レガシーERP再生「リフト&シフト戦略」の本質はERPの技能継承

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第27回「レガシーERP再生「リフト&シフト戦略」の本質はERPの技能継承」を公開しました。

□はじめに

 前回は、レガシーERP再生の手段として「リフト&シフト戦略」という考え方についてご紹介しました。まず「リフト」ですが、これは既存のオンプレミス環境のERPシステムをクラウド環境(AWSやマイクロソフトAzureなどパブリッククラウド、プライベートクラウド)へ移行することで、保守運用に掛かるコストと作業を削減するとともに、経年で複雑化した周辺システムなどを統廃合して整理整頓してクラウドへ上げることを「シフト」と呼びます。この「シフト」を行ってから、既存ERPシステムの現状調査を行って次の「シフト」でERP再生を目指します。ここで目指すリニューアルしたERPシステムは、最新版ERPシステムにDXやAI/IoTといった競争力強化に効果がある新しいテクノロジーがERPにプラスされた次世代ERPです。この「シフト」と「リフト」の2ステップで、老朽化したレガシーERPシステムを革新する考え方を「リフト&シフト戦略」と称しています。「シフト」プロジェクトは、IT部門が主導する取組みですが、IT部門内でコントロールできる範囲で収めて10~15%程度のコストダウン/効率化が狙えます。また、「リフト」プロジェクトで既存ERPシステムの現状分析を行って、ERPリニューアルを経営層や事業部門に説明する調査レポートとすることが出来ます。さらに、この作業の企画/実行/調査報告を次期責任者や若手メンバーに任せることで、育成の場とするとともに未来志向でERPシステムをゼロベース検討する転換点となります。今回は、こうした取り組みによるERPの技能継承についてご説明いたします。

■レガシーERPシステムを再生するためにはIT部門の取組み姿勢が重要

 経済産業省の「DXレポート、2025年の崖」については、予想以上に反響が大きくIT業界のみならず、投資を行うファンドや金融業界、大手企業の事業企画部門などに関わる方々が高い関心を持っているようです。と云うのも、この「2025年の崖」というキーワードで、SAP関連では2025年末の保守期限切れをテーマに、製造業のIoT関連では製造業のサービス化を阻む足枷であるレガシーERPをテーマに、ファンドや機関投資家は企業毎の2025年対応状況について質問や相談や勉強会依頼が増えているからです。IoT関連では、特に日本企業の取り組み状況について海外から問い合わせが増えています。いずれにしても、ITバブル以来久しぶりに、基幹システムやIT部門に話題が集まる状況になっています。

 『2025年』というキーワードが設定されていますが、5年度にマイルストーンが置かれているのは絶妙だと思います。日本には2020年のオリンピック以降に、大きなイベントやターニングポイントがあるわけではありません。一応、「大阪万国博覧会:EXPO2025 Osaka-Kansai」と「5G通信網が日本全国をカバー」というものはありませんが、日本全体の景気やテーマとしては今ひとつ弱いと思います。しかし、海外では、中国がその主力政策として「中国製造2025:Made in China2025」を掲げて、グローバル市場で中国が製造強国となる具体的な目標を掲げています。ドイツ政府が掲げているインダストリー4.0のゴールは、2025年~2030年をターゲットとしています。米国は、中国や欧州に対してIT分野と金融分野の優位性を維持すべく関税で対抗しています。日本は、経済政策やテクノロジー政策など明確なビジョンが無く場当たり的な対応を繰り返しているように見えます。「2025年の崖」というテーマは、このまま惰性で進むリスクを示唆しているのかもしれません。いずれにしても、IT戦略の重要性は言うまでもありませんので生き残るためには積極的な取組みが必要なのは間違いないでしょう。ITが分からないとか苦手だというトップやマネジメントは、企業を率いる資格が無い時代ではないかと思います。IT部門やベンダに丸投げして、生き残れる時代ではありません。

(図表1、なぜ『2025年』なのか?)

 IT部門の業務の8割方が、老朽化したレガシーERPシステムの保守業務という企業は少ないのかもしれませんが、5割以上が古いシステムを維持するだけの保守業務というのは正常ではありません。AI/RPA/ブロックチェーンなどなど、新しいテクノロジーがこれだけ登場している訳ですからIT部門は積極的に取り組んで知識と経験を蓄積する必要があります。そういう視点からも、IT技術者のスキルアップと技能継承は重要なテーマです。この「リフト&シフト戦略」の真の狙いは、このIT技術者の育成強化にこそあります。

■攻めのITと守りのITの両方の知識とスキルを習得する「リフト&シフト戦略」とは

 ERPのリニューアルというテーマを軸として、「リフト&シフト戦略」でIT技術者の育成強化について考えたいと思います。育成強化すべきテーマは複数あります。まず20代~30代の若手・中堅のIT技術者は、既存ERPシステムの導入に携わっていないため既存ERPシステムの現状把握からはじめて、ERPリニューアルすべき機能や目指すべきERPシステムを描く必要があります。まず足りないのは、ERPシステムの維持管理の手間や作業負荷を減らすことです。AI/RPAを使えば、最小限のリソースと手間でERPシステムはもっと簡単に維持出来るはずです。複雑な処理や利用頻度の少ない機能は、業務プロセスとデジタル化でバッサリ削ぎ落とすべきでしょう。これによって、バックオフィス部門や事業部門のオペレーションを減らすことが可能となります。また、今後あらゆる領域で、大量のデータを収集・解析・活用するIoT時代を迎えることが予想されるためクラウド利用やデータ活用について積極的に取り組む必要があります。こうした技術は新しいテクノロジーですから、やはり若手・中堅のIT技術者が担当した方が好ましいと思います。

 40代~50代の熟練・成熟したIT技術者は、5年先、10年先に必要となる新しいテクノロジーの見極めと、既存システムをスリム化する取り組みの役割を担う必要があります。人間もシステムも時間が経つと確実に肥大化するため、脂肪や老廃物を捨てる必要があります。身軽になって体質改善したスリムなERPシステム再生が目指すべきゴールではないでしょうか。現代の2019年で求められるERPシステムのニーズは、既存ERPシステムを導入した10年以上前とは大きく異なります。この違いを明確にすることがポイントです。

(図表2、ERPに求められるニーズの変化2019)

 最後に「リフト&シフト戦略」におけるERPの技能継承で最も重要なことがあります。それは、パッケージベンダと最新のERP製品のトレンドを見定めることです。国内においてもERPシステムの普及率は7割を超えていると考えられますが、ERPに関わるベンダや製品はこの10年間で大きく様変わりしています。その一例として、ERPシステムの稼働環境がオンプレミスからクラウドへ急速にシフトしていることがあげられます。また、ERPを利用するユーザーが、従来の経理や購買といったバックオフィス担当者だけではなく、営業やマーケティング、物流や生産などほぼ全ての分野に利用者が広がっています。ERPシステムのデータは、PCで見るよりタブレットやモバイル端末で見る機会が多くなっています。つまり、ERPシステムの主要ユーザー数は、経営者や管理者よりもライン担当者の方が多くなっています。こうした時代の変化を踏まえた、次世代ERPのトレンドをベンダごと製品ごとに見定める必要があります。この見極めはIT部門だけではなく、事業部門も巻き込んで取り組むべきテーマです。

 我々が取り組むべきERPリニューアル(再生)のポイントは以下の通りです。

①IT技術者のスキルや経験をリニューアルする
②IT部門の業務内容とノウハウをリニューアルする
③複雑化、肥大化したERPシステムをスリム化してリニューアルする
④最新トレンドを踏まえてベンダとERP製品の情報をリニューアルする
⑤ERPシステムを利用しているユーザーの傾向をリニューアルする

 ERPシステムが登場して既に30年近くなりますが、その間にERPシステムは少しずつ進化しています。上記のポイントを踏まえて、この進化を辿って行けば「2025年の崖」を乗り越えるのは難しいことではないように思います。

(図表3,ERPシステムの進化:ERPシステム企業経営のエコシステム)

◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より

鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第27 回「レガシーERP再生「リフト&シフト戦略」はいかがでしたでしょうか?レガシーERPの再生には、ユーザとベンダーと製品のリニューアルが必要とのことでしたが、まさにその通りと感じています。全てのベンダーをリニューアルする必要はないと思いますが、細心のノウハウを持っていなければ、そこも変えるべきと思います。結局、全体的に新しい知見での望まないと難しいですよね。さて、このコラムを掲載いただいている日商エレクトロニクスは商社分野とIT会社の分野においては国内トップクラスのERPのノウハウを持っています。具体的な話については実績豊富な日商エレクトロニクスのコンサルタントにご相談ください。良い提案ができると思います。

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このコラムを連載いただいている日商エレクトロニクスでは先駆者としてRPAの自社導入にも取り組んでおり、経営企画部、財務経理部、人事総務部の3部門でRPAをGRANDITE連携で導入し、ROI 590%と770万円のリターンを実現しています。そして成功事例の分析資料も以下のセミナーレポート内で公開しています。興味がある方は是非ダウンロードください。こちらにはガイドライン的なものも書かれています。

【レポート】ERP勉強会 次世代ERPに求められる条件
https://erp-jirei.jp/2018/03/23/semi-35/

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