「コンポーザブルERP導入のコツは、ERP標準プロセスをマルっと利用する」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第62回「ERP再生計画の策定:クラウドERPとコンポーザブルERP~フィット&ギャップで明らかになるギャップの対処方法が成否を決める~」をご紹介します。

□はじめに

 「フィット・トゥ・スタンダード」とか、ERP標準の「ベストプラクティス」に合わせるなど、ERP導入にはそれっぽい成功するキーワードがあります。しかし、実際にやってみればすぐ分かりますが「総論賛成、各論反対!」というのが実情です。プロジェクトで直面するのは、現状業務のやり方を出来るだけ変えたくないという「AS-ISへのこだわり」と、アドオンやカスタマイズすれば出来なくはない。システムベンダーも開発費用が増えて、その保守維持契約も見込めてユーザー企業とベンダーのWin-Winだというのがこれまでの認識です。しかし、これはERPシステムの維持コストとリソース(要員や工数など)を増大させて、成長戦略や効率化などDXに取り組むべき予算とリソースを食い潰すことになります。欧米企業と比べて、本来標準システムとして利用するべきERPシステムが企業ごとにレガシー化して、企業の足枷となっている原因がここにあります。本コラムでは、コンポーザブルERPの導入を成功のポイントが、機能の柔軟性や入れ替えだけではなく、業務プロセスの見直しやオペレーション最適化(ユーザーインターフェースや操作性など)も含めた3つのポイントが重要となることをご説明いたします。

■コンポーザブルERP構築を成功させるポイントとは

 IT分野の調査・助言を行う米国大手ガートナーが提唱する次世代ERPのコンセプトに、「コンポーザブルERP」というものがあります。これは、基幹システムERPを領域ごとに構成要素単位で組み合わせ、不足は個別に機能を追加して企業ごとの業務要件に合わせたシステムを構築していくという考え方です。レゴブロックの1つ1つの標準ピースと個別ピースを組み合わせて、お城や怪獣などを作るような感じです。このやり方だと、レゴブロックの仕様(サイズや接続穴/突起など)を合わせて、異なるところ(お城の屋根瓦や家紋、怪獣の目や牙など)のみ個別ピースを作ります。個別ピースのみ独自開発なので、必要最小限の時間とコストで作ることができます。製造業で言うところのブロック工法やモジュール化をシステム構築に展開した考え方です。

コンポーザブルERPがブロック工法やモジュール化と異なるのは、現時点ではコンポーザブルERPの明確な定義や方法論が確立されていないこと、ERPベンダー間をまたがる共通化が未成熟であることです。さらに、ERPシステムの場合はレゴブロックと違って機能単位でパーツを組み合わせるだけでは、ユーザー企業の業務プロセスが処理できないケースが多いようです。具体例をあげると、マーケティングや営業支援(SFAなど)を行うCRMシステムをSalesforceで行っていて、経営管理や会計(財務会計や管理会計)をSAPのERPシステムで行っているような場合、2つのシステムそれぞれに顧客マスタや品目マスタ、契約情報などがあります。異なるアプリケーションの異なるデータベースに、同じマスタ類があるのですが、その形式や管理モデル、単位などズレがあります。そこで、このズレをなくすために、マスタを読み替えたり調整したりする必要があります。これをiPaaSやETL、RPAやローコード/ノーコードツールで連携するというアプリケーション間の調整が必要となります。これは、複数のシステム基盤(クラウドプラットフォーム)や複数データベース(マスタ内容はほぼ同じ)を二重持ち持ちすることになってその維持管理コストが増えて、不測の事態で業務プロセスが変更されると業務管理や調整作業は煩雑になります。つまり、機能を組み合わせてから、実際に業務プロセスごとに処理が滞りなく処理されるかの検証作業と不測の事態に備えたリスク対策に備える必要があります。

■コンポーザブルERPは機能を組み合わせただけでは動かない

 従来のオンプレミスERPやIssS型クラウドERPでは、ERPシステムにアドオン・カスタマイズをしてもERPシステムのデータベースは1つだけです。バージョンアップのときには、アドオン・カスタマイズの部分を中心に不具合や検証を行うことで対処できます。しかし、SaaS型ERPシステムを他ウェブサービスと組み合わせたコンポーザブルERPを導入した場合には、データベースがそれぞれのアプリケーションに分散してしまいます。また、業務プロセスが複数のシステムをまたがるため不具合やトラブルの検証が難しくなります。そこで、出来るだけERP標準機能を利用することが推奨されます。そうは言っても、機能ギャップが生じる領域は必ずあるためその場合については、次のような対処が必要となります。

  • 主要な業務シナリオを全て洗い出す。
  • 業務シナリオごとに組み合わせて構築したコンポーザブルERPで業務プロセスが処理できることを検証・確認する。
  • ギャップが生じた場合は、その対処を次の中から選ぶ。

A:ERP標準機能に業務プロセスを合わせる。

B:業務プロセスをERP標準機能に合わせられない場合には、補完する代替ソリューションを適用する。

C:業務プロセスをERP標準機能に合わせられない、且つ代替ソリューションが適用できない場合には、アドオン・カスタマイズを検討する。アドオン・カスタマイズは、ERP標準システムの外側に連携するようなかたちが望ましい。また、可能な限りシステム基盤はERPシステムと同じプラットフォームに置いて、データの分断やシステム管理の煩雑さを回避する。バージョンアップへの影響を考慮して、カスタマイズ方針を明確にする必要があるため、その経緯とカスタマイズ理由を明記して記録する。

D:ERPシステムのスコープ範囲外とする。(別システムでの対処やマニュアル対応など)

 ERPシステムは、①業務プロセス、②機能/データ、③操作性/ユーザーインターフェースの3つを常に考慮する必要があります。また、これを支えるシステム基盤(クラウドやデータセンターなど)は、出来るだけ1つに絞ってシンプルかつ手間が掛からないインフラを構築する必要があります。インフラを無視したコンポーザブルERPを構築すると、トラブル発生時にデータ消失や業務への障害が大きくなります。セキュリティのインシデントも考慮して、BCP計画と定期的な災害発生に備えた定期検査(セキュリティインシデントやサーバ障害、ネットワーク障害、物理障害など)を実施する必要があります。

さて、今回はコンポーザブルERP導入のポイントについてご説明しました。コラム中でふれたCRMにSalesfroceのSFA(Sales CloudやService Cloudなど)、ERPにSAPの会計(財務会計、管理会計など)をバイブリッドで導入するケースも多いようですが、その場合には、SAPのクラウド基盤SAP BTPを使ったPaaSに構築するケースが増えています。しかし、2つ以上のプラットフォームにアプリケーションとそのデータベースが併存しているので、障害が発生した場合の対応に備えておくことが重要です。

(図表1、コンポーザブルERPは業務プロセスに対応した機能を複数パターンに対応)

(図表2、ERPのシステム構成イメージ:データ、プロセス、機能を切り分けて管理)

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