業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第22回:令和元年!クラウドERP最新トレンド2019 を公開しました。
□はじめに
国内のERP市場に、目に見える変化が出てきています。個別のベンダや製品ごとの動きは、常に変わり続けていますが、今回の変化は市場構造が変わるような大きな潮流になるかもしれないと感じています。経済産業省の研究会で、「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」という会合があります。その中間とりまとめが、公表されています。「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」というのがあります。このDXレポートでは、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を阻んでいるのは、老朽化した基幹システムによるものでその経済的損失は2025年以降で毎年12兆円と試算される!という衝撃的な内容です。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html)
そのサマリーには、DXの推進に向けた対応策について現状の5つの課題が書かれています。
- A)既存システムの問題点を把握し、いかに克服していくか、経営層が描き切れていないおそれ
- B)既存システム刷新に際し、各関係者が果たすべき役割を担えていないおそれ
- C)既存システムの刷新は、長期間にわたり、大きなコストがかかり、経営者にとってリスクもあり
- D)ユーザ企業とベンダ企業の新たな関係の構築が必要
- E)DX人材の不足
いろいろなメディアが、このDXレポート「2025年の崖」について取り上げた記事が出ているので、読者の皆様も目にしたことがあると思います。さて、ビジネス環境の変化やこうした経済産業省からの動きも絡んで、今回から3回ほどあらためて「ERP再生計画、クラウドERPバージョン2.0」をお伝えいたします。
■国内ERP市場最新トレンド2019についての考察
ERP市場最新トレンドについて、まずはニーズの変化から紐解いていきたいと思います。ここ最近における国内ERP市場のトレンドは5つあげることができます。
- 1)グループ経営の情報インフラシステムとしてのERP
- 2)ガバナンス強化と経営目的に合わせたERPの使い分け(2階層ERP)
- 3)ウェブ親和性、柔軟性の高いハイブリッド型ERP(ハイブリッド型ERP)
- 4)低価格高機能な業種特化型ERP、疎結合での逐次導入も可能(レゴブロック型ERP)
- 5)守りのERPから攻めのERPへ「ERP+」で個別サービス化
以上、5つがテーマです。これの5つを、それぞれご説明しましょう。
「グループ経営の情報インフラシステム」とは、かつて1つの企業の部門間を統合して経営情報をタイムリーに入手する目的から、最近ではグループ企業を束ねる仕組みとしてERPをグループ展開するところが増えています。また、その内容も会計中心から、会計とロジスティクス(販売と購買、生産や物流など)と範囲が広がっています。ヒト・モノ・カネのカネ(お金)に関わるところだけではなく、人(グループ人材)やモノ(設備やその稼働状況)といった経営リソースを幅広く見える化(可視化)するベースにERPを利用するケースが増えています。グループ偉業が等しくERPを使うことで、同じレベルの情報を簡単に入手できるメリットに注目した活用です。
「ガバナンス強化と経営目的に合わせたERPの使い分け」(2階層ERP)とは、グループを統括する親会社を1階層目として信頼性の高い安定したERPを配置して(ERPパッケージをIaaSで導入)、俊敏で機動力が求められる成長事業会社は2階層目にシンプルで親会社がコントロールしやすくコストと運用をリモートでも行うことができるクラウドERP(SaaS型ERPを導入して利用ユーザ数を増減する)を利用する仕組みです。最近急速に増えている、新しいグループ経営におけるERPの使い方です。2階層目の事業状況を、親会社がタイムリーに把握できるためガバナンス強化に大きなメリットがあります。
「ウェブ親和性、柔軟性の高いハイブリッド型ERP」(ハイブリッド型ERP)とは、ERPの統合マスタ、統合データベースを中心として、ここに疎結合でウェブサービスを連携して不足機能を補完する仕組みです。サプライチェーンや調達、物流などはウェブサービスを使って、これとERPをWebAPIで連携することで、モノの動きをタイムリーに把握できるようになります。欧米では、既にeMXLによる情報連携が一般的になっています。
「低価格高機能な業種特化ERP、疎結合での逐次導入も可能」(レゴブロック型ERP)とは、最近外資系ベンダなどで増えているクラウドERP(SaaS)に、PaaSで開発した業種機能や個別機能を複数組み合わせて利用するERPの使い方です。高機能で幅広い業種に対応する汎用型ERPを長期にカスタマイズして導入よりも、機能がシンプルなERPにクラウド基盤に短期間で開発した部品(サービス)を組み合わせて必要な機能を実現するやり方です。レゴブロックのように、機能1つ1つは小さいため開発も導入もコストも安くなります。欲しい機能が見つからない場合は、その機能だけ個別開発すれば良いので開発リスクも抑えられます。かつてウェブの世界で、サービス同士を組み合わせるマッシュアップ呼ばれるやり方がありましたがそれと考え方は同じです。
「守りのERPから攻めのERPへ“ERP+”で個別サービス化」とは、ERPを構成しているモジュールそれぞれの機能を利用して、顧客サービスの仕組みを作って事業活動や顧客サービスに利用することです。例えば、ERPにある設備管理機能と販売管理機能を再利用して、販売した設備や機器にIoT機能を付けて常時監視機能をアフターサービスとして提供するような仕組みです。従来ならば、設備や機器の稼働情報から契約管理、会計機能などまで一緒に開発していましたが、ERPの中に同等の機能があれば、それを全て利用して開発するのは設備や機器をつなぐ「IoT機能とその可視化(ダッシュボードやモニタリング機能をタブレットやスマートフォンで見る)のみ」に絞り込めば短期開発が可能で、多数のサービスメニューを揃えることができます。これは、お客様向けサービスとしてサブスクリプション(定額契約)や重量課金で売上をあげることが可能となります。従来のERPは、生産性向上や効率化、コスト削減など守りのITが目的でしたが、このERPの使い方は売上と顧客満足度を上げる攻めのITが狙いです。IoTやDX、AIやVR、ブロックチェーンなどプラスするテクノロジーによってさまざまな応用が可能です。
■急拡大するクラウドERPの理由とは
基幹システムをクラウドに上げるのは、最近ではごく当たり前の取り組みです。保険や金融サービス、銀行、旅行会社など既にクラウドは幅広く利用されています。クラウドERPの普及も急速に拡大していて、オンプレミスのERPをIaaS型でクラウド基盤へ持ち上げることで、保守運用を楽にして、BCP対策を強化することなどが可能です。さらに、巨大な基幹システムでも、クラウド上に上げてしまえば機能単位で切り分けて、それぞれ改修したり他システムと連携したりするなどの作業もサーバ調達やメモリーの制約などが無くなるので簡単に出来ます。このやり方は、クラウドに持ち上げて、さらに横に展開するようなイメージであるため“リフト・アンド・シフト”と呼ばれたりします。大規模システムの移行作業や、複雑な機能を整理統合するのに向いています。当然ERP市場でも、大企業が最近積極的に取り組んでいる手法です。
市場調査会社のITRが2019年4月に発表したERP市場の調査レポートを見ると、国内ERP市場は2017年度で884億円(前年比9.4%増)で、そのなかのSaaS型ERPは190億円(前年比38.7%増)と急拡大しており、IaaS型ERPも178億円(前年比81.2%増)とクラウドERPが拡大しています。ITRでは、2022年度にはクラウドERPが9割を占めると予測しています。
このようなデータは、ERP市場が大きく変わっていく転換期に入ったことを実感する裏付けとなります。クラウドに対する考え方が変わり、どの産業でも幅広く利用が進んでいます。これは、価格が安く手軽に利用できるからというだけではなく、人手不足や働き方改革など労働力を少しでも減らす目的もあると思われます。熟練したIT技術者やプロマネを集めることが難しいため、その代案としてコンパクトで短期導入可能なSaaS型ERPを導入したり、既存のオンプレミスERPをクラウド基盤へ持ち上げて運用を軽くしたりする取り組みが進んでいると思われます。さて次回は、最新クラウドERP成功の秘訣についてご紹介いたします。
◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より
鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第22回「令和元年!クラウドERP最新トレンド2019」はいかがでしたでしょうか?印象に残ったのはクラウドERPの市場シェアの推移です。2018年のクラウドERPのシェアは市場の約半分になっています。この集計は売上金額での集計になります。クラウドERPは月額払いに比重が置かれているライセンスモデルになりますので、社数やサーバ台数で計算すると、もっとクラウドERPのシェアが多いことが推測できます。普及しているソリューションには必ず理由があります。その理由が貴社にとってメリットのあるものなのかを是非ご検討ください。日商エレクトロニクスはGRANDITをクラウドで提供できます。興味がある方は日商エレクトロニクスのコンサルタントにご相談ください。良い提案ができると思います。
資料ダウンロード
このコラムを連載いただいている日商エレクトロニクスでは先駆者としてRPAの自社導入にも取り組んでおり、経営企画部、財務経理部、人事総務部の3部門でRPAをGRANDITE連携で導入し、ROI 590%と770万円のリターンを実現しています。そして成功事例の分析資料も以下のセミナーレポート内で公開しています。興味がある方は是非ダウンロードください。こちらにはガイドライン的なものも書かれています。
【レポート】ERP勉強会 次世代ERPに求められる条件
https://erp-jirei.jp/2018/03/23/semi-35/