業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第75回「ERPシステム導入によって社内が対立・分断したある企業トップの決断~ERPを全社導入することは決まったがその内容で社内が対立!その結末は⁈~」をご紹介します。
□はじめに
米国大統領選は、ハリス氏とトランプ氏の支持率が拮抗していてどちらが大統領に選ばれるか全く予測がつかない状況です。選挙結果が出るまでに時間が掛かり、両陣営が結果を受け入れるか微妙だという報道もあります。日本でも石破首相による衆議院選挙で、自民党が大きく議席を減らして少数与党となりました。日米ともに、政治の先行きは混迷を深めているようです。いずれのケースにも共通しているのは、政治の対立と分断という点ではないかと思います。その分断を招いているのは、政治家の活動内容やその不透明さに対して国民が大きな疑問を感じていることにあります。これは、組織の中で必ず生じる派閥争いや考え方の違いによるものです。目的は同じでも、異なる視点やテーマで議論するのは民主主義として良いことですが、対話によって対立が解消されないと組織の崩壊を招くこととなります。これは、国家も企業も同じです。今回ご紹介するのは、ERPシステム導入を決めたある企業が、社内で対立することとなりその対立と分断に対してトップがどのように対処したのかについてです。
■ERPシステム導入を巡って対立する経営企画と情報システム
A社は、中堅規模の機械製造業で部門ごとにバラバラだったシステムをERPシステムで統合することを決めました。これまで、経理部門では会計システムや固定資産管理システム、連携会計システムがあり管理会計は後付けでExcelなどによる集計で対応していました。また、営業部門ではスクラッチ開発した販売管理とクラウドサービスの販売支援システム(SFA)とExcelによる計画管理を行っていて、ここから営業データを作成するという対応をしていました。管理が煩雑で、入力ミスなどもあるため月末や期末は、いつも大混乱でした。複数ある工場や倉庫管理も同じような状況を打開するため経営陣がいよいよERPシステムの全社導入を決断したという背景があります。情報システム部門は、経理・財務や人事などバックオフィス部門のシステムについては長年関わってきたこともあり精通していますが、事業活動を行っている販売管理や調達管理、在庫管理、生産管理などについてはあまり関与していませんでした。ERPシステムを全社導入することもあって、事業部門側の取りまとめや要件整理が必要となるため、このとりまとめは経営企画部門で行うこととなりました。情報システム部門は、これまで通り付き合いの長いITベンダーへ協力を依頼して、経営企画は業界に経験と実績があるコンサルティング会社へ協力を要請してそれぞれ作業を進め、その結果経営会議でERPシステムの導入が決定されました。
問題が生じたのはERPシステムを導入するベンダーの選定です。コンサルティング会社もITベンダーも選定したERP製品の導入実績があり、それぞれが導入提案を行いました。その選定が、社内を2つに分断する対立へと発展したのでした。当初の目論見では、現行システムの会計業務などの取りまとめを行う情報システム部門と、事業部ごとにバラバラだったシステムを業務プロセスの見直しと標準化して事業部門共通業務(販売管理、調達管理、在庫管理、生産管理など)を経営企画部門でまとめて、この2つを合わせることで全社最適を目指す予定でした。
■目的は同じでも内容構成が異なるERP導入計画で対立、企業トップの最終判断は?
問題の火種は、情報システム部門を主管する役員と経営企画部門を主管する役員が違っていたことです。情報システム部門側の役員は、経理など業務管理系のキャリアを持つ優秀な人でした。経営企画部門側の役員は、営業や市場開拓で実績を上げてきた人でした。どちらも次期社長候補と言われている役員であったことが、結果的に組織やベンダーを巻き込んだ対立へと発展しました。それぞれの部門が策定した計画を1つにまとめるはずでしたが、方針ととりまとめた構成が違っていたため互いが譲れない内容となってしまいました。具体的には、情報システム部門側の考え方が管理会計や部門間横断のプロジェクト管理といった業績管理にフォーカスした内容であったことに対して、経営企画部門側の考え方は各事業部門の製品/サービスの成長性や収益性の変化に視点を置いた内容になっていました。どちらも共存できればベストなのですが、前者は過去からの業績推移を継承することに重点を置いているのに対して、後者は将来の事業成長に重点を置いたことで同じERP製品でも構成内容や管理要件に大きなズレが生じてしまいました。さらに、役員同士のライバル意識が、そのままベンダーの代理戦争的な対立へと発展したのでした。
こうした対立はERP導入には良くあることなのですが、潜在的な不満や対立がERP導入というプロジェクトで表面化してしまうものです。業務に対する不満や組織に対する不満など理由は様々ですが、いずれにしても企業内における政治的な対立や過去のしがらみによる問題が噴出します。ERPシステム導入における対立は良くあることとは言いましたが、2つの部門が対立するケースは拮抗して対立するケースは実際にはほとんどありません。通常は、社長直轄のERP導入チームあるいは情報システム部門など、1つの組織がERP導入を統括するためです。このケースでは、筆者はERPベンダー側に席を置いていたため直接お客様企業に関わることは無かったのですが、社内ではコンサルティング会社とITベンダーのどちらにも肩入れしないという通達が出ていました。一方に偏って支援すれば、お客様企業やパートナー会社からの不信感を買うことにつながるためです。結果的に、この対立はなかなか終息できず数カ月にも及ぶこととなりました。
結果的に、この企業は社長判断でERP導入を白紙に戻しました。
2つの組織の対立を無理矢理押し切ってERP導入を進めても、互いの対立が解消する可能性は低く、互いの不信感が潜在化する可能性が高かったからだという事です。この判断は、ERP導入推進室という各部門から集められた組織の設置と人事異動の後に行われたため、そのメンバーはこの社長判断によって仕事が無くなることになりました。各部門からの選抜メンバーでしたが、戻る場所が既に無い状況となっていました。結果的に、半年から1年後には再度異動することになるのですがかなり可哀想な立場だったと思います。組織における対立は、派閥などでよく見られることですが対応を誤るとその組織に深刻な影響を与えます。ERPシステムの導入をリセットした社長判断は、個人的には正しい対処だったと思います。これによって、この企業はその後の深刻な対立を回避したのです。(当然のことながら、ERPライセンス契約もナシとなり営業担当は泣いていたかな・・・)
今回は、アメリカ大統領選挙のハリス氏とトランプ氏の拮抗する支持率を見て、ふとこのケースを思い出したため分断と対立の事例をご紹介しました。20年以上前の事例ですが、組織内における対立と分断はその後に禍根を残すことにつながりかねません。民主主義本来の考え方では、結果が出ればノーサイドで多数に従うわけですが、ここ最近の企業や国家では民主主義が機能しない不寛容な時代になったことが残念です。アメリカ大統領選は、世界情勢や経済に大きな影響を与えますが選挙結果とその後にアメリカが分断するか、統合できるのかを見守る必要があると思います。ERPシステムの導入は、企業内の団結と成長を目指して欲しいと思う次第です。
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