レガシーERP再生の秘策は「リフト&シフト戦略」によるクラウドERP

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第26回:レガシーERP再生の秘策は「リフト&シフト戦略」によるクラウドERP を公開しました。

□はじめに

 前回は、これからのERPには『クラウドとデジタル』への対応が必要というお話をしました。今回は、レガシーERP再生についてもう少し具体的な進め方についてご紹介したいと思います。従来のオンプレミスでERPシステムを利用する企業は今後減少して、2020年度以降は新規ERP導入の半数以上がクラウドERPシステムを導入すると予想されています。クラウドERPには、以前このコラムでERPのクラウド化についてご紹介した通り(第22回)、SaaS型とIaaS型の2つのやり方があります。市場環境が激変することが予想されるこれからを生き残るためには、クラウドERPを利用してDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル変革)をスピーディーに実現する必要があります。その秘策となり得る考え方が、「リフト&シフト戦略」です。

■オンプレミスのレガシーERPをクラウドに「リフト」する取り組み

 老朽化したレガシーERP(基幹システム)を再生して『クラウドとデジタル』対応を実現するためには、ERPシステムをクラウド基盤に「リフト」してから、DXへ進む「シフト」して新しい機能の拡張や強化をする必要があります。まず、オンプレミスのERPを、クラウドへシステムを持ち上げる“リフトする”ことをまず考えます。このプロジェクトを実行するタイミングは、オンプレミスERPのサーバー契約更新タイミングが良いと思います。一般的に、サーバーの契約更新は5年毎が多いと思われますが、このタイミングでインフラをオンプレミスからクラウドへ移行すると重複期間が最小限となります。クラウドに「リフト」するメリットは、①インフラの維持管理コストと保守作業を削減できること、②費用対効果が分かりやすく情報システム部門でプロジェクトをコントロールできること、③クラウドへの移行プロジェクトを通じてERPの現状調査とERPの技能継承ができること、と言った3つのメリットがあります。単純比較は難しいのですが、既存ERPシステムをオンプレミスからクラウドへ移行するだけで10%~30%程度の維持管理コスト削減やERPに関わる作業負荷を減らすことが可能です。

前述した通り、ERPシステムをクラウドへ移行する方法はSaaS型とIaaS型の2つに分かれます。SaaS型の場合は、ベンダが提供する新しい環境に設定や機能を整えて、主に中身を移行するERP乗換えプロジェクトを行うことになります。SaaS型で提供されるERPシステムは自動的にバージョンアップされる仕様なので、原則アドオンやカスタマイズは出来ません。ERPの標準機能をそのまま利用します。不足機能については、対象外としてスコープから外すか、あるいはERPの外にWebアプリや連携システムとしてマイクロサービス(マイクロERPとも呼ぶ)を作って不足機能を補完します。IaaS型のERPシステムをクラウド基盤で稼働させる場合には、既存ERPをほぼそのままIaaSへ移行することも可能です。IaaS基盤は、AWSやマイクロソフトAzureなどパブリッククラウドやNTTグループ各社、IIJなど通信系や大手ITベンダなどが提供するプライベートクラウド、自社グループで独自構築したプライベートクラウドなどが利用出来ます。このIaaS型の場合は、パッケージ版ERPをクラウド基盤上で稼働させるやり方なので、従来通りのアドオンやカスタマイズを同様に行うことが可能です。SaaS型とIaaS型で、メリット/デメリットが違うため目的や用途に合わせて選択できます。最近の傾向では、企業グループ全体をカバーする親会社やホールディングスは、安定性と継続性を重視してIaaS型クラウドERPを選んで、そのグループ子会社や海外拠点、関連企業などはSaaS型クラウドERPを選択してこれを連携する二層型ERP(2Tier-ERP)の導入が今後増えて行くと予想されます。IaaS型とSaaS型のクラウドERPを、用途や目的に合わせて使い分けます。

(図表1、クラウドERPにおける2階層ERPの使い分け)

■ERPをクラウドに「リフト」してから「シフト」を考える

 とりあえず既存ERPをそのままクラウドへ「リフト」するだけでも、コスト削減と要員リソースは削減できます。このクラウドへの「リフト」プロジェクトを通じて、現状ERPシステムの調査と技能継承(ノウハウ継承)を行うだけでも、それなりの効果を得ることが出来ます。周辺システムの整理や統廃合をすれば、財務会計と管理会計など業績管理システムとしてこのあと5~10年は必要最小限の経営管理システムとして使えると思います。しかし、欧米や中国企業はIoTやAI、DX対応などは事業強化や新規ビジネスによる競争力を高めるデジタル化を加速しています。国内市場が主戦場となる業種や企業ならば「クラウド・リフト」だけでもERPシステムを延命することは可能だと思われます。しかし、老朽化したERPは競争力を強化するための基幹システムとして十分ではないかもしれません。これが、経済産業省がDXレポートを作成して老朽化したERPを使い続けるリスクに言及している理由です。事実トヨタ自動車など自動車産業や機械業界、総合商社など流通業ではERPシステムの刷新プロジェクトが多数進められています。

 IoTやAI、DX対応による競争力の強化とは、デジタル化によって業務プロセスをロボットやAIで自動化して処理スピードを高速に処理しつつそのオペレーションコストを大幅に下げることが出来ます。例えば、物流業務のロボット化や自動化は人手不足を解消するとともに物流コスト削減だけではなく、物流サービスの向上によって顧客満足度も高めることが出来ます。アマゾンやアスクル、ヨドバシカメラなどの強みは、この物流業務のシステム化、デジタル化にあると言われています。また、建設機械大手のコマツが取り組んでいるIoTプラットフォームのLANDLOG(ランドログ、コマツ、NTTドコモ、オプティムとSAPジャパンの4社が合弁会社を設立、https://www.landlog.info/)は、建設業界に特化した新しいサービス提供を50社以上のパートナー企業と進めています。LANDLOG上の各種アプリケーションを利用すれば、自前でシステムを持たなくても工事現場の進捗管理や作業に必要となる器材や作業者手配を支援するサービスなどアプリを使って利用出来ます。こうしたデジタル化は、作業の最適化や顧客サービスの向上に効果があるため、ERPと連携することで高い効果が期待できます。設備機器を製造しているあるメーカーでは、型落ちした機器や不良や中古などはこれまで売れない在庫として処理していました。しかし、これを貸し出すサービスを新しく始めて機器の稼働実績ベースで利用料を支払うビジネスモデルを考えたところ、既存顧客が季節変動や一時利用したいニーズに利用されたり、他社製品を利用している企業が比較や試用を目的として利用するケースが広がったりして売上や販路拡大に大きく貢献したそうです。このシステムは、ERPシステムの機能を利用しながら足りない機能や顧客向けのモバイル(タブレットやスマートフォンのアプリ)向けアプリに絞ってシステム開発に成功したと聞いています。使われていなかったERPの機能やAPI連携をすることで、短期間での構築が可能だったとのことです。こうした他システム連携や、モバイル連携などに対応するためにはオンプレミス型ERPよりもクラウドERPの方が向いています。ERPを拡張、強化する使い方こそERPの「シフト」戦略だと言えます。オンプレミス型ERPを見直して、ERPをクラウドへ「リフト」してから、機能の拡張、強化する「シフト」を行う2段の取り組みならば費用とリソースを抑えつつ着実な効果を狙うことが出来ると思います。

(図表2、“リフト&シフト戦略”によるERPリニューアル)

◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より

鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第26 回「レガシーERP再生の秘策は「リフト&シフト戦略」によるクラウドERP」はいかがでしたでしょうか?考えてみれば、クラウド化とリニューアルの両方を同時にするのは結構大変で、しかも、リニューアルのタイミングはいつでもいいというわけではないですよね。そう考えると 「リフト&シフト戦略」 は極めて現実的なDX推進の方法だと思います。このタイミングと進め方はお客様の状況に極めて依存します。具体的な話については実績豊富な日商エレクトロニクスのコンサルタントにご相談ください。良い提案ができると思います。

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このコラムを連載いただいている日商エレクトロニクスでは先駆者としてRPAの自社導入にも取り組んでおり、経営企画部、財務経理部、人事総務部の3部門でRPAをGRANDITE連携で導入し、ROI 590%と770万円のリターンを実現しています。そして成功事例の分析資料も以下のセミナーレポート内で公開しています。興味がある方は是非ダウンロードください。こちらにはガイドライン的なものも書かれています。

【レポート】ERP勉強会 次世代ERPに求められる条件
https://erp-jirei.jp/2018/03/23/semi-35/

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