業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第74回「ERPをリニューアルする企業がクラウド基盤とSaaS型ERP両方導入する理由~会計だけERPから全業務展開へ、クラウド基盤にデータレイクハウスを構築する理由~」をご紹介します。
□はじめに
最近増えているERPに関連する問い合わせには、いくつかの傾向があります。
①オフコンなど独自開発システム(スクラッチ開発)からERPシステムへのレガシーマイグレーション
②老朽化した会計だけERPのリニューアル
③会計だけERPを見直して販売/購買/在庫など全業務への導入拡大を狙ったリニューアル
④サプライチェーン強化やDXなどERPの先にデータ活用を狙ったERPリニューアル
主にこの4つのパターンに分かれるのですが、これは目的の違いからさらに2つに分けることができます。「①レガシーからERPへの移行」と「②老朽化オンプレERPからクラウドERPへの移行」は、目的をERPリニューアルに置いた取り組みです。このタイプのお客様ニーズに多いのは、『出来るだけ安く』と『現行業務はそのままで』という内容です。ERPリニューアルを目的としています。もう1つのタイプは、「③会計だけERPから全業務ERP展開」と「④データ活用のためのERPリニューアル」というERPのその先を見据えた取り組みです。そして、ERPのその先の取り組みとは、ERPに蓄積されたデータを活用するデータ駆動型経営の考え方で、最近の言い方では「データレイクハウス」構築を目的としたものです。
■「会計だけERPから全業務ERP展開」に取り組む理由
ERPシステムに対する企業の取り組みは、相変わらず盛んで技術者不足が続いています。だからと言って、技術者やコンサルタントが増えているかというとそうではありません。ERPシステムの技術者を育成するには、業務知識と経験が求められるため長い時間とそれなりの投資が必要だからです。事実、SAPのコンサルタントはずっと人手不足が続いています。業務知識の習得は、さらに難しく業務経験の無いITベンダには簡単ではありません。さらに、最新のERPシステムはクラウドやWebAPI対応、新しいAI技術などの進化に対応する必要があり大手ベンダでも育成に苦労しています。ERPシステムは、すでに日本企業の多くで導入されていますが、その大半は会計範囲にしか導入されていません。(財務会計と管理会計がメイン)販売管理や生産管理などは、個別開発のシステムがまだ大量に残っていて複数のシステムがバラバラに稼働している状況です。業務ごとに複数システムがそれぞれ動いているわけですが、こうした業務とシステムの分断が維持コストと手間の増大を招いています。例えば、販売管理システム(独自開発システムや販売管理パッケージ)と財務会計システム(ERPの会計システム)が別々の場合、お客様の社名や取引条件が変更された場合はそれぞれのマスタや設定を変更することになります。また、販売管理システムで受注を計上しても、財務会計上では請求伝票を出して売掛金を計上するまでは売上にはなりません。これが月末や期末を跨ると内容によって販売管理では受注済(売上)でも、経理上では未請求(請求予定、売上未計上)となります。これが同じERPシステム上であれば期末処理や、マスタ変更などは確認して承認するだけで済みます。手間もコストも少なくなります。在庫管理/調達管理/物流管理/生産管理などが、独自開発システムだとシステムの数だけ変更して、業務処理に不具合が無いかテストする必要があります。最近のERPシステムは、API連携によって異なるERP製品でもアプリケーションベンダが互換性を確認して対応できるものも多くなってきましたが、独自開発システムだと連携確認もそれぞれ必要となります。欧米企業は、業務プロセスの標準化があたりまえなので、購買担当者がA社からB社へ転職しても、使うERPシステムが同じならばシステム操作はほぼ同じです。取扱う製品や業界要件、そのレポートなどは多少異なりますがオペレーションは同じです。また、最近普及してきたプロセスマイニングツールを使うことで、現行の業務プロセスを解析して、標準業務プロセスとの違いや例外処理との比較などを可視化することが容易にできるよう担っています。また、データ履歴やその内容を分析して属人化や利用頻度の割合などもひと目で分かります。過去のERPシステムをそのままバージョンアップするのではなく、業務の標準化を踏まえたERPシステム導入することが出来ます。こうしたツールを利用すれば、ERP導入範囲を全業務へ拡大することが容易に可能となります。会計管理、販売管理、在庫管理、調達管理の4つの業務システムを1つのERPシステムにまとめれば、ランニングコストも当然安くなって維持する手間も減らせます。これが、「③会計だけERPから全業務ERP展開」に取り組む理由です。
■ERPリニューアルの先に「データレイクハウス」構築を目標にする理由
ERPはSoR(システム・オブ・レコード)と呼ばれることがあります。これは、業務に関するいろいろなデータを記録するシステムを指していて、つまりERPシステムや会計システムなどの基幹系システムを意味しています。これに対して、得意先(顧客)や仕入先(サプライヤー)などとの関係性を強化して事業活動を優位にするシステムをSoE(システム・オブ・エンゲージメント)と呼びます。SoEは、CRMやサプライチェーンなど企業間の連携を強化する取り組みです。最近のDXで言うならば、外向きのDXと言い換えることが出来るのかもしれません。
(図表1、データ駆動型経営システム:統合データプラットフォームのイメージ)
ここ最近令和は、平成と違って世界経済の変化、頻発する災害やコロナ禍、地球温暖化など環境変化に加えて、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとアラブ組織との戦闘、米中貿易対立など世界情勢や経済状況の変化のスピードが加速しています。過去の知識や経験では対処できない状況です。つまり、変化を機敏に察知して機敏に動く組織やシステムの必要性が高まっている。これが外向きのDX迫られている。重厚長大なサプライチェーンは、既に機能せず変化のスピードに対応出来ていない。これが、サプライチェーン再構築を急ぐグローバル企業の危機感と焦りに繋がります。変化を読み取るためには、外の情報と中の情報をリアルタイムに手元に置いて分析、評価して誰よりも早く行動する必要があります。そのための仕組みが、データレイクハウスというデータ活用のためのクラウド基盤です。社内外のデータを一元管理することで蓄積したデータと最新データの両方を利用した予測精度の高い選択肢を生成することが可能となります。ERPを会計以外の業務に拡大することで業務間のデータ整合性が整います。さらに、ERP以外のデータをERPに揃えてクラウド基盤に統合することでデータを即時活用できるアプリケーション基盤のデータレイクハウス構築となります。SAPでは、BTP(ビジネス・テクノロジー・プラットフォーム)というクラウド基盤でデータレイクハウス構築を狙っています。そして、データレイクハウスは生成AIの登場によってその価値が飛躍的に高まっています。ERPのデータベースには、品質の良い大量のデータが蓄積されていて、このデータを生成AIやMLマシンラーニングで活用すれば精度の高い予測が可能となるためです。
(図表2、データレイクハウスの構築イメージ)
データレイクハウスの問い合わせが増えるとともに、構築に失敗して相談を受けるケースも増えているのが実情です。現実には、ビッグデータの考え方やデータウェアハウスの構築経験はあってもレイクハウスを構築した経験を持つベンダが少ないこと。データレイクハウスに格納するデータのマッピングは業務知識が必要となるため、それなりに業務を理解している必要があるのですがその理解を持つベンダやIT部門がほとんど居ないことが理由です。パッケージソフトを導入する感覚で、レイクハウスを構築すると確実に行き詰ります。そして、最も重要なのがユーザー企業に内製化組織を作ることが出来ないことによる失敗です。ベンダ丸投げでは、業務データの活用など出来るわけがないのですがそこが理解できないケースが数多くあります。
今回は、ERP導入4つのパターンから、その中でもERPを会計だけではなく全業務範囲へ拡大展開してそのデータを活用する理由についてお話しました。ERPの機能にフォーカスするとともに、ERPに蓄積されたデータを活用して変化の激しい市場動向に即応することを狙ったこれから主流となるソリューションです。
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