“DX”から“D→X”という考え方、外向きの“D→X”でエコシステムを広げる狙い

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム「ERP再生計画」第51回「景気後退に効くERPプラスワンの成長戦略ソリューション(その3) ~“DX”から“D→X”という考え方、外向きの“D→X”でエコシステムを広げる狙い~」をご紹介します。

□はじめに

 新型コロナウイルスの世界的大流行が続き、ロシアのウクライナ侵攻が終わらず、中国の習近平氏の強権体制による米中対立の長期化するなど、2022年はグローバル経済からブロック経済へ激動の1年となりました。さらに、温室効果ガス(GHG)排出による気候変動による災害や経営への影響も激化して避けられない状況が予想されます。こうした環境の激変は、世界大戦後70余年間では考えられないことです。2022年10月時点で、既に世界経済の景気後退は始まっていると言う経済学者やシンクタンクがあり、欧州と北米のインフレ傾向が続いていることから景気後退はやはり避けられないようです。日本国内は、日銀による金融政策が2023年春以降まで変わらないとすれば、超円安状態がまだしばらく続くと考える方が良いでしょう。日銀総裁の交代によって、日本の金融政策が変わる可能性は高いと言われていますが、いずれにしても2023年3月期の企業業績は厳しいものになると予想されます。これを前提に、当面の生き残り戦略から中長期的な成長戦略を並行して考える必要があります。その足掛かりとなるのが、これまで蓄積された経験とデータを活用できるDX人材を磨いて、激変する市場データの変化点を見極めることです。これまでとは違ったデータの変化・予兆が、変化と未来を予測する先触れとなります。あとは、あらゆるパターンのシナリオを想定しつつ、その予兆データを察知したら「機を見るに敏」に行動することです。機敏な判断と行動は、たとえ一時の判断が誤っていても動き続けることで次に進むべき道を見いだすことができます。データの変化を読み解くことは、マップに矢印を示すカーナビ同様に進むべきルートをガイドしてくれます。

■“DX”ではなく“D→X”(DデジタルからXゴールを狙う)という考え方

 前回は、「守りの体制によるコストと利益のコントロール」と「攻めの成長戦略をスピードアップする手段にデジタル活用する」というお話をしましたが、今回はもう少し具体的なシステム化、デジタル化の取り組みについてご紹介します。既にさまざまなメディアやオピニオンリーダーが、“DX”はシステム化やデジタル化は手段であって目的ではないと言っています。システム化が遅れている企業や、DXをシステム導入だと誤解した企業が数多く居たことは残念ですが、“DX”に対する理解が足りなかったことは良い教訓でありシステム化にはコストダウンや効率化などのメリットもあるため一応の効果は得られたと考えられます。こうした状況を招いたのは、“DX”の具体的なイメージが伝わりにくいことによるものです。例えば、“D→X”と表記して、“D”デジタルから目指すべきゴール“X”(各社各様のゴール)をデジタルで実現化することと説明すべきであったかもしれません。

さて、“D→X”を段階的に実現するためには、次の5つのステップがあります。

1,経営ダッシュボード構築(変化をリアルタイムに見せる)

 →経営ダッシュボードを作ってここに経営判断に必要なデータと変化を見せる化。

2,ペーパーレスに取り組む(業務処理のスピードアップと機動力アップ)

 →紙・Excelファイルは業務処理の手間とコストが掛かって処理スピードが遅い。

ペーパーレス推進の取り組みから始める。(タブレット/スマートデバイス導入など)

3,データの収集・統合・活用(見える化/見せる化。データから判断と行動を促す)

 →自社データ(ERP/PLM/MESなどや関連データ)の収集・統合・蓄積(データ基盤)

および公開データなどと組み合わせたデータ活用・サービス化。

4,サービス/アプリケーション開発の内製化

 →データ活用によるデータ分析サービス、顧客別アプリケーション開発・提供など。

 (内製化によってスピードとコストを最適化。ローコード/ノーコード、BIなど)

5,サービスの有償化・事業化

→企業ごとに異なる“X”(目指すゴール)を有償サービスで提供し事業化する。

  (他社との差別化、適正な価格、顧客ニーズへのきめ細かい対応など)

この5つのステップの1~3は、どの企業でも2,3年で可能ですが、4と5はお客様向けのサービス化とその事業化であるため中長期的な取り組みが必要となる。比較的取り組み安い領域は、既存顧客向けのアフターサービス&メンテナンス領域ですが、ここで目指す“X”は、他社製品を利用している顧客向けのアフターサービス&メンテナンスを横取りする“DXサービス化”です。“DXサービス化”で顧客の横取りに成功すれば、次のタイミングで確実に製品提供のチャンスを得ることができます。サービスは、お試し利用が可能であるためベンダスイッチのハードルが低く、製造業のみならず流通業や物流、サービス、通信など幅広い業種でも独自の強みを生かしたノウハウやアイディア次第でベンダスイッチのチャンスを掴むことが可能です。

(図表1、デジタル産業の業界構造:「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」より)

■企業間連携による外向きの“D→X”と連携の“D→X”でエコシステムを広げる狙い

(図表2,外向きDX・連携のDXによるエコステム拡大、その狙いは“価格戦略”)

 前述したアフターサービス&メンテナンスを有償化・事業化したその先にあるのが、企業個々の競合から抜け出して、複数企業間連携(業界向け)や異業種連携(社会基盤)によるエコシステムに加わってこれを広げることです。企業個々が製品やサービスで戦うと、通常は確実に過剰機能と低価格で互いにジリ貧となります。こうした不毛な争いから脱却するためには、同業者や異業種とのアライアンスを組んで共存共栄できるエコシステム構築・参画しかありません。互いの利害関係を理解しつつ、協業関係を構築するのは容易ではありませんが共倒れにならないためには、飢えないだあけの市場を確保するしかありません。安定して市場成長していたこれまでは、大企業を頂点とした系列でピラミッド型の組織が優位でしたが、これは「主従関係型」となるため統制が崩れた場合や、現在のように市場の変化が激しすぎて即応できない場合には脆い組織形態となります。市場の急激な成熟化や衰退も、同様に低価格競争による生き残りでさらに業界の収益性が悪化して共倒れを招きます。こうした状況では、スピードと柔軟性に富んだ変化対応力の高い「チームプレイ型」の合従連衡型組織を構築してチームで価格戦略に取り組み、利益確保して生き残りを狙います。以前日本がデフレ経済であった際には、商品価格を押さえてもコストが安かったためギリギリ利益が確保できました。しかし、スタグフレーション経済ではコストが急激に高騰するため価格据え置きだとあっという間に赤字となります。唯一の生き残りは、適宜値上げして利益を維持することですが値上げできる企業はごくわずかです。内向きのDXは、コスト削減や効率化までが限界ですが、外向きのDXによるエコシステムの構築・参画によってチームとして価格戦略を狙うことが可能となります。スタグフレーション経済下で、企業単独で生き残るよりエコシステムを広げて生存圏を広げて利益確保を狙うのです。

景気後退の局面における生き残り戦略とは、とにかく利益を維持できる生存圏を確保するサバイバル活動のようなものです。大企業の傘下に居るだけでは安定が保証されず、群雄割拠の戦国時代を生き残るしたたかな発想と、柔軟かつ機敏な行動がチャンスを広げることになります。だからこそ自らの強みを最大限活かすためのデータ、ERPや社内に蓄積されてきたデータとそのデータ活用を強みとする統合データ基盤、DX人材を磨く必要があります。この強みをサービス化して、最大限高く売るためにエコシステムの構築・参画という選択肢を考えます。ここまで読んで頂いた方にはもうおわかりだと思いますが、今回のテーマ“X”とは、利益を確保するための価格戦略を手に入れることです。

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