「リセッション(景気後退)を見据えたクラウドERPの導入と活用 」

はじめに

 アメリカと中国の景気減速が避けられない見通しとなり、世界経済は確実にリセッション(景気後退)へと向かいつつあるようです。実際には、景気後退によるデフレ経済とコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによるスーパーインフレが同時並行で進行するスタグフレーションであり、今回の影響はしばらく続く可能性が高いと予想されます。つまり、コロナ前までは、経済産業省のDXレポートなどから「基幹システム刷新で企業の成長戦略を底上げする」という考え方でしたが、コロナ禍からサプライチェーンの混乱、地球温暖化による災害、ロシアのウクライナ侵攻など複合的な事案発生によって成長戦略の前にこの混乱を確実に生き抜く算段が必要です。成長戦略を最大目標にした「攻めのためのERP再生」ではなく、景気後退を想定した安定した経営基盤と景気回復を睨んだ成長戦略の二兎を追う戦略、「6を攻めのためのERPにあてて,残り4を守りのためのERPに割り振る」といった「攻守一体型ERP」が求められる状況になってきました。このリセッション対応した攻守一体型ERPの考え方、その導入と活用について今回はご説明いたします。

(図表1、2022年下期、7+1の脅威>次の脅威は「リセッション・景気後退!」)
(図表2,経済産業省 ものづくり白書2022より)

攻めのERPに求められる機動力と突破力

 攻めのERPとして求められる機能は、刻々と変化する事業環境に即応できる機動力つまり業務処理スピートと業務処理能力の両方を兼ね備えていることです。例えば製造業の場合ならば、サプライチェーン混乱による原材料資材調達の速やかな回避や、安定した売上を維持するためにユーザー向けのアフターサービス&メンテナンスを拡充するなどが考えられます。サプライチェーン再編のポイントは、物流拠点ごとにバラバラのデータとシステムを揃えることです。特に、単位系(重量、容積、荷姿、包装形態など)を標準化して揃えます。さらに、通常は輸送手段(トラック配送:短距離・中長距離・循環、鉄道輸送、船舶輸送、空輸など)が異なる倉庫管理システム(WMS)や配送管理システム(TMS)などを出来れば1つのロジスティクスシステムに統合することです。そのシステムとERPを連携することで物流データの全部見える化が可能となります。これによって、事故や災害などによるサプライチェーントラブルを察知したと同時に、対策を即時に打つことが可能となります。これまで物流データは、トラブルが生じたときに必要なデータだけを絞り込んで、これを変換してから他システムと連携、可視化するということをしていました。しかし、これでは、データを整えるのに時間が掛かることと常日頃扱わないデータをどう処理すれば良いのか戸惑うケースが多く、結果として対応に1日以上掛かっていました。サプライチェーンが分断されて、状況把握に1日掛かるというのでは納期遅延リスクだと言えるでしょう。また、こうした物流データ膨大であるためこれまではERPシステム上では把握出来なかったことも原因の1つです。しかし、クラウドERPとクラウド基盤を組合せて利用すれば、データ容量や処理能力を気にすること無く常に最新の情報を手元に置くことが出来ます。毎日状況が激減する現状を考えると、サプライチェーンの機動力を高めるとともに、想定外のイベントやトラブルが生じても即応することで状況を打開する突破力を備えることが可能となります。これからのERPは、会計メインの考え方からロジスティクスメインへ発想をレベルアップする必要があります。

(図表3,グローバル展開する製造業のサプライチェーン再構築の3つのポイント)
(図表4,サプライチェーン再編におけるデータ取り扱いポイント)

守りのERPに求められる標準化と信頼性

 守りのERPとして求められる機能は、言うまでもなく企業業績が網羅されていて経営状況が過去から現在に至るまで継続的に把握出来ることです。決算ごとに乱高下するような内容ではなく、経営者の目指す方向性を裏付ける業績や財務内容、管理指標がERPのデータベースに蓄積されていることが重要です。また、他社とのベンチマーク(比較分析)や優位性の評価を見るうえで、業務プロセスの標準化とERPで管理されている業務指標がバランス良く対応していることも重要です。これまでのERPシステムでは、独自のこだわりや管理指標をアドオンやカスタマイズというやり方でERPシステムの中に組み込んできました。しかし、近年ではERPシステムの業務プロセスや機能はそのままに、これを補完するシステムやデータをクラウド基盤上に置いて、その上でデータ統合した上で独自のこだわりや管理指標をサービス化するというやり方が主流になりつつあります。その背景には、ERPの導入や改修に巨額のコスト・リソース・時間を掛けるムダを省いて、DXや戦略投資や事業開発を先行させたいというニーズが高まっているためです。具体的には、ERPシステムは、クラウドERP(SaaS型や標準モデルそのまま)を短期間・低コストで導入して、これを補完するシステムやデータを揃えてクラウド基盤上で見える化、サービス化するというやり方です。既にOT+OTデータレイクを導入して、こうした取り組みを行っている企業が多数あります。守りのERPに求められるのは、これまでと変わらない業務をどれだけ効率よく省人化/自動化して処理出来ているかを測る仕組みであり、モノサシでもあるという役割となります。新しくERPシステムを刷新しても、会計処理やその内容、評価など従来のやり方は同じです。守りのERPは、そのことを標準化でまとめるとともに処理スピードのアップ、RPAやAI-OCRなど技術による省人化/自動化をサポートするとともに、人間でしか対処出来ない例外処理を速やかに処理できる状況を生み出すことがポイントとなります。伝票入力や仕訳入力、転記といった煩雑で付加価値の少ない業務を減らして、内容検討や判断を的確に遂行出来るのが守りのERPに求められる役割となります。

 例えば、具体例をあげるとするならば営業部門の受注活動や販売管理から、ERPシステムに連携する一連のオペレーションは、営業担当者や営業事務担当者がケースバイケースで対処しています。これは、顧客や状況によってあらゆるケースが想定されるためでその判断やERP上の処理は容易ではありません。また、顧客の都合や要望で製品の納期や支払手段の変更なども多々発生するため慣れた担当者でも判断に迷うケースも生じます。事務担当者の処理時間を減らして、業務の信頼性を維持しつつどれだけシンプル化出来るかがポイントとなります。こうした仕組みには、SaaS型のクラウドERP導入が最適です。機能や管理要件の不足やギャップがありますが、その不足やギャップはクラウドERP外で処理することになります。そして、このタイミングで不足やギャップのプライオリティを再度評価・検討するチャンスとなります。ここでシンプル化しておくことで、ERPシステムの肥大化やレガシー化を回避することが可能となります。

(図表5、ERP+ONE:これまでのERP連携とこれからのERP拡張連携)
(図表6、守りのERPシステムが決算処理の早期化を実現するポイント)

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