自社のシステムをオンプレミスERPからクラウドERPに移行するかどうかは、当たり前だが、その会社の自由だ。諸事情があってオンプレミスERPを使い続ける会社もあるだろう。その諸事情は私は知らないし、そういう判断があっても尊重する。ただ、四半世紀以上IT業界でマーケティングの仕事をしてきた経験から、オンプレミスという言葉が死語になると思っている。
理由はオンプレミスがクラウドより勝っている点がなくなるのも時間の問題だと思うからだ。オンプレミスのサーバシステムがクラウドに移行しない理由は何だろうか。主な理由を以下に上げてみる。
A)セキュリティに不安があるから
B)コストが高いから
C)ソフトウェアがクラウド上でのライセンスに対応していないから
D)手間がかかるから
細かいことを上げれば他にもあるかもしれないが、おおよそこんなところだろう。
Aについてはクラウド上のほうが安全という時代になりつつある。銀行の勘定系がクラウドに移行する時代だ。今の最新のセキュリティを施せば、十分要件を満たすセキュリティになるはずだ。人が作ったものは人が壊せる。セキュリティに100%はない。オンプレミスもクラウドでもだ。クラウドでも銀行の勘定システムを運営できるレベルのセキュリティとパフォーマンスを確保できる時代になったということだ。むしろ、物理的な盗難というリスクや、災害対策を考えればクラウドのほうがメリットが大きい。
Bについては、規模のビジネスであるクラウドは市場規模とサービス単価が反比例する。クラウドのサービス単価は調べるまでもなく、年々下がっている。事実AWSに至っては40回以上も値下げをしている。競争原理も働いている。
Cについてもサーバの半分以上がクラウドにある時代になり、国内クラウド市場規模は年々上昇し2018年には1.9兆円になった。この市場規模感において、ソフトウェアのライセンスがクラウド対応しないという手はない。こちらも時間の問題だ。
一言でいえば、市場の過半数以上を取り、年々拡大しているクラウドを採用しないという理由は規模の拡大とともになくなっていき、特殊用途を除き、大半のサーバがクラウドに移行するのではないかと思っている。前半部分で長々と当たり前のことを書いてしまったが、多くの人が同じように思っているはずだ。
DについてはERPに特に多そうな話だ。オンプレミスのままがよいという理由はいくらでも作れるのかもしれないが、どちらかというと「苦労するので、いじりたくない」や「全体を把握している人がいない」とか「今のままで特に問題がないから」とかそういう理由が本音だったりしないだろうか。でも、そのままのシステムをいつまで使い続けられると思っているのだろうか。まさにつぎはぎで肥大化していったシステムを使い続けることもできるとは思うが、システムが絶命した時に、大きな負担が待っているような気がする。
ERPはそれなりの予算がかかるので、リプレイスするのも使い続けるのも経営判断だと思う。ただ、システム担当としては節目に、リプレイス案を経営陣に見せるのが義務だと思う。Windows Server 2008 EOSの問題があり、クラウドへの移行キャンペーンもあるこのタイミングで、経営陣に提案するのは良いタイミングである。現場管理職の大きな義務の一つは経営陣への選択肢の提示で、経営者の責任はその判断だと思っている。
さて、後半ではクラウドの話をする。今、クラウド市場では半分をAWSが占めている。まさに今AWSが全盛なのである。ただ、全盛と書いている通り、今後はAWS一強ではなくなる。
以下のガートナーのデータを見てほしい。
Worldwide IaaS Public Cloud Services Market Share, 2016-2017 (Millions of U.S. Dollars)
Company | 2017 Revenue | 2017 Market Share (%) | 2016 Revenue | 2016 Market Share (%) | 2017-2016 Growth (%) |
Amazon | 12,221 | 51.8 | 9,775 | 53.7 | 25.0 |
Microsoft | 3,130 | 13.3 | 1,579 | 8.7 | 98.2 |
Alibaba | 1,091 | 4.6 | 670 | 3.7 | 62.7 |
780 | 3.3 | 500 | 2.7 | 56.0 | |
IBM | 457 | 1.9 | 297 | 1.6 | 53.9 |
Others | 5,902 | 25.0 | 5,392 | 29.6 | 9.5 |
Total | 23,580 | 100.0 | 18,213 | 100.0 | 29.5 |
Source: Gartner (August 2018)
引用:Gartner Says Worldwide IaaS Public Cloud Services Market Grew 29.5 Percent in 2017
https://www.gartner.com/newsroom/id/3884500
上記のシェアを見ると、トップシェアは51.8%のAWSである。2位がMicrosoft Azureで13.3%だ。大差がついているように見えるが、重要なのはそこではない。見ていただきたいのは、AWSとMicrosoft Azureの成長率だ。AWSの成長率が25%に対して、Microsoft Azureは98%の成長率になっている。そして市場の成長率が29.5%である。AWSが市場の成長率を下回ったことになった。実はAWSの成長率は年々下降している。一方Microsoft Azureは年々上昇し、ついに、成長率98%となった。
AWSの業績発表を見ると、売り上げが前年比で大きく伸びたと発表している。企業業績で言えば、25%の売り上げ増は大きな増加だ。それ自体は間違いではない。しかし、トップランナーであるサービスが市場成長を下回った時、それはトップランナーの陰りが見えたことを指している。今回の成長率がそのまま続くと以下のような表になる可能性がある。
2016-2017成長率 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
AWS | 25% | 12,221 | 15,276 | 19,095 | 23,869 |
Microsoft Azure | 98% | 3,130 | 6,197 | 12,271 | 24,296 |
この表はガートナーが作成したわけではなく、私が今の成長率を維持した場合の仮定を書いたものである。もし、このまま成長が続くと2020年にはAzureとAWSが逆転することになるのだ。
そして、このガートナーの調査データから1年がたち、別の調査データが出てきた。
リソースが違うデータを比べてはいけないのだが、やはり、AWSの成長率は市場成長率と同じだった。AWSのシェアは伸びていない。(売上は前年比で伸びているが、成長率が平均だということ)そしてAzureは70%伸びている。ここで言えるのは、私の予想通りAWSとAzureの二強になる傾向にあるということだ。
そして、ユーザはクラウドが欲しいわけではない。ユーザが欲しいのはソフトウェアであり、サービスなのだ。ユーザはそこに対価を払うはずだ。つまり今後伸びるのはSaaSなのだ。IaaS、PaaSで勝利したAWSは、このままいけばソフトウェア、SaaSに強いマイクロソフトに必ず負けるのだ。シェアが逆転すれば、投資規模が大きいのは勝者であるマイクロソフトのクラウドなのだ。10年も経てばマイクロソフトの圧勝なるはずだ。
と、私は思うが、皆さんはどうだろうか。