国家百年の計から企業の基幹システムの計を企てる。ここから先のERPを考える

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画」第52回「国家百年の計から企業の基幹システムの計を企てる。ここから先のERPを考える(その1)~1年先、10年先、100年先のERPについての考察とERP人材の育成(その1)~」をご紹介します。

□はじめに

 国内外の政治、経済、社会の混乱が続いていますが、新型コロナウイルスからの回復半ばにして、世界的な景気後退や気候変動による災害など厳しい状況がまだ続きそうです。国家も企業も先行きの不透明感が増すばかりで、明るい未来よりも目前に迫る脅威や課題を回避するのに精一杯な状況です。こうした状況だからこそ、1年後、10年後、100年後先を思い描く心構え大切なことだと思います。

 中国の「管子」という書物の「権修篇」には「終身之計」という言葉があります。これは「国家百年の計」の元になったと言われる言葉ですが、約2700年前の中国春秋戦国時代における斉の宰相「管仲」(死後に「敬」と諡(おくりな)され以後は管敬仲、あるいは管子とも呼ばれる)」の言葉だと言われています。

一年之計 莫如樹穀、(一年の計は穀を樹うるに如く莫く)
十年之計 莫如樹木、(十年の計は木を樹うるに如く莫く)
身之計 莫如樹人。(終身の計は人を樹うるに如く莫し)
一樹一穫者穀也。(一を植えて一を得るのが穀物)
一樹十穫者木也。(一を植えて十を得るのが木)
一樹百穫者人也。(一を植えて百を得るのが人である)
我苟種之 如神用之 舉事如神 唯王之門。

(人材育成を行うということは、神がこれを行うに等しく、神が物事を導いて結果を出す様なもので、これは指導者が取り組むことである)

※カッコ()内が日本語の意訳です。

ERP老舗の独SAP社がSAP ERPの前進となるSAP R/3を1992年にリリースしてから30年が経ち新しいS/4HANAへ製品移行を進めています。さらにERPシステムの構成が、モノリシック(密結合)からコンポーネント化/マイクロサービス化(疎結合)へと変わり、ピラミッドのような巨大建築型からレゴブロックのようなモジュール型へ柔軟性と拡張性が可能となっています。国内におけるERP新規導入企業の半数以上が、クラウドERPとなりました。今後はSaaS型ERPの導入がメジャーとなり、企業ごとの固有のこだわりや強みをERPシステムに直接アドオン/カスタマイズする時代ではなくなりつつあります。今このタイミングで基幹システムも時代の変革とおなじくして、大きなパラダイムシフトが起こっています。今回からあらためて「ERP再生」を国家百年の計に習ってその歴史から考察していきます。現状認識から、1年先、10年先、100年先のERPを思い描いてみたいと思います。

■ERPの寿命は15年から20年と言われていますが

 日本にERPパッケージが入ってきたのは、1990年代の半ば頃です。当時の基幹システムは、オフコンやメインフレーム上に独自開発されたスクラッチ開発システムでした。製造業や流通業向けに、会計パッケージとして導入が広がりました。当時は、管理会計機能が注目されて、経営管理システムとしての導入が多く2000年代にERPを導入する企業が相次ぎました。国産ERPも2000年代半ば頃に多くの製品がリリースされ、日本におけるERP導入が一気に進みましたが、そのあとのリーマンショックでERP普及が鈍化しました。そのあと5年頃までERP導入は減少傾向となっていましたが、2015年頃より再び成長に転じて順調な伸びをしめしています。2018年頃より、DXというキーワードでレガシー化したERPシステムが成長の足かせとなることが経済産業省のDXレポートで指摘され、これ以降ERPとDXに対する関心が高まりました。既に日本企業の約7割以上で、ERPが導入されていまが、その半数は会計機能や経営管理だけを利用しています。ここ最近になって、ERPの導入範囲を販売管理、購買管理、在庫管理などに広げる企業が増えています。さらに、製造業向けERPには、生産管理のみならず生産計画(APSスケジューラー)や製造実行システム(MES)、設備管理(CMMS:コンピュータによる設備管理システムやEAM、APMなどと呼ばれる)の機能を揃えている製品もあります。また、こうした個別の業務システムとERPを連携した利用も増えています。つまり、ERP導入してから10年から15年程度で、利用範囲の拡大や機能拡張、ERPの入れ替えを行う企業が増えています。

 ERPシステムのアップグレードや入れ替えを行う時期は、導入後15年から20年程度のケースが多く、これは市場環境の変化とビジネスモデルの見直しを行うタイミングなどによるものが多いようです。一般的には、既存のERPシステムから最新バージョンにアップグレードしたり、導入範囲の拡大など進めたりするケースが多いようです。また、他ベンダの製品に入れ替えるケースや、親会社と子会社グループでERPパッケージを違うERPにするケースも増えています。これは、親会社と子会社でERPに求める要件が異なることと、導入費用や維持コストを押さえたいという考えに寄るものです。100年先のERPについては、さすがにイメージできませんが、恐らくシステム的には完全自動となっているのみならず、経営者や管理者に対して業務を指示したり、その結果を褒めたりする万能AI搭載型のようになっているかもしれません。

■クラウドとDXとデータ活用について

 2015年頃までのERP導入は、ERP導入範囲を会計から販売管理/調達管理/在庫管理などへ機能拡大することがフォーカスされていました。しかし、2015年移行は外資系ERP製品などがクラウドERPとして、IaaS対応版クラウドERPやSaaS版クラウドERPなどクラウドにフォーカスされてきています。また、IoTデータとの連携やERPに収集されたデータをAIで解析して利用するといったデータ連携をクラウド基盤上で行うという事例も増えています。製造業では、ERPとLES(ロジスティクス実行システム)や、ERPとMES(製造実行システム)との連携がフォーカスされています。商社や小売業などの流通系では、EC(ネット通販)やCRM(顧客情報管理)などフロント系システムとの連携が広がっています。さらに、DXへの取り組みとしてERPと他システムによる連携、そのデータを統合データベースに収集して、データを重ね合わせて分析するなどして他社との差別化や独自の強みを生み出しています。これまでのERPシステム連携と違うのは、これまでのERPシステムとの連携がコスト削減や効率化を目指した「機能中心の連携」であったことに対して、これからのERPシステムとの連携はERPシステムに蓄積されたデータと他システムに蓄積された「データ中心の連携」になっています。これは、ERPと他システム(データ連携)のデータの重ね合わせが、データ活用メリットを引き出していることによるものです。最近では、ERPと他システムのデータをクラウド基盤上で統合データベース/データレイクを構築して、そのデータをローコード/ノーコードツールでセルフサービス化するといったデータ活用が増えています。しかし、データ蓄積が進めば進むほどデータ肥大化による処理の遅れや、データセキュリティに関するトラブルやリスクも増大しているためデータ活用に成功している企業はまだ一握りです。

 ERPの機能や他システムとの連携によるデータ収集・分析が新しいトレンドの1つになっていますが、データ活用による期待効果が目先のものになりがちで、中長期的には肥大化したデータの扱いに困るケースも増えています。クラウドやデータ連携、ローコード/ノーコードツールによるセルフサービス化は、導入当初は上手く行きますが次第にその効果は限定的なものとなります。冒頭で「1年後、10年後、100年後先を思い描く」というお話をしていますが、現在のERPに関する取り組みは、1年後、2,3年後といった短期的なところは具体化出来ていますが、5年先、10年先といった中長期的なデータ活用は企業全体のゴールや狙いに左右されるため十分な議論が出来ていなのです。

 次回より、ERP再生について中長期的な計画策定とこれを支えるための人材育成について具体的にご説明していきたいと思います。いまさらですが、ERP導入企業の数は増えていても十分に使いこなせている企業は多くありません。さらに、導入から保守運用までベンダ丸投げというケースも多く、こうした実態もERP導入による効果が上がらない理由の1つだと言えます。

以上

(図表1、国内ERP市場推移:ERPの進化・再生からデータドリブン経営へ)
(図表2,データ連携の進化:既存ERPとこれからのERP連携の進化イメージ)

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