次世代ERPにAIが組込まれるとどんな効果が期待出来るのか

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第8回「次世代ERPにAIが組込まれるとどんな効果が期待出来るのか」を公開しました。

□はじめに

本コラムではERPの再生をテーマにして、様々な切り口で話を進めてきました。

“いまさらERP”などという話もありますが、クラウドやIoTなどといった新しいテクノロジーとERPは意外に連携して新しいソリューションや効果を生みだしつつあります。そのなかでもAIは特に注目されていますが、実はイメージと現実には大きな乖離があります。今回は、AIの現実について整理したうえで、AIのどのような機能がERPと連携するのかをご紹介したいと思います。

■AIの現実と実用化されるサービスについて

AIについて、読者のみなさまはどのようなイメージを持っているでしょうか。

総務省が作成している平成28年度の「情報通信白書(ページ233図表4-2-1-3)」には、人工知能(AI)イメージの日米比較が紹介されています。日米で人工知能に対するイメージが同じだったのは「コンピュータが人間のように、聞いたり、話したりする技術(日本35.6% vs 米国36.9%)」という回答だけです。実は日本と米国では、AIに対するイメージにギャップがあります。日本の方が米国よりもYesと回答している比率が高いのは「コンピュータに自我(感情)をもたせる技術(日本27.4% vs 米国19.7%)」、「人間の脳の仕組みと同じ仕組みを実現する技術(日本19.3% vs 米国14.8%)」です。逆に米国の方がYesと回答しているのは「人間の脳の認知・判断などの機能を、人間の脳の仕組みとは異なる仕組みで実現する技術(日本26.3% vs 米国42.3%)」、「学習や推論、判断などにより、新たな知識を得る技術(日本20.2% vs 米国33.9%)」などです。日本は、AIに人間的なイメージを重ねていますが、米国は人間とは異なる仕組みで人間を超越した存在というイメージがあるようです。事実、米国の科学者やメディアはAIやロボットの進化に脅威を感じる意見が数多く見られます。日本でも、AIが現在の仕事を奪いかねないという意見もあるのですが概ねAIやロボットは擬人化されています。もしかすると、その理由はアトムやドラえもんなどアニメ文化に慣れ親しんでいる日本人と、ターミネーターやスカイネットが人間を支配するハリウッド文化の違いなのかもしれません。

さて現実のAIですが、IBM Watson導入によるみずほ銀行のコールセンター業務支援システム構築やテスラなど自動車メーカーが開発を進めている自動運転自動車などがAI技術の最先端です。つまり日米が同じイメージを持つ「コンピュータが人間のように、聞いたり、話したりする技術」ではありません。個別の領域に特化して能力を発揮するAIを「特化型人工知能」と言います。現実のAIは、画像認識(自動運転や顔認証など)、音声認識(自動筆記や文脈解析など)、対話応答(会話や翻訳など)、数値解析(統計処理やシミュレーションなど)などそれぞれ異なる機能です。しかし、その裏側にある技術には、機械学習や深層学習などと言った人工知能研究で開発された仕組みが使われています。まだ1つの仕組み(脳/システム)で汎用的な能力を実現できませんが、将来AI技術が進んで、人間のようにひとつの脳でいろいろな能力を持つ「汎用型人工知能」がいずれ登場すると予想されています。それまでには、まだ20年以上の時間が掛かると言われています。(2045年問題、シンギュラリティなど)

画像認識、音声処理、対話応答などのAI機能は、これまで人間が作業していたオペレーション作業を効率化/支援することができます。自動運転自動車は、画像認識機能を中心として安全に車両を目的地へ誘導し、不測の事態が生じると安全最優先で即座に減速や回避を行います。コールセンターでは、問合せ電話の会話を音声応答して速やかに相談や問題への対処を促します。数値解析は、人間では対応できないような膨大なデータを即時に集計分析して答を見つけます。最近では、ガン患者の検査データから最も効果が高いと予想される抗癌剤を検索、患者ひとりひとりの体質や状態ごとに治療方法を提案するといった研究が行われています。ポイントは、膨大な特定のデータを解析してこれをベースに対処を予測する。さらに、そのフィードバックを行って予測精度を高めていくという仕組みです。ディープラーニング(深層学習)という技術を使って、人間が正しい答(教示データ)を与えなくても、AIが自律的に判断精度を高めていくことができます。(強いAI)

■次世代ERPに搭載されるAIとその効果

次世代ERPには、こうした各種AI機能が搭載されていくことは確実でしょう。

外資系ベンダの次世代ERP開発ロードマップには、既にAI機能を搭載したソリューションやAI機能によって得られる成果について紹介されています。ERP老舗大手の独SAPは、次期ERPシステムであるS/4HANAの実行系システム(SoR)に対応する情報系システムとして、SAP Leonardo(エスエーピー・レオナルド)というソリューション群について紹介されています。SAPでは、機械学習やブロックチェーン、IoTといった膨大なデータを取扱う次世代のビジネス・アナリティクスの中にAI機能が組込まれています。(SAPでは、統合情報分析ツール:Integrated Business Analyticsと呼ぶ)このSAP Leonardoが提供するAI機能と役割は、ERPのデータベースに蓄積されたデータをリアルタイム分析して即時にシミュレーションを行いその予測を提案してユーザーへ最適な選択を提案します。AI機能の強みは、人間では処理できない膨大なデータを一瞬で処理してその結果から予測することですが、SAPではデータベースにAI機能を組込むことでその処理スピードをリアルタイムに行うことを目指しています。人間の役割は、データを収集・分析するといった“作業すること”から、ERPとAIがシミュレーションして提案した選択肢を“選ぶこと”へと変わります。これまで業務時間の大半がデータの検索、収集、分析といったオペレーション作業でしたが、これからは提案された選択をじっくり検討して選択することに時間を掛けることになります。『AIが人間の作業を奪うことになる』という人も多いようですが、誰でも出来るオペレーション作業しか出来ない人にはその通りなのかもしれません。しかし、仕事の大半には人の判断が必要とされていますから、人の役割が無くなる可能性は低いと思います。むしろ人手不足でもRPAやAIが作業処理を代行して、限られた人員で効率良く業務を捌くためには、こうした手段が有効だと思われます。AI機能の区分からも分かる通り、数値解析やシミュレーションなど機能は経営者や管理者に便利な機能を提供します。画像認識、音声認識、対話応答などは担当者のオペレーションを支援する機能を提供するでしょう。こうした機能を搭載した次世代ERPは、これまで以上のコスト削減や効率化に役立つ存在になることが期待されています。

□次回の内容

今回はAI機能を中心に、ERPのどのような機能と連携して謳歌が期待できるのかをご紹介いたしました。しかしながら、AI技術はまだ発展途上の技術であるため今後さらに幅広く活用されると思われます。また、国産ベンダのERP製品は日本の商習慣や業種対応に強みを持つことからAI機能を搭載した国産次世代ERPも期待できると思います。次回は、ERPを利用するユーザー企業の目線でAIベンダ動向やERPとAIの活用についてご説明します。

◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より

鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第8回「次世代ERPにAIが組込まれるとどんな効果が期待出来るのか」はいかがでしたでしょうか?

今回のコラムで話題に上がっている「SoR」と「SoI」は2018年のGRANDIT事業の方針にも挙がっているキーワードです。既に多くのお客様に採用されているGRANDITでもあるので、この辺りはしっかり対応されて行くのではないかと考えています。今後のGRANDITの展開にもご注目ください。

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