DXレポートからERPリニューアルを考察する

業界トップランナーである鍋野敬一郎氏のコラム「ERP再生計画」第25回:DXレポートからERPリニューアルを考察する を公開しました。

□はじめに

 最近システム関連で話題となっているのが、2018年9月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」で公開した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開』というものがあります。(通称“DXレポート”、DXとは、デジタルトランスフォーメーション:デジタル業務改革の意味)

 これは、老朽化した企業の基幹システムを放置することが企業の国際競争力を大きく損なうことに繋がるという内容のレポートです。「2025年の崖」というのは、企業が老朽化した基幹システムをそのまま更新することなく放置した場合、日本企業の国際競争力が低下して、その結果年間12兆円規模の経済的損失が生じる可能性があるという問題点を指摘しています。今回は、この“DXレポート”をテーマとして、企業がDXにどのように取り組むべきなのかと、その中心になる企業の基幹システムつまりERPシステムの再生とDXの実践をどのように実現すれば良いかについて3回に分けて説明していきたいと思います。

※経済産業省:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開、

URL:https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

■日本企業のDXが進まない理由は老朽化したERPにあるのか?

 経済産業省の“DXレポート「2025年の崖」”の内容について、簡単にまとめると次のように書かれています。

日本企業の基幹システム(ERPなど)は、老朽化していてその維持管理費が高額化してIT与点の9割以上にも及んでいる。(技術的負債)現在、こうした老朽化した基幹システムの約2割が構築から21年以上経ったものであり、2025年では21年以上経った古いシステムの割合は6割となり、これがデジタル化による競争力向上の足枷となることが懸念される。このままの状況を放置すると、既存システムのブラックボックス状態が解消されず、そのデータ活用が出来ないためDXを実現することが出来ない。欧米企業に対してデジタル競争の敗者となり、さらに2025年頃までに既存システムを構築・保守運用してきた担い手が定年などで退職して不在となり、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ消失等のリスクが高まり、2025年から2030年で年間に最大12兆円の経済的損失を生じる懸念があるという。これが、「2025年の崖」の概要である。

 現実には、日本でも大手の製造業や流通業を中心として近年ERPシステムを刷新する動きがみられることから、「2025年の崖」が懸念するほど悲観的な状況に陥ることは無いと考えられますが、日本企業の経営者が欧米や中国と比較してIT投資に対する理解度が低いことはDXに関する調査データなどから間違いないように思います。こうした状況を招いている背景として、日本企業におけるIT部門に対する低い評価と慢性的なIT人材不足という構造的な問題もあげられます。社内で優秀なIT人材を育成するのではなく、ベンダに依存してコスト削減を推し進めた結果、IT部門が既存システムを維持するだけで精一杯というレベルまで組織が弱体化してしまった企業も少なくありません。ベンダ依存度が高止まりするなか、AIやIoT、DXなどIT技術が企業競争力を左右する時代となり、社内にIT技術者が居ない企業が更にベンダへの依存度が高くなるという悪循環を招いています。

(図表1、経済産業書{DXレポート}サマリーより)

■日本企業の競争力の現状、なぜいまDXに取り組まなければならないのか?

 2019年度の日本企業の業績は良く、上場企業の3分の2が増収増益を達成したというニュースがありました。しかし、米中貿易戦争や消費税増税などによって製造業を中心に今後の景気が厳しい先行きになると予想されています。既に自動車や工作機械など、前年対比でマイナス成長となり、2020年度の業績は減収減益が予想されています。この1年間がターニングポイントととなり、ビジネス環境が激変する可能性があります。そこで、来るべき変化に備えて、成長戦略、競争力強化を狙いとしたDXに取り組むべきであるというのが、経済産業省の“DXレポート”の趣旨なのです。

 欧米や中国などでは、デジタル化への取り組みが進んでいて、新しいビジネスモデルやイノベーションが多数生まれています。その指標となるのが、ユニコーンと呼ばれる創業10年以内で時価総額が10億ドル(約1100億円)を超える非上場のベンチャー企業(テクノロジー企業)です。参考までに、調査会社CB Insightによる2019年9月現在の報告では、世界にあるユニコーン企業は402社で、その国別の内訳は次の通りです。

※出所:CB Insightホームページより、

URL: https://www.cbinsights.com/research-unicorn-companies

・国別のユニコーン企業の数

第1位:米国195社 
第2位:中国97社 
第3位:英国19社 
第4位:インド19社 

ちなみに、日本は、PFN(AIベンチャー)、Liquid(仮想通貨取引)、スマートニュース(ニュースアプリ)の3社のみです。この状況を見る限り、日本の競争力はそれほど高くない、というよりかなり低いことが分かります。その理由としてあげられているのが、日本企業はデジタル化による競争力強化を苦手としているという指摘があります。

 このユニコーン企業の数を見ても、日本企業の競争力が予想以上に低いことが分かります。さらに、ここ10年間の世界と日本の時価総額の伸び率で比べると、驚くべきことに世界の時価総額トップ10がこの10年間で約1.6倍(3兆6090億ドル→4兆8550億ドル)成長しているのに対して、日本では約1.1倍(85.3兆円→94.1兆円)しか成長していません。日本は、成長力のある新興企業が登場せず企業も社会も成熟、衰退しつつあるのかもしれません。もちろん、その理由が老朽化した基幹システム(ERP)だけにあるという訳ではないのですが、何らかの打開策や刺激が必要なのも事実です。また、日本におけるERP普及は、国産ERPが登場した2005年以降であることから、ERP導入から10年~15年となる改修時期を迎えていると考えられます。当時は、管理会計を狙いとした会計に偏ったERP導入が主流でしたが、現在では販売管理、購買管理、物流管理など会計のみならず業務全体を網羅するERP本来の利用が主流となっています。また、現在ではあたりまえとなったクラウドやモバイルへの対応も必要となっています。

(図表2、なぜ「DX」に取り組まなければならないのか?)

■なぜ『2025年』なのか?ERPリニューアルの鍵は『クラウドとデジタル』

 経済産業省の言う通り老朽化した基幹システム(ERP)を刷新するとして、まず何からどのように手を付ければ良いのでしょうか。2025年まで、残すところあと約5年間あります。2025年に保守期限切れとなるSAP ERPのユーザー企業は、既に否応なくその決断を迫られていますが、SAPユーザー以外の企業もDXへの取り組みは同じく喫緊の課題だと言えるでしょう。IT人材が不足するなか、ERPのリニューアル(再生)とDX戦略への取り組み(デジタル化による競争力強化)両方を並行して進めたいところですが、リソースも限られているため堅実かつムダの少ないアプローチが求められます。

 DX戦略とは、これからのデジタル時代をにらんだ競争力強化による成長戦略を考えることを意味します。その課題の中心にあるのが、基幹システム(ERP)なのです。国内においても自動車関連の製造業では、基幹システムを刷新するプロジェクトが多数動いています。厳しい競争が続く自動車業界では、自動運転車やカーシェアリング、MaaS(モビリティ・アアズ・ア・サービス:情報通信技術を活用して自動車や鉄道など全ての交通手段による移動を1つのサービスとして捉えシームレスにつなぐ新しい『移動サービス』の考え方)など新しいサービスやソリューションがこれからの市場構造を大きく変革すると予想されています。従来通りの発想で自動車を製造するだけでは、生き残れない時代が目前に迫っています。製造業がサービス化して、市場が求めるニーズがモノからコト(サービス)へ変わる軸となるキーワードが、『クラウドとデジタル』です。クラウドを利用することで、システム開発と運用のコストと時間を大幅に低減することが可能となり、クラウドに蓄積された膨大なデータをAIで解析した新しいサービスやビジネスモデルを生み出すことが出来ます。ERPに求められる機能は、会計処理や生産管理といた業務の効率化やコスト削減だけではなく、ERPや他システムなどに収集・蓄積されたデータをAIなどで解析して、その結果をサービスとして提供する仕組みのコア機能を担う役割が求められています。

つまり、まずERPを『クラウドとデジタル』に対応させるところから始める必要があります。ERPの保守運用に掛かる作業負荷を減らす手段として、システムをクラウド基盤へ移行(シフト)することで、物理的なサーバ管理業務からIT要員の負荷を減らすことが可能となります。ここで、AIやRPAを利用すれば保守運用のオペレーションを部分的に自動化することが出来ます。ERPをクラウド基盤上へ移行することで、周辺システムの見直しや運用作業の省力化が可能となるため更なるコスト削減にもつながります。また、クラウド上に基幹システム(ERP)を置くことで、5年後とのサーバ保守契約の制約から開放されるため、ERPシステムの刷新や再構築の柔軟性や選択肢が広がります。頃合いを見て、老朽化したERPシステムをリニューアル(シフト)するチャンスを増やすことが可能となります。次回は、ERPシステムを『クラウドとデジタル』でリニューアルするこの『リフト&シフト戦略』についてご説明いたします。

(図表、なぜ『2025年』なのか?)

◆このコラムについて
ビジネスコンサルタント 吉政忠志氏(吉政創成株式会社)より

鍋野敬一郎氏の「ERP再生計画」第25 回「DXレポートからERPリニューアルを考察する」はいかがでしたでしょうか?今回はDXと2025年の崖について書いていただきました。これらを乗り切る前提にクラウドERPへの移行があると思っています。具体的な話については実績豊富な日商エレクトロニクスのコンサルタントにご相談ください。良い提案ができると思います。

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このコラムを連載いただいている日商エレクトロニクスでは先駆者としてRPAの自社導入にも取り組んでおり、経営企画部、財務経理部、人事総務部の3部門でRPAをGRANDITE連携で導入し、ROI 590%と770万円のリターンを実現しています。そして成功事例の分析資料も以下のセミナーレポート内で公開しています。興味がある方は是非ダウンロードください。こちらにはガイドライン的なものも書かれています。

【レポート】ERP勉強会 次世代ERPに求められる条件
https://erp-jirei.jp/2018/03/23/semi-35/

以上

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