SaaS型クラウドERPとそのデータを活用したデータ駆動型経営システム

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第73回「SaaS型クラウドERPとそのデータを活用したデータ駆動型経営システム~フィット・トゥ・スタンダードに合った組織/事業から始めることが成功のポイント~」をご紹介します。

□はじめに

 政治は経済に大きな影響を与えます。2024年から2025年にかけて、先進国では、政権やトップの交替が相次いでいる状況です。日本では、自民党総裁選の真っ最中で選ばれた総裁が次の首相となります。米国大統領選は、共和党代表のトランプ氏と民主党代表のハリス氏が競り合っています。その支持率は拮抗していて、どちらが次期大統領となるのかまだ予想できません。アメリカ大統領選挙は、民意が反映された候補者が選ばれますが日本の首相は自民党のなかで選ばれるため世論とは関係なく選ばれます。日本と米国では、国のトップの選び方が違うのでしょうがないことですが、国のトップによってビジネスに大きな影響があります。さらに、英国は、14年ぶりに民主党(スナーク元首相)から労働党(スターマー新首相)へ交代。フランスのマクロン大統領はそのままですが首相は交代します。フランス議会下院選挙で与党が議席数を減らしたことなどより、連立成形の首相選出に選挙後2か月経っても苦労している状況です。ドイツは、地方選挙で与党が大敗して極右政党が第1党となり来年2025年9月の総選挙でシュルツ政権が負ける可能性大です。ということで、欧米日の政権とトップは大きく入れ替わることになります。企業は、こうした変化を察知して機敏に行動することが求められます。

■ERP中心に蓄積されたデータをAIで活用するデータ駆動型経営システムを構築する

昭和や平成には、考えられないレベルで令和の政治や経済は激しく変化して先が見えない状況にあると言えます。企業にとってその影響は少なからず(予想以上に大きな)インパクトが予想されます。それは、地球温暖化による環境対策や、世界各地の国家対立が、貿易紛争や武力衝突・戦争を生じています。先行き不透明な状況で企業が勝ち残るためには、状況変化にリアルタイム対応できる仕組みやシステムが必要不可欠です。これがデータ駆動型経営とAI導入を強く求める理由です。最新のクラウドERPやSCMなど基幹システムに蓄積されたデータと、このデータからAIが導き出した予測や分析が企業には必要なのです。SaaS型クラウドERPは、最新のデータを収集してこれをビジネスに生かすための仕組みが組み込まれています。また、SaaS型クラウドのメリットである機能アップデートによる法改正や機能強化などへの対応を自働取得/即時利用することが出来ます。オンプレミスの旧ERPからSaaS型クラウドERPへ乗り換える企業が急増している理由がこれです。

 これまでは、ERPシステムからの情報や社内外のトレンドから入手した情報を経営が過去の経験などから判断、予想して経営方針を決めていました。しかし、現在は災害やパンデミック、国家間の対立や戦争といった予測できない事態となっています。これは、事業に大きな影響を及ぼします。その対処方法は、リアルタイムに状況を判断する分析/予測システムを活用することと、会社の機動力をスピードアップする必要があります。

 この仕組みを今どきのシステムで説明すると、SaaS型クラウドERPとフィット・トゥ・スタンダードによる短期間かつタイパを考えた基幹系システム構築(フェーズ1:フィット・トゥ・スタンダードによるERP導入)と、このクラウドERPのデータベースに蓄積されたデータを中心にした統合データプラットフォーム構築(フェーズ2:IT+OTデータレイクによる統合データプラットフォーム導入)。そして、このデータを使ったAI導入(フェーズ3:生成AIやML機械学習を使ったAI分析システム)によってトラブルや災害発生時の即時変更対応や予測精度の向上などによって競争力を高めるということになります。

図表1、データ駆動型経営システム:統合データプラットフォームのイメージ

(図表1、データ駆動型経営システム:統合データプラットフォームのイメージ)

■フィット・トゥ・スタンダードに向いている組織/事業から始めることが成功のポイント

 SaaS型クラウドERP導入は、新しいフィット・トゥ・スタンダードという手法で行います。つまり、ERPシステムの標準業務プロセスに合わせた業務の見直しを前提としたシステム導入となります。国内のERPシステムは、会計(財務会計と管理会計)だけ導入するケースや、標準に合わない業務プロセスや機能をアドオン/カスタマイズによって個別開発するやり方が大半です。従って、現行ERPからSaaS型クラウドERPへの移行は簡単にできません。まずは、パイロットプロジェクトから小さく始めるやり方をお勧めします。成功経験を広げて行くことで、経験値やノウハウが溜まります。これによって、フィット・トゥ・スタンダードが難しい組織も当然あるので、そうした組織に無理矢理フィット・トゥ・スタンダードを適用するのではなく、そこは従来型ERP導入手法で進めます。ERP標準プロセス・標準データと違っていることを認識していれば、個別データとして扱えば良いのです。(標準が合わない組織に無理して導入しない、データを改ざん・改変しない方が良い)

図表2、フィット・トゥ・スタンダードという考え方:ERP導入は「作る」から「使う」

(図表2、フィット・トゥ・スタンダードという考え方:ERP導入は「作る」から「使う」)

 SaaS型クラウドERPシステムの標準を調査して、その機能を最大限に利用できる子会社や事業部門を選びます。これをモデルケースとしてトライアルで導入します。フィット・トゥ・スタンダードの標準導入手法だと、3か月間程度の導入をモデルとするケースが多いのですが、筆者がかつてSaaS型クラウドERPの立ち上げを2015年に行った時には、5~6か月ほど掛けて1つ目を導入しました。原則は、「ERP標準業務プロセスに合わせる」という方針ですが、必ず不足やギャップが生じます。その領域や機能をどのように対処するかを同じタイミングで検討する時間を取りました。その対応は、①業務プロセスを見直してERP標準プロセスに合わせる、②ERP対象外として別管理する(Excelなどマニュアルで対処)、③ERPシステムと連携するクラウド上にアプリケーションを作る(Webアプリ開発など)の3つに割り振ります。当然ですが、①がコストも時間も掛からないのですがユーザー側の理解や協力が不可欠です。②はユーザー側の負担が増えるのでその手間と運用リソースの追加が必要となります。③は開発コストと連携の仕組みが必要です。さらに、このようなフィット・トゥ・スタンダードのERP導入を定着化するための内製チームが必要不可欠です。従来のERP導入であれば、ITベンダが全て対応することが可能ですが、フィット・トゥ・スタンダードでSaaS型クラウドERP導入では、ユーザー企業のユーザー部門とIT部門からの協力が必要です。

この仕組みは3つのフェーズに分けてシステム構築することになります。

フェーズ1は、SaaS型クラウドERPを適当な事業規模の組織へ導入することです。ポイントとなるのは、全社ERPを導入するという発想ではなく、クラウドERPを短期間で導入できる組織と規模を選ぶことです。刻々と変化する現状から、2年も3年も掛かるERP導入(リプレース)はあり得ないと思います。複数の事業部や子会社などへ展開することを考えると、1つのERP導入プロジェクトに6~10か月程度で導入するのが理想です。1年以上の長期にわたるシステム導入を進めない理由は、昨今のように変化が激しい状況だとニーズも大きく振れてしまうためです。また、1つのプロジェクトをモデルとして複数プロジェクトを展開するうえでも導入期間を短くする方がコントロールしやすいのです。

フェーズ2は、SaaS型クラウドERPのデータベースからデータを抽出して、クラウド上に構築した統合データプラットフォームに情報を蓄積することです。この統合データプラットフォームは、クラウド基盤上にあります。このクラウド基盤は、目的用途に合わせて複数のクラウド基盤を使い分けるケースが多いようです。例えばサプライチェーン管理や生産管理などきめ細かい計画変更などリアルタイム、ミッションクリティカルなデータ活用を目的とする場合(ショートターム)は、高性能で高速処理を重視したクラウド基盤を選びます。また、長期間保管が必要な品質管理やトレーサビリティマネジメントなど信頼性、コストパフォーマンスなどが求められるデータ利用を目的とする場合(ロングターム)です。このデータは、ERPやSCMなどITシステムからのデータと工場や物流といったドキュメントやExcelファイル・画像・センサデータなどOT(オペレーションテクノロジー)からのデータを整理分類したデータモデルで構築されます。標準とは異なるデータは、固有データとして扱います。

図表3、基幹系システムと統合データプラットフォーム、データ中心のERPへ

(図表3、基幹系システムと統合データプラットフォーム、データ中心のERPへ)

フェーズ3は、フェーズ1のSaaS型クラウドERPやフェーズ2のクラウド基盤上にある統合データプラットフォームに生成AIや機械学習MLなど各種AI技術を導入して、目的や用途に応じてデータ活用を促進する取り組みです。

この3つのフェーズによって、データ駆動型経営システムが整うことになります。SaaS型クラウドERP導入がスタートとなるため、ERP導入はできるだけシンプルかつ短期間で行います。フィット・トゥ・スタンダードは、データ駆動型経営システムを導入する手段として有効だと言えます。

さて今回は、変化に強いデータ駆動型経営システムをSaaS型クラウドERPとフィット・トゥ・スタンダードで実装するイメージについてお伝えしました。前回のSAPの考え方を踏襲して、さらに少し先行した取り組みですが既にこうした仕組みを実現している企業があります。筆者のお客様もこうしたケースが多く、最近はこうした統合データプラットフォーム(IT+OTデータレイク)構築をSaaS型クラウドERP導入やMES/MOM導入の目的にあげる相談が増えてきています。

■お知らせ

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