業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第76回「業種で異なるERP導入の勘所、化学製品や金属材料を扱う商社・卸売のケース~化学品や素材などを扱う商社・卸業向けERPシステム導入に求められる業種要件とは~」をご紹介します。
□はじめに
製造業は、自動車や機械などを製造する組立加工系(ディスクリート系)と化学品や素材などを製造するプロセス系に分けることが出来ます。製造業のERPシステムは、業種ごとに異なる要件や商習慣、法規制などへの対応が必要ですがこうした製品を取り扱う専門商社や卸売業も同様の対応が求められます。今回は、こうしたケースにおけるERP導入のポイントについてご説明します。
■化学製品や原材料素材などを取り扱う商社・卸売のERP導入に考慮すべき点
化学製品を取り扱う専門商社や卸売業の事業者数は多く正確な社数は把握できませんが、経済産業省の商業動態統計2023年度による販売額は26兆3,900億円(前年比0.5%減)となっています。また、鉱物・金属材料の販売額は684兆2,400億円(前年比0.6%減)となっていてこちらはさらに一桁大きい金額となります。化学品や素材などを生産するプロセス系製造業は、部品や部品を組み上げて製造する完成品を製造する組立加工系製造業の川上に位置しています。この取引を仲介しているのが、こうした化学製品や原材料素材を取り扱っている商社・卸売です。その販売額は、年を追うごとに少しずつ減少しています。化学製品は主に化石燃料などに由来し、鉱物・金属材料は鉱石などに由来していることから原産地は海外となります、こうした原材料の価格が値上がりしているにも関わらず販売額が減少しているということから、国内市場が急速に成熟・縮小していることが考えられます。
(図表1、化学製品卸売業の販売額の推移)
(図表2、鉱物・金属材料卸売業の販売額の推移)
化学製品は、固体のペレットや液体、気体などの形状で取り扱われます。従って、タンクやボンベ、パイプラインといった手段で流通しています。また、金属材料は、巻物(ロール状)や線状、インゴットなど塊といった形状で取り扱われています。こうした製品(品目)をERPシステムで取り扱う場合、組立加工系製造業とは異なる管理が必要となります。つまり、管理する単位系が「重量と容積など」の複数単位で管理する必要があります。組立加工系(ディスクリート系)では、個数ですがプロセス系では重量と容積など複数単位を使います。例えば、液体でもガソリンや軽油など常温で液体燃料として扱っているようなものはタンクなどで保管されます。タンクへの補給は、タンクローリーや専用に搬送するタンカーなどを使います。重量や容積を正確に測って投入するのが難しいため、投入前の液面と投入後の液面を測ってその差から容積を測る「界面測定(液面までの長さを測る)」方法(容積をおおよそ把握できる)、タンクローリーの重量をタンク補給の前と後で車重を測って差重(重量差)から補給した重量を測るなどがあります。このように、製品(品目)によって業界ごとにERPシステムに求められる管理要件が変わります。
■化学製品管理で必要となるSDS(安全データシート)とは
化学製品を取り扱う商社・卸売において、製品の管理要件はどのようにして入手、管理すれば良いのでしょうか。化学物質や化学物質を含む製品を他の事業者に提供する際に、その化学物質の危険性や有害性、取扱いに関する情報を提供するための文書がSDS(Safety Data Sheet、安全データシート)です。SDSは、化学製品の製造会社や納品業者から入手します。つまり、商社・卸売は取り扱う全てのSDSを揃える必要があります。
SDSには、次のような情報が記載されています。
- 化学物質の名称や物理化学的性質
- 危険性、有害性
- ばく露した際の応急措置
- 取扱方法
- 保管方法
- 廃棄方法
SDSは、労働安全衛生法や毒物及び劇物取締法、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)などで提供が求められています。
化学物質管理については、経済産業省が法規制に沿ってその管理について規定しています。
経済産業省>化学物質管理についての記載は、次のホームページにあります。
URL:https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/index.html
また、化管法(化学物質排出把握管理促進法、PRTR)については以下に記載されています。
URL:https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/msds/4.html
(図表3、化管法SDS(安全データシート)の記載項目:16項目)
SDS(安全データシート)の具体的なイメージについては、三菱ガス化学のホームページで化学品管理についての考え方を紹介したものがあるのでこちらを参考例としてご紹介いたします。こうした業種特化した要件は、システム管理者だけで対処するのは難しいため業種要件や法規制、商習慣に詳しいコンサルタントや担当者に確認して作業を進める必要があります。また、化学製品や原材料素材は海外市場との取引が多いことから国ごとの法規制や対応を求められることがあります。そのため、きめ細かい対応や様々な視点からの確認作業が求められます。例えば、昨今話題となっているサステナビリティ対応ではEU域内において、CO2排出管理(CBAM対応、EU炭素国境調整メカニズム)やEUリサイクル規制といった環境規制に対応することが求められます。CBAMやEUリサイクル規制の対応を怠ると、罰則規定がありペナルティとして罰金などが科せられますので慎重な対応が求められます。
(図表4、欧州のサステナビリティ(環境)規制動向)
今回は、商社・卸売のERP導入において化学製品や原材料素材を取り扱うケースについて必要となる業種要件についてご説明いたしました。欧米企業には、商社・卸売という企業間取引を仲介する会社を使わずに、メーカーが調達するスタイルが一般的であることが多く、仲介会社があっても業界要件や国ごとの法規対応はそれぞれ勝手に対応します。しかし、国内ではこうしたきめ細かい対応が商社・卸売を使うメリットや付加価値となるため丁寧な対応が求められます。
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