業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第10回「フィンテックとERPの連携への期待」を公開しました。
□はじめに
2018年3月期の企業業績は過去10年間で最も好調となり、上場企業では過去最高益となる企業も多いようです。企業業績が良くなると、これに対応してその翌年度のIT投資は確実に増加します。2018年1月末に、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が発表した「企業IT動向調査2018」の速報では、企業IT予算の増加が予想されています。ERP市場も活況で、昨年から技術者の人手不足が続いています。AIやIoTなど新しいテクノロジーに対する関心も高く、IT業界の人手不足は今後も続くと予想されています。しかし、金融業界向けのITについては、みずほ銀行の新しい勘定系システム完成によってその開発に携わっていた技術者が不要になることとAIやRPAなどによってコールセンターや窓口業務の人員が不要になると言われています。金融業界の構造が大きく変わりつつあります。その中で注目されているのが、Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた「ICTを駆使した革新的かつ破壊的な金融商品・サービスの潮流として、“フィンテック(FinTech)”です。フィンテックとERPは、お金に絡む技術という点で接点があることと、ブロックチェーンや顧客情報管理といった要素技術の応用から実は大きな可能性があります。
■フィンテックには、どのようなものがあるのか?
フィンテックと言うと、多くの人がイメージするのは“ブロックチェーン”という言葉ではないでしょうか。ブロックチェーンとは、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨のコアテクノロジーとして使われている技術で、「分散型台帳技術」と呼ばれる技術です。その内容についてここでは詳しく説明しませんが、従来の銀行システムでは膨大なデータを処理する取引台帳を1つの巨大なサーバで処理するのではなく、ネットワーク上の複数サーバに分散して処理する技術です。これによって、銀行システムのコストが劇的に下がると言われています。しかし、仮想通貨機能のブロックチェーン以外にも、決済機能の電子マネー、海外送金機能、スマートフォンなどによるP2P送金機能、シェアリングやクラウドファンディング、AIなどを使った投資サービス提供、履歴データから個人ごとの嗜好に合わせた消費誘導サービスなどお金に関連するあらゆるテクノロジーがこのカテゴリーに入っています。身近なところでは、Amazonや楽天と言った日常良く利用するEC(電子商取引)で、個人ごとに推奨する商品やサービスが違っているのはご存知の通りです。こうした機能もブラウザのクッキーと購入履歴データを利用したフィンテックのひとつです。経済産業省では、フィンテックが経済活動に及ぼす影響や課題など総合的な報告・提言として「FinTechビジョン」を取りまとめて公開しています。
(http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170508001/20170508001.html)
スマートフォンが普及し、ネットワーク上で個人の行動や購買データが容易に取得できることから小売業では、店舗展開に強みを持つスーパーマーケットや量販店が苦戦し、ネット中心のAmazonやアリババなどが高成長を続けています。企業間の取引において送金・決済、企業会計・資金調達など今後幅広く活用されていくことが期待されています。
■ERPとフィンテックの連携による期待
さて、ERPシステムは企業の業務管理や業績管理を行う仕組みです。フィンテックとの連携は、企業間の送金・決済がその中心となります。「FinTechビジョン」の概要資料(頁13~15)に記述されている通り、中小企業における事業用オンラインバンキングの口座利用率は、40.8%と低い普及率です。フィンテック活用によって、債権債務をリアルタイムで管理して企業間取引と信用の効率化を実現することが可能となります。ERPシステムと連携することによって、「回収も支払いも早く」なりサプライチェーン全体の資金循環(資金効率化)を最適化することが出来ます。企業の経理業務におけるメリットとして、債権債務のリアルタイム管理は、債権債務管理(入金消し込みなどの煩雑なバックオフィス業務)なども効率的処理を実現することに繋がります。多くの企業では、債権債務管理において不整合が生じた場合には、経理担当者が取引ひとつひとつを紐解いて目視で内容確認しています。毎月生じる入金消し込み業務は、非効率で作業負荷が高い作業です。こうした作業を効率化するためには、ERPシステムと銀行側のデータ(CMS:キャッシュマネジメントシステム)との連携が欠かせません。さらに、こうしたデータが蓄積されることによって企業会計の信頼性が向上すれば、資金調達の手間やコストを減らすことにも繋がります。
フィンテックと言うと、仮想通貨や特殊なサービスというイメージを思い描きやすいのですが、企業間取引においてはオンラインバンキングや債権債務のリアルタイム管理による資金管理業務の効率化と言った即効性の高い効果が期待できます。中小企業におけるフィンテック活用は、以下の4つの方向性で取り組みが進んでいます。(「FinTechビジョン」概要資料頁20より)
1.バックオフィスのクラウド化推進
2.FinTechの活用方法と効果の理解促進
3.法人のインターネット・バンキング技利用の推進
4.金融と商流のEDI接続の推進
これを実現するためには、ERPとの連携によって実現することが出来ます。さらに、ブロックチェーン技術やクラウドファンディングなど新しいテクノロジーを使ったビジネスチャンスへ広がっていきます。
□次回の内容
今回はフィンテックのイメージを、身近なサービスとして出来るだけ分かりやすく簡単にご紹介しました。次回は、ブロックチェーン技術など新しいテクノロジーとしての可能性を、ERPとフィンテックの連携によるソリューションでご紹介いたします。
◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より
鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第10回「フィンテックとERPの連携への期待」はいかがでしたでしょうか?
企業間取引におけるフィンテックはオンラインバンキングや債権債務のリアルタイム管理による資金管理業務の効率化と言った即効性の高い効果が期待できるお話になります。中堅企業の方にとってもERPの導入とセットで考えていただくと、資金管理業務の効率化が期待できるため、是非ご注目いただきたいです。特に日商エレクトロニクスが提供するGRANDITはクラウドベースでの提供もできるため、より初期コストを抑えた導入ができます。興味がある方は以下のページをご覧ください。