ERPシステムで導入/再構築が難しい領域とは

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画の策定:ERPシステムで導入/再構築が難しい領域とは~導入範囲ごとにERP再生のポイントについて解析する、販売管理1~」をご紹介します。

□はじめに

 新型コロナウイルスの扱いが季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられ、街中はインバウンドの外国人旅行者や出張者で溢れています。2020年に新型コロナウイルス対策の特別措置法による緊急事態宣言から3年を経て、ようやく日常が戻ってきたかと感じる日々です。欧州ではロシアとウクライナの戦争が長期化、スーダンの紛争勃発、台湾と半導体を間に挟んだ米中対立も激化しています。こうしたなか、2023年3月期の国内企業業績は好調なようです。しかし、原材料価格の高騰、人件費・エネルギーコストの上昇、そして目前に迫る物流業界の2024年問題など企業の利益は急速に減りつつあります。人手不足対策やサプライチェーン強靭化を目指して、多くの企業がERPシステムやサプライチェーンシステムの再編を急いでいます。更に、こうしたシステム再編の先にDX/GX/データ活用を見据えた成長戦略があります。今回より、ERP再生に向けた具体的な取り組み方についてご説明いたします。まずは、企業業績を担う要となる販売管理からです。

■販売管理システムがERP導入で最も難しい理由

 ERPシステム導入において、難しい業務領域の1つは間違いなく「販売管理」です。その理由は、同業種・同業態でも独自のこだわりや商習慣によって求められる管理要件や機能がまるで違うためです。例えば、パソコンを買う場合はパソコンを売っている家電量販店や小売店に行って買うケースが多いと思いますが、法人なら商社・卸売業者やメーカーの購入が一般的です。また、直販ウェブサイトや中古パソコンを扱う販売店も増えていて機能/納期/価格などの条件によって様々な買い方が出来ます。裏を返せば、こうした多量な流通に対応した販売管理が必要となります。また、業界特有のケースとして胃薬を買う場合は、お医者さんに診察してもらって処方箋を貰う場合は調剤薬局、ドラッグストアやネット通販で一般薬を買う場合があります。同じ成分の胃腸薬でも買い方や入手方法が違います。処方箋薬は、病院など医療機関や調剤薬局で扱う医薬品卸より調剤薬局へ流通して、保険適用がされます。市販薬はドラッグストアやネット通販など小売店で流通しています。それぞれの販売管理システムは薬の分類や流通によって変わります。薬の価格は、処方箋薬の場合は国が決めた薬価があり、先行薬と後発医薬品(ジェネリック)の違いで価格が違っています。このように、販売管理システムは業界・業態でも様々な複雑な対応があるためシステム化が難しいのです。ERPシステムや販売管理システムの良し悪しは、この販売管理システムがどれくらい幅広い業種業態、業務要件に対処できるかで分かると言っても過言ではありません。そして、販売管理のシステム化はERPシステムの導入で最も難易度が高いものだと言えます。

※約10年前の調査資料ですが、ERP研究推進フォーラムという業界組織(2014年に解散)が毎年ユーザー調査していた調査資料によると販売管理は最も独自開発比率が高い領域でした。この傾向は、現在もそれほど変わらずERPの標準機能で足りない機能は、確実にアドオン開発や他システム(Excelやウェブ、手作業対応など含む)などで補完していると思われます。最近では、10年来独自開発してきた販売管理システムをパッケージベース(SaaS/PaaS利用など)で見直したいという相談が増えています。

図表1、基幹業務のシステム化状況※ ERPフォーラム 2014年調査結果より
図表1、基幹業務のシステム化状況※ ERPフォーラム 2014年調査結果より

■ERPシステムの販売管理とは、販売管理システムに求められる機能とは

 販売管理とは、企業が売上や収益を獲得するための直接的な活動です。どの企業でも必要な機能で、商品やサービスを販売して売上(収益)を上げることです。管理すべき主な要件は以下の通りです。

①何(商品・サービス)を、
②どこ(得意先)に、
③どのくらい(数量)、
④いつ(納期)、
⑤幾ら(価格)で販売したのか、
⑥売った商品の代金はいつ入金されるか(請求・債権・回収)
⑦仕入れた商品の代金をいつ支払うか(債務・支払)

一般的な販売管理プロセスは、引き合い>見積り>受注>納期回答>出荷>請求>回収です。ERPシステムにおける「受注」は、会計処理のための請求書を作成するために必要となる取引の起点です。何を/どこに/どのくらい/いつ/幾らで販売して、いつ回収(代金の入金、債権・売掛金)されるかです。製造業や商社・卸売業ならば仕入れた商品・原材料をいつ支払うか(債務・買掛金)を管理する仕組みが必要となります。同じ商品でも、流通ルートや商習慣(法人/個人/官公庁など)によって対処が異なります。

つまり、お客様にヒアリングを行って、過去・現在の取引を網羅するとともに例外処理や今後予想される取引方法などについても考慮する必要があります。ほぼ確実に業界独自の商習慣や個別ルールがあるため、ほぼ確実に例外処理が発生します。知らなかったでは済まされないことなので、販売管理システムの構築は丁寧に行うとともに必ずお客様に考え方や処理方法が間違っていないか確認を取る必要があります。筆者の経験だと、ここでヒアリング不足(業界を知らない、理解していない)、確認漏れによるエラー/トラブル(顧客側が認識を間違うケースも多い)、標準では出来ない処理の対処(アドオン機能開発やスコープ外対応など)がいい加減で大問題となったケースが大量にあります。従って、販売管理システムの再構築は、十分な時間と要員と手間を掛けて行うことを強くオススメします。販売管理がダメだと、最悪の場合業績に直接影響することになります。(訴訟問題になります)

<販売管理システムに求められる主な機能要件>

  • 受注処理:受注入力・引当、受注状況・照会、帳票(受注残一覧表、進捗状況など)
  • 出荷処理:出荷入力・指示、ピッキング手配、出荷状況・照会、帳票(出荷状況管理票、ピッキングリスト、仕分リスト、配送リストなど)
  • 売上処理:売上入力・照会・確認、帳票(納品書発行、売上残一覧表など)
  • 売掛管理:入金入力・確認、入金消込、売掛残高確認、入金伝票照会、帳票(回収予定表、売掛残高一覧表、未消込物件一覧表、受取手形一覧表、回収予実比較表など)
  • 請求処理:請求締・状況照会、請求一覧・明細照会、帳票(請求一覧、残高一覧など)
  • 発注処理:発注入力、発注状況・照会、帳票(発注書一覧表、発注残一覧表など)
  • 入荷処理:入荷予定・指示、入荷確定・確認、帳票(入荷予定リスト、状況管理票など)
  • 仕入処理:仕入入力・照会・確認、帳票(仕入残一覧表、進捗状況など)
  • 買掛管理:支払入力・確認、買掛残高確認、支払伝票照会、帳票(支払予定表、買掛残高一覧表、支払手形一覧表など)
  • 支払処理:支払締・状況照会、支払一覧・明細照会、帳票(支払一覧、残高一覧など)
  • 在庫処理:在庫移動・在庫調整、在庫状況、帳票(在庫一覧表、消費期限切予測表など)
  • 棚卸処理:棚卸調整入力・照会・差異確認、帳票(チェックリスト、棚卸差異表など)
  • セット商品管理:構成品登録、セット商品組立入力・照会、帳票(セット指示書など)
  • ロット・トレーサビリティ管理:倉庫別ロット在庫、帳票(ロット別在庫一覧など)
  • 統計処理:予算入力、売上・仕入統計、帳票(予算表、各種管理帳票、推移表など)
  • 他システム連携:会計システム、CRM、SFA、EOS/EDI、BI、ワークフロー、モバイル(在庫照会・在庫数量確認)、HHT(QR/バーコード入出庫・棚卸)、FAX、Web、貿易管理など
図表2、販売管理業務とは、企業が売上や収益を獲得するための直接的な活動
図表2、販売管理業務とは、企業が売上や収益を獲得するための直接的な活動
図表3、参考:販売管理システムに求められる機能
図表3、参考:販売管理システムに求められる機能

今回は、ERPシステム導入において「販売管理の難しさと重要性」について簡単にご説明しました。次回もこれに続いて、販売管理システムのヒアリングポイントや他システムとの関連について詳しくご説明したいと思います。

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