ERP業界トップランナーの鍋野敬一郎氏によるコラム「ERP再生計画」第45回「ERPと流通DXのブレークスルーポイント(その3) ロシア・ウクライナ侵攻による、サプライチェーン混乱の見通し」を公開しました。
□はじめに
ロシア軍がウクライナへ侵攻して既にひと月が経ちました。電撃作戦で短期間での首都キーフ占領を想定していたロシア軍は、想定外の苦戦によって膠着状態となっています。今回のロシア軍事侵攻は、コロナ禍からの経済回復を想定していた欧州経済はもちろんのこと、グローバル経済、日本経済の回復にも大きなインパクトがあります。今回は、ロシア・ウクライナ侵攻が日本市場および各業界へ与える影響と、これによって生じるサプライチェーン混乱に対して企業がどのように対処すべきなのかを探りたいと思います。また、今回のような突発的な事態におけるサプライチェーン見直しについて、ERPとLES(ロジスティクス実行システム)の視点からポイントをご説明いたします。
■ロシア・ウクライナ侵攻によるサプライチェーン混乱と経済への影響
2022年2月24日にロシア軍がウクライナへ侵攻を開始して既にひと月、戦況は膠着状態ですがロシア軍優位の状況は変わらず未だ停戦に至る道筋は不明瞭です。軍事行動で行き詰まるロシアと、欧米からの支援で持ちこたえているウクライナですが、戦争の膠着と長期化によって経済への波及効果が大きくなって来ました。欧米は経済的にロシアを追い込むことで、ロシアの軍事行動を抑え込む考えのようですが、これはグローバルサプライチェーンからロシアを切り離すという痛みを伴う行動となります。天然ガスや石油などエネルギー資源の供給国として影響を持つロシアですが、それ以外にもロシアとウクライナは、パラジウムやニッケル(ロシアが供給国1位)、ネオンやアルゴンやクリプトン、キセノンなど希ガス類(ネオンはウクライナが供給国1位で世界の約7割を占める)など半導体製造に必要な希少資源の供給国です。さらに、小麦やヒマワリ(食用油など)といった食料供給国としてロシア・ウクライナは大きなシェアを持っています。わずかひと月の戦争が、関連する市場の供給リスクとして市場価格高騰を引き起こしています。日本経済にも少なくない影響が出つつあります。JETRO(日本貿易振興機構)が、3月末に記者発表した「ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査結果」にも、ほぼ全ての企業で影響が出ていると回答されています。
欧州グローバルコンサルティング会社であるローランド・ベルガーは、2022年4月に「ロシア・ウウライナ侵攻による経済への影響」を発表しています。(日本サイト、日本語)このレポートでは、今後のシナリオを3つのケースに分けて、欧州連合(EU)、アメリカ、中国の3つの地域に与える侵攻の影響と、EUの産業界に与える侵攻の影響がわかりやすく分析されています。
-シナリオA:短期的(2022年上期中)に停戦となるシナリオ
-シナリオB:紛争が長期化し、終息が2022年下期以降になるシナリオ
-シナリオC:紛争が長期化し、EUが更なる経済制裁(エネルギー禁輸)に踏み込むシナリオ
現状でロシア・ウクライナ侵攻は既に長期化しつつあることから、シナリオCで示唆されている通り欧州の経済は短期的に大きな打撃を受けると予想されます。さらに、ドイツなどロシアの天然ガス(LNG)や石油、石炭の供給停止を宣言しているため(EUとしては石炭)、日常生活や産業活動にも大きな影響が予想されます。エネルギーコストが短期的な直接的影響ですが、産業活動の抑制による資材や部品の不足が景気回復の足を引っ張ると思われます。このレポートでは、産業別の動向として自動車産業のケースがあげられています。
ロシア・ウクライナ侵攻は、地球の裏側で行われている戦争ですがグローバルサプライチェーンでつながる日本への影響は今後更に大きくなると予想されます。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱に加えて、今後さらに商品価格の上昇、物流コストの上昇、そして燃料や電力などエネルギーコストの上昇が見込まれます。
■サプライチェーン混乱によるリスクを回避するソリューション
コロナ禍や国際紛争・戦争と言った非常事態によるサプライチェーンへの影響は、予測が難しくまた状況も刻々と変化します。こうしたリスクを回避するソリューションは、リアルタイムに変化を把握できる仕組みを整えることです。具体的には、ERPやSCM(サプライチェーン管理)、物流管理システム(LES:ロジスティクス・エグゼキューション・システム)、そしてトレーサビリティ管理などです。これまで、日本企業の多くはERPの財務会計/管理会計にフォーカスした導入をしてきました。これは、企業の財務会計と企業内部組織の管理会計を並行して管理するメリットを生かした仕組みです。しかし、会計処理は月次処理のため、会計中心のERP導入では原材料や部品、製品、燃料などの在庫や物流のリアルタイム把握には対応できません。お金の動きを中心とした会計ERPから、モノの動きを中心としたロジスティクスERPへ見直しが必要となります。まず、データの更新頻度ですが可能ならば日次、難しければ最低でも週次は必要です。データの取得はできる限りきめ細かくして、且つデータ収集した時刻データや位置データなど属性情報も取得します。データ収集は可能な限り自動化して、マニュアル入力を止めます。ここでウェブAPIやCSVファイルによるシステム連携や、AI-OCRとRPAツールによる自動データ収集の仕組みを導入します。物流データは、物流会社からのデータと連携するケースも多いと思いますので、データ更新される都度に時刻データと位置データを同じレベルで一元管理しておくと、リアルタイム・トレーサビリティ管理の仕組み構築にこのデータが活用できます。
経済産業省2021年度版ものづくり白書では、コロナ禍による影響の対策としてサプライチェーン強靭化について言及しています。サプライチェーンの見直しは、システム再構築だけではなく業務側の標準化と見直しも並行して進めるとさらに精度の高い効果が期待出来ます。そのポイントは、物流会社から得られる情報を物流関連で揃えることです。例えば、パレットやコンテナと言った規格を揃えて、ここに社内物流のケースや箱などを対応させれば物流情報をシームレスに活用したトレーサビリティ管理が出来ます。また、倉庫管理における入出庫管作業や、自社物流部門による配送作業を標準化すれば、そのデータから予測が可能となります。重要なのは、システム側のデータ収集や管理レベルの見直しと並行して、業務オペレーションの標準化を進めることでサプライチェーンのエンド・トゥー・エンドを網羅したリアルタイム・サプライチェーン管理に近づくことが出来ます。物流業務は、鉄道輸送、海上輸送、空輸、トラック輸送などその輸送手段によって管理する体系や仕組みがバラバラでした。また、国内物流と国際物流でも管理内容や情報が違っています。サプライチェーン全体を俯瞰したトレーサビリティ管理を行うためには、バラバラなデータを都度変換する必要がありましたが、最近ではシステムを揃えたり業務を標準化したりすることでロジスティクス情報を最大限活用する取り組みが広がりつつあります。こうした取り組みを進めることで、コロナ禍からの回復やロシア・ウクライナ侵攻によるサプライチェーン混乱に対して即応できるリアルタイム・ロジスティクス実行管理システム(リアルタイムLES)の実現が可能になると思われます。
今回は、ロシア・ウクライナ侵攻が日本経済とサプライチェーン混乱をさらに加速させるリスクについてご紹介するとともに、その対策としてサプライチェーン再編の考え方についてお話しました。ロシア・ウクライナ侵攻による原材料・商品価格の上昇、物流コストの影響、エネルギーコストの上昇は、既に企業努力で対応できる範囲を越えています。しかし、こういうタイミングだからこそ挽回のチャンスに備えてシステムと業務を見直してソリューションを磨いておくべきだと思います。
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