易拡大に貢献しまいた。トランプ政権は、当初2月からの適用を停止して両国との交渉材料としています。日本政府は、トランプ政権に対して日本からの輸出に対して関税対象外とするよう要請していますが、その結果は不透明です。
例えば、日本からアメリカへ自動車(完成品)に対して関税適用ナシ、メキシコとカナダから自動車部品を輸出して現地工場生産の自動車も同様に日本製扱いで関税適用ナシとなれば、日本の自動車産業への影響は回避されます。しかし、日本からアメリカへ自動車(完成品)のみ関税適用ナシで、カナダとメキシコの現地工事生産が関税適用されるとアメリカ向けの全てを日本で生産してアメリカへ輸出する方が安くなる可能性もあります。さらに、アメリカに投資して工場を作って安く生産する(スピード重視で現地工場を買収して即時生産開始)という方法もあります。このように、交渉条件によって様々なパターンが考えられます。製造原価、製品価格、収益、税金などの数値を計画・予測する手段として、ERPシステムとサプライチェーン計画(SCP)を組み合わせた仕組みによってどの選択が有効なのかを分析することが可能です。


■商社卸売業がこれから導入すべき新しい基幹システムは「クラウドERP+エリア別ECマーケットプレイス」
製造業がこれから必要とする基幹システムについては、前述した通り環境の変化を先読みして変化に即応できる機動力あるものづくりの仕組みです。これは、「クラウドERPとクラウドSCP」を中心とした仕組みとなります。では、商社卸売業においてはどうでしょうか。これまでは、メーカーやカスタマーが求めるニーズが価格(低価格)と納期(調達リードタイム)でしたが、トランプ関税は交渉条件によって直ぐにルールが変更されるため予め準備することは困難です。また、製造業と違って物品価格を変えることはできないので顧客が求める価格で納期までに商品を揃える必要があります。答えを言ってしまうと、輸入製品からアメリカ国内製品へ切り替えれば良いということになります。トランプ関税は25%という高い課税されるため、これまでの大量購入やコスト削減程度では太刀打ちできません。つまり、同等レベルの性能・品質の商品をアメリカ国内で見つける必要があります。そのためには、エリア別ECマーケットプレイスを整えて顧客からオーダーが入る製品の代替品を「探して、評価して、確保する」する必要があります。メジャーなマーケットプレイスとの接続は当然として、これだけでは同業他社との差別化は出来ないので、独自にECマーケットプレイスや調達先リスト・カタログを持つことが強みとなります。これはあたかも、アパレル業界や小売業界のバイヤーのような取り組みとなります。その仕入先情報や製品カタログを独自ECシステムとして構築することが新しい基幹システムの狙いです。
まずは、アメリカ国内からこうした独自ECシステムを構築しておけば、為替や関税のリスクを回避することが可能です。さらに、欧州や中国などトランプ関税の標的となるエリア別に同様の仕組みを整えることで急な条件変更にも即時に対応できることとなります。もし、これを人手で属人的に行えば膨大なコストと時間、さらに判断ミスによるリスクを抱えることが予想されます。商社卸売業の最大のリスクは、属人的かつ曖昧な判断による失敗です。トランプ政権の動きは過去の経験や常識的な発想とは違うため、全く予想ができません。そこで、変化にリアルタイムに対応できる仕組みが必要となります。基幹システムの価値は、リアルタイム性とスピード処理に変わりつつあります。こうした状況を踏まえて、クラウドを前提とした基幹システムへの移行が早急に求められると考えられます。


今回は、トランプ関税に対して新しい基幹システムに求められる機能やシステムについて具体例をあげてご説明しました。自動車産業は、日本の基幹産業で最大の基幹産業です。グローバル経済では、自由貿易で関税を低く抑えることで経済が発展してきましたが、トランプ関税はこれとは真逆の考え方となります。これはアメリカ経済にもインフレや需要減少という形で影響があります。では何故トランプ政権がこうした関税政策をとるのか、それは対中国戦略をターゲットにしている可能性があります。アメリカが最大の脅威として、中国を念頭に置いた戦略だと考えると概ね腑に落ちます。米中大国間の対立は、その両方と関係が深い日本企業の存亡に繋がります。生き残るためには、刻々と変化する状況に即時に対応できる新しい基幹システムが必要不可欠だと思います。
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