総合商社の丸紅がSAP構成を見直しGRANDITを導入
標準機能にアドオンを適用した「丸紅版GRANDIT」を開発し
導入の迅速化・省力化・低コスト化を目指す
総合商社の丸紅株式会社(以下、丸紅)は“SAPの2027年問題”に対処するため、単体(丸紅本体)10営業本部と国内の20事業会社(丸紅グループ)を対象に、双日テックイノベーションが提案した純国産ERP「GRANDIT」を導入。第一弾として2023年10月から2本部2事業会社において本格稼働を開始した。そしてその経験を元にGRANDITの標準機能にアドオンを適用した「丸紅版GRANDIT」を新たに開発。プログラミングの標準化やビルド・リリースの自動化、ソースコード解析ツールの導入、テストの自動化などを実現し、SAPからGRANDITへ移行する際の導入期間の短縮や展開時の効率性向上、導入後のメンテナンス性強化などを実現している。
企業情報
日本を代表する総合商社。国内外のネットワークを通じて、ライフスタイル、情報ソリューション、食料、アグリ事業、フォレストプロダクツ、化学品、金属、エネルギー、電力、インフラプロジェクト、航空・船舶、金融・リース・不動産、建機・産機・モビリティ、次世代事業開発、次世代コーポレートディベロップメント、その他の広範な分野において、輸出入(外国間取引を含む)及び国内取引のほか、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開。
(参照:https://www.marubeni.com/jp/company/profile/)
企業名 | 丸紅株式会社 |
HP | https://www.marubeni.com/jp/ |
所在地 | 東京都千代田区大手町一丁目4番2号 |
設立 | 1949年12月1日 |
従業員数 | 4,337名(丸紅グループの従業員数50,200名)※2024年03月31日現在 |
SAPのフルバージョンアップを一部見直し個別最適なERPとしてGRANDITを採用
丸紅は2020年10月から、従来の「SAP ECC」を活用してきた単体(丸紅本体)の10営業本部と国内の20事業会社(丸紅グループ)を対象に、双日テックイノベーションが提案したGRANDIT導入プロジェクトを開始。その第一弾として、2023年10月から2本部2事業会社においてGRANDITが本稼働を開始した。
この刷新の背景には、SAP ECC 6.0の標準保守が2027年末で終了(有償サポートの場合は2030年まで延長)するという“SAPの2027年問題”があった。丸紅 情報企画部 部長代理 新基幹システム推進課長 寺井 寛氏は、ERPの課題について次にように語る。
「弊社は1999年に初めて『SAP R/3』を導入し、その後は必要な機能をアドオンすることで延命し続けてきました。その結果アドオンの数は5,000以上となり、その後実施したSAP ECCへのバージョンアップでは移行にかなりの時間を費やし、巨額のコスト負担が発生してしまったのです。そうした中で直面したのが、次の基幹システムをどうするかという問題でした」
丸紅では2027年問題を契機に、SAPによるオールインワン構成でのフルバージョンアップを見直し、各領域の要件に最適なERPを導入する方針を決定し、「単体会計」、「国内営業および事業会社会計」、「海外」のそれぞれでどのようなERPパッケージが適切かを分析した。その結果、「国内の営業領域」と「事業会社の会計領域」に最適なERPとしてGRANDITを選定し、導入パートナーには商社への導入実績を豊富に持つ日商エレクトロニクスを選んだ。(単体会計領域は未定、海外は「SAP S/4HANA Cloud」で構築)
丸紅株式会社「GRANDIT」導入事例 詳細はこちら
化学品本部向け開発のノウハウをテンプレート化した「丸紅版GRANDIT」を開発
丸紅では、単体の素材産業グループ 化学品本部(以下、化学品本部)および食料・アグリグループ アグリ事業本部の営業領域と、化学品本部管下の事業会社である丸紅プラックス株式会社、及び丸紅ケミックス株式会社の各会計領域・営業領域にGRANDITを導入した。
今後丸紅では、2029年までに残りの単体8本部、国内事業会社18社にもGRANDIT導入を進める予定だ。そのため、今回の「化学品本部向けのGRANDIT」開発で得たノウハウをテンプレート化した「丸紅版GRANDIT」を開発することで、今後の展開を効率的に進めていくという。
寺井氏は、「『丸紅版GRANDIT』の開発により、SAP ECCからGRANDITへ移行する際の効率化による導入期間の短縮・費用削減、導入後のメンテナンス性強化などを実現します」とその目的を述べる。
「丸紅版GRANDIT」を共通機能とし固有機能は外に作ることでテスト効率化を実現
開発のスコープは主に次の4つあったという。1つ目は、保守性を向上するための開発手法の確立だ。従来は、双日テックイノベーションの案件ではパッケージ標準プログラムに変更を加えることが多かった。しかし、丸紅への導入では他案件と比較するとアドオンやカスタマイズが多い。その場合、導入後のパッチ適用やバージョンアップを実施する際に影響調査を行う範囲が広くなり、工数・期間が増加する要因となる。このためパッケージ標準プログラムは極力変更せず、別のレイヤーでアドオン、カスタマイズすることで、影響範囲を特定しやすくし、メンテナンス性の向上を図った。
さらに、グループ展開を行う場合、各営業本部・各事業会社が自由にアドオン開発を行うと固有プログラムが量産されることになり、結局、各本部・各社で個別にメンテナンスを行う必要がある。このため全グループで共通利用する丸紅版GRANDITのプログラム変更はできないようルール化し、各本部・各社だけが利用する固有機能はまた別のレイヤーで管理することとした。その結果、バージョンアップする際には1度だけ共通機能をテストすれば、その後は固有機能のアドオンだけ考慮すればいいことになる。
2つ目は、ソースコード解析ツールの導入。「化学品本部向けのGRANDIT」導入では、結合テストの課程で単体テストレベルのバグが発生していた。「丸紅版GRANDIT」の開発では、コード内のバグや脆弱性を発見する自動コードレビューツール「SonarQube」を導入し、後続プロジェクトでの品質向上が図られる。
3つ目は、ビルド・リリースの自動化だ。丸紅ではソースコードのライブラリ管理ツールを導入し、ビルドやリリースの自動化ツールを作成した。「化学品本部向けのGRANDIT」導入プロジェクトではAWSを活用し、複数環境を同時にテストするなど、効率的にプロジェクト推進していったが、その一方で手作業によるビルドやリリースを実施していたため、一部にはデグレードも発生してしまった。ビルド・リリースの自動化によってそうした手間や事故を防ぐことを期待しているという。
4つ目は、テストの自動化だ。単体テストを支援する「NUnit」を活用してテストの自動化を行うと同時に、オープンソースのカバレッジ計測ツール「OpenCppCoverage」を使ってカバレッジ100%を目指して単体テストを実施する。また、Webテスト用に構築されたJavaScriptライブラリ「Cypress」も導入し、シナリオテスト時の画面操作も自動化する。他本部展開の後続プロジェクトでも標準機能のテストシナリオが存在し、機能テスト及びシステムテストを容易に実行することが可能となる。そのため、プロジェクトではテストシナリオ作成時に個別ロジックに集中することができ、テストの抜け漏れを防ぐことができる。
また、不具合発生時の再テストも効率的に実施することができ、品質向上が図れるとともに不具合多発による遅延リスクを回避することができる。その結果、他本部展開における個々のプロジェクト期間の短縮化および工数の削減が実現し、全体プロジェクトのコスト削減が期待できる。
これらの施策を実現するためにはGRANDIT導入の最重要パートナーである双日テックイノベーションに協力を仰ぎ、共同で取り組む必要があった。「弊社にとっては展開と保守・運用の効率化を達成するメリットがありますが、双日テックイノベーションにとっても他のお客様へGRANDITを導入する際にそのノウハウが活かせることが期待できるので、お互いにWin-Winの取り組みになると確信しました」と寺井氏は振り返る。
丸紅株式会社 情報企画部 部長代理 新基幹システム推進課長 寺井 寛 氏
「丸紅版GRANDIT」の更なる拡大・展開
こうした工夫により、通常1~2年かけていたGRANDITの導入期間を半年~1年以内に短縮することを目指しているという。まずは、化学品本部に続く第二弾として機械3本部・食料本部等に適用し、そこでの効果が期待されている。比較的アドオンが多い事業会社にも適用することで、テストの自動化や省力化が進むと見ている。また、アドオンカスタマイズを必要とせず、標準導入を行う事業会社は動作確認の工数を劇的に削減することができ、プロジェクト期間の短縮化が可能となる。寺井氏は、「事業会社への展開を迅速化・省力化・低コスト化できれば、当初予定していた残り18社以外に、コストを理由にGRANDIT導入を諦めていた他の事業会社にも広く展開できる可能性もあるのではないかと考えています」という。
さらに、「丸紅版GRANDIT」導入後はメンテナンスも簡素化されるためバージョンアップも容易になり、費用の削減だけではなくGRANDITの利用期間の長期化も図れる。
一方、双日テックイノベーションでは、この「丸紅版GRANDIT」をベースにした商社業務アドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」を開発中である。今後丸紅と同様の悩みを抱えた企業にも広く提供していく計画だ。
商社業務アドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」詳細はこちら
それについて、寺井氏は肯定的に捉えている。「弊社は以前から、基幹システムを他商社との競争分野とは捉えておらず、積極的に情報共有するなど協力し合いながら効率化を進めるべき分野だと考えています。実は他商社とのシステム共同利用も視野に入れた取り組みも試みましたが、ビジネスの形態や業務の仕方が異なるためなかなかうまくいきませんでした。しかし今回『丸紅版GRANDIT』という柔軟性の高いシステムが、双日テックイノベーションの商社業務アドオンテンプレートとして他社にも活用されていけば、GRANDITの利用者が拡大していくことになり、パッケージとしても更なる進化が期待できます」(寺井氏)
「丸紅版GRANDIT」は、これから本格的な適用フェーズに入る。今後も基盤の標準化や移行の効率化など新たな仕組みや仕掛けも考えているため、さらに発展していく可能性も高い。 「『丸紅版GRANDIT』のスコープがこれほど拡大し、柔軟性を高められたのは、双日テックイノベーションが弊社とともに伴走し親身にサポートしてくれたおかげです。今後も双日テックイノベーションとは密接に協業しながら、直面する新たな課題も乗り越えて、Win-Winの関係を維持・継続していきたいと考えています」と寺井氏は想いを語る。
丸紅株式会社 情報企画部 部長代理 新基幹システム推進課長 寺井 寛 氏
※所属部署名、役職名は、取材当時のものです。